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広大な大地で連なる三つの国が肩を並べるこの土地、そのうちの一つアストレイヌ国にて立川渼羽は新しい灯火を宿した。
アストレイヌでは人間以外の私を始めとする天空族やエルフ、ドワーフ、獣人等幅広い種族が多種多様な暮らしをしながら在住している。
他国の様な君主制や貴族制ではなく民主政を採用しており、種族による差別や偏見をなくし1人を一国民として考え町や村を発展させていった。
豊穣の神を称え農業に盛んで、エルフや獣人達の膨大な知識で科学も発達した。
極めて近代に近い暮らしであったため、心の中で異世界やるじゃかいかと少し関心をしたものだ。
その中の花と麦の都エフルィナで、生まれ育ちかれこれ12年が過ぎようとしていた。
「イネスゥウウウウ!!」
「どうした、アンジュ?」
新しくアンジュ・キャロラインという名を授かった私は、泣きながら友人のイネスに抱きつき泣きじゃくっている。
「私の事かわいいって言ってくれた狐さんいたじゃない?……」
「あー、先週の事だね」
「それ以降あの人の事が気になってて……」
「(チョロいなぁ~)それで?」
「さっき告白しようとしたら……」
「無理だったんでしょ?昨日、彼女できたって周りに自慢してたもの」
バッサリとイネスの口から出る結論に、またもやショックで号泣しだす。
それもそのはずアンジュは生まれてからこの年まで彼氏はおろか、告白すらまともに出来ないでいる。
前世も含めるとそろそろ2桁いくのでは?という数に、幼いながらに恐怖で心を痛めている。
「元気だしなよ、別にアンジュが悪いって訳ではないんだよ?」
そうなのだ、この新しいアンジュという体は以前の私と比べると桁違いに美麗なのである。
天空族では珍しいオパールの輝きを持つ透けるような白髪、小麦畑を連想させる稲穂のような金色の瞳、陶器のように滑らかな肌に薔薇が咲いた様に上気する頬、熟れたチェリーを思わせる艶やかな真朱の唇。
比べて見ると月とすっぽんならぬ月と泥水、いや、喪女だったし汚物かもしれない……
とにかくそれぐらい見目の差がありながらこれだけ恋愛運がないというのはもう転生時に告げられた天使だから、という以外他ならない。
「まあしいて悪いとすればタイミングかな?」
そう言ってくるイネスは肩甲骨まで切り揃えられた金髪を耳に掛け、エメラルドの様な瞳を悪戯っ子の様ににやりと歪めた。
「だとしても女の子褒めた翌週に別の女の子と付き合うってどうなのよ……?」
再び溢れ出る涙を抑える代わりに鼻水が出てきてしまい、すすった時には時すでに遅くイネスの制服のワンピースにくっついてしまった。
「ちょ、きったな」
「え、ひどっ……」
アンジュの頭を物か何かのように粗雑に持ち、鼻水がついたであろう部分を懸命に拭くイネス。
「ごめんってば、まあ、いつも思うけど男運がなかったってことで、気持ち切り替えなさいな?」
そう言って先程とは変わって優しい手付きでアンジュの頭を撫でてくれるイネス。
なんだかんだで最後は優しくしてくれるそういう所が好き、って心の中でアンジュは思っても口に出してはあげない、ちょっとした仕返しの様なものである。