導入
今思えば私は何時もこうだった。
人生で初めて好きな人ができた小学3年生の時も、クラスで1番可愛いと言われる女の子がその子を好き、と言うので自分に自信がないから諦めた。
2番目に好きになった中学の先輩も、同級生の子から恋愛相談を受けた事で恋心に蓋をした。
3番目も4番目も、全部過程は違えど結果は同じ、私ではない誰かは全員結ばれるのだった。
おかげで30歳になった今でも彼氏が出来ない私にについた名前は
<恋のキューピッド様>
知らない間についた二つ名を聞いた時には思わず、処女の喪女になんて相応しくない名前なのだろうか、と我ながら呆れて鼻で笑ってしまったものだ。
そんな私が事故に遭って呆気なくそのままお亡くなりになるもんだから、現在神と名乗る者が私の前に現れてとても難しい顔をしている。
「え、君死んじゃったんだ……」
「死んじゃダメでしたか?」
「ダメじゃないけど、こっちとしては予想外だよ」
「予想外……?」
神曰く、私が今まで行っていた恋愛に関する行動が、正に天使の仕事だったらしい。天使達が動くよりも先に私が相談を受けたり応援したりする事で、彼らが恋の矢を引くよりも早く結ばれるらしい。
いや、天使達が行動遅いだけなんじゃともおもったが、聞いてみれば日本で仕事をする天使の数はたった5人。
5人で仕事を回すなんてそりゃ難しいわ、天使達を少しだけ哀れむ。
そんな中、今年日本に新しく10人の天使が新卒として異動してきたらしく、それと同時に私はお陀仏したらしい。
「……で?つまりどういう事なんですか?」
「君は人間にして天使という括りになっていたという事だよ」
日本を含む各国で雇える天使の上限人数が15人らしい。新卒を採用した事でその上限を逹し、人間であるにもかかわらず天使の括りにされた私は不要となり弾かれた。
つまりは知らない間にクビって事だ。
「勝手に働かされてクビで殺されるって、どんなブラック企業なんですか」
「僕に言われても、イレギュラーだしなあ。対応マニュアルにも載ってないから分かんないや」
そんなイレギュラーなら先ずは上司ならぬ上神に報告しろよ、報連相もできないのか天界は……
そんなダメ社員、もとい駄神が無駄に透き通り輝く白髪をポリポリと掻きながらうんうんと唸る事5分。
「よし、異世界転生しよっか」
「はぁ?」
あまりにも予想外な単語に思わず神という崇拝するべき存在であろう駄神に、素っ頓狂な声が漏れてしまう。
「幸いにも違う部署の世界には空きがあったはず、そこに申請して天使として改めて転生させよう!」
「いや、別に天使じゃなくても良いんですが……」
「もう君の魂は天使としての魂だから、普通の人間には降格出来ないよ」
「Oh……」
私は完全に天使という種族になってしまったのかと思うと、なんとも言えない気持ちが体を蔓延っていく。
「まあでもいきなり天使として働くのは大変だと思うし、同期が担当する世界に天空族っていう天使の様な人種がいる。そこに転生しよう」
遂には勝手に私の転生先や人種などが事細かく決められていき、そろそろ後戻りが出来ないのではないだろうか。
「あの、私そこに行くとは一言も……」
「よし決まりだ!汝、立川#渼羽__みう__#に命じる!」
おい、人の話を聞けこの駄神
「日本神恋愛課アモルハイルの名において、異界の門を潜ることを許可する!そして天使の生まれ変わりになり世を幸せに導き出すのだ!」
「えぇ……」
勝手に使命を作り人の話を聞かない駄神ことアモルハイルに、若干の引き笑いと感嘆を漏らしながら私の視界はそのままホワイトアウトしていくのだった。