1話 勇者パーティ追放後に思い出した前世の記憶
「ティオ、あなたはクビよ。この勇者パーティから出て行きなさい?」
「え……?」
突然の少女の言葉に、少年は意味がわからない……といった様子で、きょとんとした表情を浮かべる。
前者の名は〝アイラ〟――
人々を救うため、救世の旅を続ける女勇者だ。
黒の髪を腰まで伸ばし、少しキツそうな印象を与えるが、美少女と呼べる容姿をしている。
後者の名は〝ティオ〟――
アイラの騎士として、彼女とともに救世の旅をしている少年だ。
その髪と瞳の色は黒、その容姿は一見すると少女のように愛らしく、どこか幼さも感じさせる。
「アイラ様の言っている意味がわからないか、ティオ? もはやお前は用なし、足手まといなのだよ」
アイラの横から、ティオに語りかける青年。彼の名はルシウス――
ティオと同じく、アイラが率いる勇者パーティの一員であり、役割は白魔術士だ。
「…………っ」
ルシウスの発した「足手まとい、用なし」という言葉に、思わず息を漏らすティオ。
アイラとティオは幼馴染だった。
二年前、アイラは女勇者の〝クラス〟を得た。
そして時同じくして、ティオは騎士のクラスを得ることとなる。
クラスとは、戦闘に特化した特殊な能力の総称だ。
クラスに目覚めた者は、そのクラスの名に因んだ〝戦闘スキル〟を習得することができる。
女勇者のクラスを得たアイラは、国からの要請により、救世の旅に出ることとなる。
そして幼馴染の彼女を守りたい……その一心で、騎士のクラスに目覚めたティオも旅立ちを決意した。
そんな旅の中で、ルシウスがパーティに加わることとなった。
ちょうどその頃から、アイラとティオの実力に差が開き始めた。
クラスには力に大きな差があり、下級、中級、上級、超級と大きく四つに別れている。
アイラの女勇者は超級クラス、対してティオの騎士は中級クラス。
成長をする過程で、大きく差が開いてくることは必然だった。
ちなみに、ルシウスの白魔術士は上級クラスである。
一応、教会や冒険者ギルドと呼ばれる場所などで、他の適性のあるクラスに〝クラスチェンジ〟するという手もあるが……あいにく、ティオが選べたのは今の騎士のクラスか、〝底辺職〟と馬鹿にされる最弱の下級クラスである〝黒魔術士〟のみだった。
「その様子だと、もう自分が足手まといだと気づいているみたいね?」
「そ、それは……」
アイラの言葉に、黙り込んでしまうティオ。
彼とて、自分が足手まといになり始めていると気づいていたのだ。
気づいているからこそ、何も言い返すことができない。
「ティオ、これ以上アイラ様の邪魔をする気か?」
「ルシウス……わかった、出て行きます……」
全てを諦めたかのような表情で、小さく頷くティオ。
大切な幼馴染であるアイラ――
彼女を、世界の人々を守るために旅立ちを決めた。
しかし、彼女の邪魔になってしまうならば……と、パーティを追放されることを選んだのだ。
「アイラ、ルシウス、救世の旅……頑張ってね」
最後に無理やり笑顔を浮かべると、ティオは二人に背を向け歩き出す。
そんな彼の背中を、アイラは複雑そうな表情で、ルシウスはニタニタと嗤いながら見送った。
その日の晩――
(寝よう……)
ティオは食事もとらず、宿屋のベッドに沈み込んだ。
失意のあまり、何もする気が起きないのだ。
今まで中級クラスが上位クラスについて行くような、無理な旅を続けていた疲れのせいだろうか、眠りはすぐに訪れた。
そんな眠りの中、ティオはとある夢を見る――
◆
『……魔神たるこの私を追い詰めるとは……。貴様、何者だ?』
「我の名は〝シュヴァルツ〟……。世間では魔導王――などと呼ばれているな」
禍々しいオーラを纏った、赤銅色の肌をした魔神を名乗る男。その体の至る所に傷を負っている。
対し、シュヴァルツと名乗った漆黒のローブを纏った男が、涼しい顔で答える。
『魔神である私を前にして、魔導王だと? ふざけたことを……ッ!』
激昂する魔神。
そのまま天に手をかざすと、シュヴァルツ目掛けて紫色の魔剣が降り注ぐ。
「無駄だ、《ブラックリパルサー》……ッ!」
シュヴァルツが叫ぶと、彼の頭上に漆黒の魔力盾が現れた。
降り注ぐ魔剣を、全て消滅させていく。
『ば、馬鹿な……これも全て防ぐだと……』
「これで終わりだ。〝黒魔術〟――《ブラックロンギヌス》ッ!」
呆然とする魔神を前に、シュヴァルツは漆黒に輝く美しき魔槍を顕現させた。
そして魔槍が辺りを覆い尽くすような光を放ったところで――映像は途切れた。
◆
翌朝――
「思い……出した」
そんな声とともに、ティオは目覚めた。
数百年前、人類を滅亡の危機に陥れた恐怖の存在――魔神。
そんな魔神を、たった一人で滅した魔導王と呼ばれる存在がいた。
夢を見ることで、ティオは思い出したのだ。
魔神を討滅した魔導王シュヴァルツ。
それが自分の前世であったという事実を――
「こうしちゃいられない。黒魔術士にクラスチェンジしなきゃ!」
ガバッ! とベッドから飛び出すティオ。
夢の中で、魔導王シュヴァルツは力を行使する際に黒魔術と言っていた。
それを聞き、自分の前世が魔導王だったという事実とともに、ティオは思い出したのだ。
世間で底辺職などと馬鹿にされる黒魔術士。
それが底辺職などではなく、とある方法さえ使えば、魔神さえも圧倒するような〝最強職〟になるという事実を――
(黒魔術を極めれば、ぼくにだって……!)
ティオは正義感の強い少年だ。
アイラたちにパーティを追放されても、人々を助けたいという気持ちは変わらない。
自分は自分のやり方で、救世の旅をしよう……!
そんな気持ちを胸に、騎士から黒魔術士へとクラスチェンジを果たすべく、冒険者ギルドへと向かう――
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