介抱…または餌付け?
「何があった?」
「大丈夫ですか?」
声がした方を見ると、ブルース達とアインが駆け寄って来ています。
少しほっとしました。
「この方に少しぶつかったのですけど、倒れてそのまま気を失ってしまったのです」
状況を告げると、チャックは大きく息を吐きました。
「アンタに何かあったわけじゃないんだよね?」
「ええ、私はびっくりしただけです」
どうやら私の驚きが伝わってしまい、戻ってきた様ですね。
「父ちゃんどうしたの?」
「ジョニー、何かあったのか?」
シナトラ達も走って来ました。
「ちょっと、二人とも急になんなのよ」
ルシーも戻ってきました。
シナトラ達にも説明をして、このままここに居ても仕方ないので、男性を警備の詰め所なり、診療所なりに運ぶことになりました。
この世界には病院は無いです。
薬局代わりの薬師の方や、回復魔法を使える方が診療所を構えているので、怪我人や病人はそちらで診察してもらえます。
つまり、大きな怪我や重い病気に罹ってしまうと、薬師の腕や、回復魔法の熟練度によっては助からない事もあります。
私やブルースも回復魔法は使えますけど、怪我や病気には気をつけないといけませんね。
街ゆく人に診療所の場所と評判を聞きましたけど、腕の良い回復魔法を使える方が居る診療所が、街の中心部にあるそうですので、そちらへ向かいました。
「んー、鑑定してみたけど、空腹と衰弱だね。
ご飯食べてゆっくり寝たら大丈夫だよ。
回復魔法で疲労の回復と、小さな傷の治癒はしとくけど、後は食べさせて寝かせて」
診療所の先生?は、若い女性の方でした。
先生の鑑定は、身体の悪い所を感知できるそうで、手を当て鑑定すれば、内臓の疾患や骨の異常までわかるそうです。
CTスキャンやレントゲンみたいな能力なのですね。
とりあえず大きな怪我や病気ではなくて良かったです。
「それで、この見知らぬおじさんをどうするの?
このまま外に捨てて行かないでよね」
眉間に皺を寄せて言われました。
私達がホームレスに危害を加えて、気を失ったのに驚いて運んできた、と見えなくも無いですからね。
大丈夫だと分かったら、その辺に放り出すとでも思ったのでしょうか。
それとも野良猫を車で撥ねた人が、動物病院まで連れて行って、そのまま建物の外に置き去りにする、みたいな感覚ですかね。
「空腹などで気を失ったのだとしても、倒れたきったけは私にも有りますから、このまま宿へ連れて行って、ゆっくり休んでもらおうとおもっています」
私の言葉に先生は、まるでアメリカ人の様に、広げた手のひらを上に、両手を肩まで上げて鼻で笑いました。
「物好きなことで」
会計を済ませ、私達は宿へ向かいました。
男性はまだ気を失ったままなので、ブルースに運んでもらっています。
なんでしたっけ……お姫様抱っこ?
アレで運ばれるのはご遠慮したいですよね。
部屋は四人部屋二つ、私とチャック、シナトラと白雪で一部屋、男性とアインとブルースとディビッドで一部屋、後はルシーの部屋です。
男性は私の部屋で、と言ったのですけど、何があるか分からないからと却下されました。
あんなに痩せ細った方に暴れられたとしても、取り押さえることはできると思うんですけどね。
ディビッドに白雪とルシーとシナトラを預けて(ルシーとシナトラが白雪と同じ扱いみたいですよね)、アイン達の部屋へ集まります。
男性にクリーンをかけて、ベッドへ寝かせます。
「なかなか目を覚まさないね」
「倒れた時に頭を打った形跡もないそうですから、気を失っているというより、寝てるのかもしれませんね」
「で、これからどうするのだ?」
ブルースに聞かれたので、とりあえず気がついたら食事をさせて、ご家族の元へ送り届けようと思っていると伝えました。
「でもこの方、ご家族がいらっしゃるのでしょうか…」
居なさそうに見えますよね…。
「警備の詰め所にでも連れて行けばよかったのではないのか?」
「でも気を失ったままですと、あらぬ疑いをかけられるかもしれません。
気がついてからの方が良いと、私も思いますよ」
そうですよね、ひとまずは気がついてからですよね。
そのままそこで、これからの予定などを話し合っていると、ベッドへ寝かせていた男性が気付きました。
「あ、気づかれましたか。
大丈夫ですか?」
声をかけると男性は飛び起き、私達を見ると怯えた様にベッドから転げ落ち、そのままベッドの向こう側へ隠れてしまいました。
目が覚めたら見知らぬ場所で、知らない男性に囲まれているのですから、ビックリしても仕方ないですよね。
「大丈夫ですか?
街でぶつかって気を失われたので、ここで休んでもらったんですけど、気分は悪くないですか?」
驚かせない様に声をかけると、
「ぐぅぅううう」
お腹の音で返事をされました。
「お腹空いているんですよね、お粥さんたべますか?」
白雪に作ったお粥さんの残りを、チルド室から出して、リンに温めてもらうと、ほんのりとお出汁の匂いが部屋に漂いだしました。
「ぐぅぅぅぅぅう、キュルルルルルルル」
盛大なお腹の音が聞こえてきますけど、まだベッドの陰から出てきません。
器に移したお粥さんに匙を挿し、ベッドの上へ乗せました。
この世界のベッドは、板に毛皮を敷いた上にシーツを掛けているだけです。
スプリングも無いし、マットも無い、フワフワの布団も無いので、ひっくり返る事もないでしょう。
暫くすると、ベッドの陰から手が伸びてきて、器が向こう側へ消えました。
カチャカチャと器にスプーンが触れる音が聞こえてきますので、お口に合った様ですね。
食べ終わった男性は、おずおずとベッドの陰から顔の上部を覗かせました。
その瞳はアインと同じく、オッドアイですね。
色はグリーンとブラウン……Dボウイと同じですよ、こちらの方の方が少し明るいですけど。
「あ……あの…………ありがとう…ございました」
お礼を告げてきたその声は、ガラガラに掠れています。
「お代わりをと思うんですけど、空腹時にたくさん食べるのは体に良く無いですから、ホットミルクはいかがですか?」
蜂蜜を入れたホットミルクをベッド越しに差し出すと、おずおずと手を伸ばしてきました。
ルシー「ん?何か食べ物食べてる気がする!」
シナトラ「(クンクン)あ、これあのゲロの匂いじゃない?」
ルシー「あの白いヤツね」
シナトラ「ズルい!僕も食べる!」
ルシー「私も!」
ディビッド「…窓の向かい側に食堂が有りますから行こう。
お粥さんより腹が膨れると思う」
シナトラ「そっての方が良い!」
ルシー「私も!」
ディビッド「(白雪より二人の方が手が掛かる気がするのは、気のせいじゃないよな)」