68話 新たな力
パァンッッ!!
そんな音ともにオーギュストとティオの間に《ベルゼプロテクション》が展開。
オーギュストの放った斬撃を阻む……が――
バキンッ! と音を立て《ベルゼプロテクション》は砕かれてしまう。
七魔族の力を手に入れオーギュストのパワーは凄まじい。
しかしすぐさまティオはその場から飛び出しオーギュストの攻撃を躱すことに成功する。
『ちッ、今の攻撃を凌ぐか』
面白くなさそうな表情を浮かべ舌打ちをするオーギュスト。
対しティオは――
「《ブラックブザートラップ》!」
先の七魔族との戦いの後に手に入れた新たなEXスキルを発動する。
次の瞬間、ティオを中心に数メートルの範囲に黒い霧のようなもの立ち込める。
『何をしたのか知らんが、今の俺には関係ない……ッッ!』
吠えるオーギュスト。
次の瞬間、彼の姿が再び掻き消える。
どうやら先ほどのように瞬間転移のスキルを使ったようだ。
「ティオ殿!」
「ティオ様!」
ティオの身を案じ、ダリアとアイリスが声を上げる。
先ほどは辛うじて回避に成功したが、その次は……
二人がそんな想像をした次の瞬間だった。
「ここだ!」
ティオは真横に向かって右の拳を突き出した。
その刹那、オーギュストが何もない空間から現れその土手っ腹にティオの拳が勢いよく突き刺さる。
『ガハァ――ッッ!?』
目を見開き、その場からよろめきながら後ずさるオーギュスト。
いったい何が起きたのかわからない……そんな表情だ。
ティオが発動したE Xスキル《ブラックブザートラップ》――
その能力は効果範囲内にいる生物の魔力を感知するというものだ。
オーギュストの転移能力は厄介だが、ティオはその魔力を感じ取ることで、オーギュストがどの位置に出現するか予知したわけである。
「さすがティオね!」
「やっぱりティオさんはすごいのです〜!」
リリスとフェリスが後方で興奮した声を上げる。
【さすがマスターだ。能力を手に入れたばかりだというのに完璧に使いこなしているな】
パワードスーツと化したベヒーモスも、ティオに称賛の言葉を送る。
「さぁ、いくぞ……!」
フルヘルムの下からくぐもった声で言うと、ティオはその場を飛び出した。
オーギュストに向かって、ゴウ――ッ! と拳を振りかぶる。
『当たるかよ!!』
すかさず転移するオーギュスト。
しかし――
「《ブラックバレット》ッ!」
斜め後方に向かって複数の魔弾を放つティオ。
するとその場所にオーギュストが出現し正面から攻撃を浴びる。
『グアァァァァ――ッ!? こんなことがッッ!!』
まともに攻撃を喰らって悲鳴を上げるオーギュスト。
恐らく態勢を立て直すためにティオから距離を取ろうとしたのだろうが、《ブラックブザートラップ》の中では全てお見通しである。
「さぁ、諦めてぼくに討伐されろ」
そう言って、宙に三本の《ブラックジャベリン》を浮かべ、オーギュストを見据えるティオ。
例えオーギュストが凄まじい生命力を手に入れようとも、純粋な威力で攻撃されればひとたまりもないであろう。
『くッ! こうなれば!』
そう言ってオーギュストが右手を突き出す。
すると禍々しい色をした巨大な魔力の玉が現れたではないか。
【凄まじいエネルギーだな】
「そうだね、ベヒーモス。このまま《ブラックジャベリン》で攻撃しても、あの攻撃に飲み込まれてしまいそうだ」
オーギュストが作り出したエネルギーの塊を見て、ベヒーモスとティオがそんなやり取りを交わす。
『何をブツブツ言ってるか知らないが、ここで貴様は終わりだッッ!』
そう言ってオーギュストが魔力玉をティオに向かって放つ。
凄まじい速さ、そして威力だ。
ティオのいた場所をあっという間に飲み込み、そのまま数十メートル先まで木々を消し飛ばしてしまった。
しかし……
「《ブラックジャベリン》――」
オーギュストの背後からそんな声が聞こえる。
バッ! と振り返るオーギュスト。
その体を三本の漆黒の魔槍が貫いた。
『ゴハ……ッ!? ば、馬鹿な……貴、様……何を、した……?』
口から大量の血を撒き散らしながら声を漏らすオーギュスト。
その視線の先にはティオの姿が――
「い、いったい何が起きたのですか!?」
「敵の攻撃に飲み込まれたと思ったら、ティオ殿がその背後に現れた……?」
オーギュストと同じく、驚愕! といった様子で言葉を交わすアイリスとダリア。
そんな二人にベルゼビュートが不敵に笑いながらこんな説明をする。
「マスターの発動したE Xスキル、《ブラックブザートラップ》には相手の魔力を読み取る効果があるわ。マスターは何回かオーギュストが転移能力を発動する時の魔力の流れを感知することで、それを完全に把握。そして魔力の流れを再現することで転移能力を得たのよ」
と――
「す、すごい!」
「さすがティオさんです〜!」
ベルゼビュートの言葉を聞き、リリスとフェリスも大興奮だ。
「さぁ、これで終わりだ」
ティオが長杖をオーギュストに向ける。
『待っ――』
言葉の途中で、オーギュストは漆黒の魔槍に心臓を、ドパンッッ!! と貫かれた。
「ま、まさか、七魔族の力を宿したオーギュストを、こうも圧倒するとは……」
頬をピンク色に染めたダリアが、潤んだ瞳でティオを見つめるのであった――。




