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「万全を尽くしていて正解でしたわ! カナンはまるでお姉様の小さい頃の姿が写真の中から出てきてくれたみたい!!」


 ミランダは自身がプロデュースの服に身を包んだカナンのムチムチの頬を可愛いわ~と呟きながらツンツンとつつく。


 彼女は宣言通り三人とも可愛がってくれているのだが、特に私に似た、三人の中で唯一の女の子であるカナンがお気に入りらしい。


 赤ちゃん用の髪飾りを作ってきてはカナンの頭に飾っている。

 

「ミュリン、大きくなったら美味しいモンブランを食わせてやるからな〜」

 リガードは自身が贈ったモンブランのぬいぐるみを気に入ったミュリンがお気に入りらしく、来る度に自分の膝の上に載せている。


 最近ではミュリンはリガードの膝は自分の場所だと認識しているのか、彼が屋敷に来る度にハイハイでお出迎えまでして。その姿がリガードの心に深く突き刺さったらしく、溺愛っぷりに拍車がかかっている。

 

「なるほど、セロイはこの本が好きなのか。さすがはユタリアの息子、見る目あるな!」

「三歳児を想定して選んだら本ですが、まさか一歳を迎える前に手を伸ばすなんて、今からこの子の将来が恐ろしいですわ……」


 息子の一人、セロイを囲んでまるで自分達の子の成長を見守るかのように本に手を伸ばす姿を喜んで見せるライボルトとリーゼロット様。


 まだ結婚しないのか? と思っていた二人だが、どうやら出産後、私の体調が落ち着いてから式を挙げることにしてくれたらしい。


 その上、ブラントンに三人の子が生まれたと知ってからわざわざブラントン一家用に席まで作ってくれているらしく、さすがにそこまで優遇してくれなくてもいいのにと縮こまってしまいそうになる。けれど誰よりも式を挙げる彼らが乗り気だからいいのだろう。

 


 ――と四人とも我が子を可愛がってくれるのはいいのだが、さすがにほぼ毎日は来すぎではないだろうか?


 

 ミランダはフィンター様がやって来る時とお茶会がある時以外、ライボルトはどうしても外せない用事があった時以外、リーゼロット様はお茶会がある時以外、そしてリガードに至っては体調が悪くなければ必ずといっていいほど我が家へとやってくる。


 そして予定が入っていれば、いつもの訪問時間をずらしてでも来るのが彼らである。

 来すぎじゃないかと思う一方で、実は彼らの訪問には感謝している。


 夜なんて三人が別々に泣いてはミルクをあげて寝かせては次の子をあやし、を繰り返しているため全く眠れていないのだ。


 使用人が手伝ってくれるが、なぜかこの子達は夜限定で私でないと泣き止まないため、結局は起きなければいけない。これではエリオットはろくに寝られないだろうからと、寝室を別に用意してくれないかと頼んだのだが、それを受け入れてはくれなかったのだ。



『私達の子どもだろう?』――と。


 その言葉に思わず胸が温かくなるのを感じたが、私はまだしばらくはお茶会の参加はないが、エリオットは週に一〜二日の休み以外は朝から夕方までお城で仕事があるのだ。


 こうして私達のことを思ってくれる嬉しいのだが、さすがに夜泣きパラダイスに身を置かせるわけにはいかない。だが無理に他の部屋に移れば、エリオットは気を落としてしまうことだろう。


 一体、どうすればいいのか。

 そう悩んでいたのは少し前までのことである。


 彼らが毎日遊びに来てくれるおかげで三人とも夜はグッスリと眠るようになったのだ。もちろん、夜泣きはまだするけれど、それでも数は減ったほどである。それこそ、私は彼らが面倒を見てくれている間にお昼寝すれば元気になってしまうくらいには。


「いつもごめんなさいね」

「気にしないで、ゆっくり休んできて」


 こんな恵まれた環境を当たり前になってしまっていることに申し訳なく思うのだが、睡魔には勝てない。今後彼らに子どもができた時には率先して手伝うことを心に決めて、今日も今日とて甘えさせてもらうことにするのだった。

 

 ――がこんな私にとっては嬉しい、日々の彼らの訪問には一つだけ困ったことがある。

 

「カナン、お父様のところに……」

「セロイ〜」

「ミュリン……!」


 エリオットがこうして声をかけても我が子は三人揃って彼の元に来る素振りすら見せないのだ。


 カナンはミランダの腕の中。

 ミュリンはリガードの膝の上。

 セロイは本棚の前でリーゼロット様とライボルトと共に座り込んだまま。


  どんなにエリオットが休みの日に我が子達と交流を取ろうとしても三人とも、そこが定位置であり、エリオットなどお構いなしなのだ。


 そして私は膝から崩れ落ちるエリオットの背中を撫でることしかできない。まぁこうなることはなんとなく予想していた。


 だってこの子達、揃いも揃って夜中にエリオットがあやしたところで全然泣き止まないんだもの。だけど毎晩、彼が子ども達と少しでも交流を取ろうとしていたのも、子ども達を愛しているのも事実なのだ。


 ……ただ圧倒的にエリオットだけ接する時間が少なかっただけで。


「ほらカナン、お父様が抱っこしてやるからな~」

「……あゔ」


 カナンが唯一の女の子であるとはいえ、まさか生後六か月で父親への反抗期を迎えるとは思わなかったが。


「私が父親なのに……!」


 赤児の力で弱くパシッと叩かれただけだが、エリオットのライフポイントはほぼゼロである。その上、四人が四人とも勝ち誇ったような笑みを浮かべているため、残り少ないエリオットのライフは徐々に、いやゴリゴリと削られていっている。


「ユタリア〜」

 縄張り争いに負けてしまった犬のように目を潤ませているエリオットの背中を抱きしめるように撫でてやる。最近ずっとエリオットのこんな姿しか見ていない気がするのは気のせいではないはずだ。


 だがこんな姿も可愛らしいと思ってしまう。だってエリオットのこんな姿、この場所でしか見ることはできないだろうから。


 それに子どもが生まれてからエリオットとの心の距離は確実に近づいている。共通の話題なんてわざわざ探さずとも、日々の子ども達の様子が今の私達の会話の九割を占めている。


「もう少し大きくなったらセロイとミュリンは剣の稽古一緒にできるようになりますから、その時はエリオット様の腕の見せ場ですよ」

「そうだな!」


 それまで二~三年はかかるがということは伏せておくことにする。

 だってその事実を伝えたらきっとエリオットは今度こそ泣き出してしまうだろうから。


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