土地は余っているそうです
二人の反応に内心嬉しく思っている私に、黙って話を聞いていたディビッドが尋ねて来ます。
「大陸のこちら側は来た事ないから、どれだけの距離が有るか知らないけど、話を聞く限り、尋ねる国がすぐ隣って訳じゃ無いんだよな。
移動はバスを使うとして、さっさと行って帰ってくるにしても、結構日数かかるんじゃないのか?
チャックってジョニーから魔素の供給受けてるんだよな?
そんなに離れて大丈夫か?」
ディビッドにもざっくりとチャックの説明をして、毎晩一緒に寝る理由も話してあります。
なのでチャックの事を心配してくれているみたいですね。
「バスで移動するなら、人族の国まで2日、そこから北の森まで3日、ここに戻って来るのに4日、と言う所でしょうか。
最速で走ってもらえばもっと短縮出来ますけど、それでも4、5日かかるでしょう」
ずっと走りっぱなしと言うわけにはいきませんし、途中休憩も必要でしょう。
ポニー達に無茶はさせたくないです。
でもそうすると、チャックへの魔素の供給が心配ですね。
別に死ぬ訳ではないですけど、体調不良くらいはおこしそうです。
チャックを心配する私の顔色を見て、呆れた声を上げたのは、
「我が飛んで行くに決まっておろう」
ブルースでした。
え?決まってるって、今までそんな話出てないですよね?
それに……
「なに、ルシーとヨーコーにバレなければ問題ないだろう」
あ、やはり家族以外には秘密の方向ですね。
勿論城に勤めている人達や、城下町の方々にも知られない方がいいでしょうけど、吹聴して回る人はいないでしょう。
「何か有るんですか?
私が聞いても良い事ですか?」
ディビッドはブルースには敬語なんですね。
最強生物ですから、畏れが有るのでしょうね。
アインがディビッドに説明してくれている間に、ブルースが教えてくれたのですけど、ちょっと本気を出せば、あっという間だそうです。
「夜明け前にここを出ると昼には人族の国へ着くだろう」
「先触れを出しとけば面会はすぐにできるから、サクッと話して昼過ぎに人族の国を出ても、日付が変わる前には北に着くんじゃないかな」
「面会は翌日になるだろうが、その日のうちに戻って来れるぞ」
さすがブルース、最強で最速ですね。
バスで9日の日程が、王様トカゲにかかると、一泊二日で済むのですか。
………早過ぎませんか?
一日くらいでしたら、チャックも問題ないでしょうし、ルシーを誤魔化すのも簡単でしょう。
置いていかなければいけない白雪も、一日だけ我慢ですね……私が我慢する立場ですが。
先触れを出してからの出発ですので、三日後に出発することになりました。
それまでに、町をつくる候補地をいくつか考えておく事にしました。
大雑把に地図を描くと、アインの城とコニーの城はほぼ対角線上にあり、その線上の少し西寄りに人族の国が、線上中央より少し東寄りの北に、北の森の王の城となります。
その北の森の王の城の真南に港の街が……ロスフォータの領地を二分する横線の中央あたりに、うっすらとくの字の主要街道が有り、その街道に沿って大きな街が有る、と。
その街の近辺に、小さな町や村が有り、農場や牧場、果実園が有ったり、その近くにある森や山には木こりや猟師の暮らす村が有ったり。
つまり、人の住んでいる場所は案外固まっていて、ロスフォータの領土の4分の1 程なのだそうです。
山や森、川や林や谷など、人が住むにはあまり向いていない場所が4分の2 程、残りは無駄に土地が余っているそうなのですが、開拓したり、街道を通したりする手間暇や金銭的な事情を考えると、住む場所は足りているので、わざわざ手を出す必要がないそうです。
この世界は人口があまり増えないから、新しい土地は必要ないと言う考えなのだそうです。
一番寿命が長い魔族は、長生きするからこそ、子供を作り、後を継がせる事は考えず、一代で終わることもしばしば。
獣人は元になっている動物によりますけど、寿命が短いのと、多産の割には色々有って人口が増えないそうです。
色々って……番が見つからず生涯独身だったり、番以外でも世帯を持つ方もいらっしゃり、女性を巡っり決闘で亡くなったり(死ぬまで争わなくても…)無茶な狩りで事故に遭ったり(一人で魔獣の群れに挑むのはもはや自殺行為かと…)など、獣性が強い程長生きできないみたいです。
亜人(ここで言う亜人は名付けで変わった方々です)は、結構一人で過ごす方が多いそうです。
チャックで例えると、結婚相手はマネ鳥のメスなのか、人族や獣人の女性なのかと悩んでしまい、結局生涯一人でいる事になるそうです。
人族は寿命は獣人に比べると長いですけど、妊娠しにくい、一度で一人しか生まれない確率が高い、妊娠期間が長く、その間に問題が発生することがある、出産時に母子共ども儚くなることが多い、子供が産まれても育ちにくい……などの理由で増えにくいそうです。
また、この世界では同性婚も普通でして、余計に人口が増えないと。
勿論結婚される方も普通に居ますよ。
位持ちの方々は、多種族の血が混じるのを嫌う傾向にあるそうですが、一般の方々は、種族を超えて結ばれる方も多いそうです。
ただ、いろんな理由で人口は増えにくいと。
人口が増えると、住む場所の確保、食べ物を確保、燃料の確保…などなど、土地が必要となりますけど、増えにくいとなると、必要ではなくなりますし、必要以上の土地があっても、労働力には限りがあります。
なので、開拓は街道近辺だけで、あとは手付かずの土地が多いのだそうです。
そんな手付かずの土地で、いくつか場所を挙げてもらい、私が選んだ場所は、人族の国と港町の間の場所が第一候補、第二候補が北東の、コニーの山脈と北の森の中間地点の二箇所です。
どちらもダメならその他で、空いている土地を貰い受けましょう。
ジョニー「……ちょっと気になると言いますか、疑問なんですけど…、鳥の亜人の方は卵生ですか?」
アイン「…………亜人は人の亜種ですよ、卵を産むはずないじゃないですか」
ジョニー「ですよねー」
ブルース「卵は腹の中で育てるに決まっておろう。
産み出すと危険だろ」
ジョニー「え?お腹の中で卵を育てるのですか?
お腹の中で卵が割れたら、内臓傷つかないですか?
卵の殻はそのままお腹の中に残るんですか?」
ブルース「それはな……」
ブルースの言葉を真剣に聞くジョニー
アイン「………(なぜ信じることができるのでしょうね)」