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白百合なんて似合わない  作者: 斯波@ジゼルの錬金飴③発売中
番外編:その仮面は未だ外れず
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6.

「万全を尽くしていて正解でしたわ! カナンはまるでお姉様の小さい頃の姿が写真の中から出てきてくれたみたい!!」


 ミランダは自身がプロデュースの服に身を包んだカナンのムチムチの頬を可愛いわ~と呟きながらツンツンとつつく。彼女は宣言通り三人とも可愛がってくれているのだが、特に私に似た、三人の中で唯一の女の子であるカナンがお気に入りらしい。

 赤ちゃん用の髪飾りを作ってきてはカナンの頭に飾っている。

 

 

「ミュリン、大きくなったら美味しいモンブランを食わせてやるからな〜」

 リガードは自身が贈ったモンブランのぬいぐるみを気に入ったミュリンが気に入ったらしく、来る度に自分の膝の上に載せている。

 最近ではミュリンはリガードの膝は自分の場所だと認識しているのか、彼が屋敷に来る度にハイハイでお出迎えまでして。

 その姿がリガードの心に深く突き刺さったらしく、溺愛っぷりに拍車がかかっている。

 


「なるほど、セロイはこの本が好きなのか。さすがはユタリアの息子、見る目あるな!」

「三歳児を想定して選んだ本ですが、まさか一歳を迎える前に手を伸ばすなんて、今からこの子の将来が恐ろしいですわ……」


 息子の一人、セロイを囲んでまるで自分達の子の成長を見守るかのように本に手を伸ばす姿を喜んで見せるライボルトとリーゼロット様。

 

 まだ結婚しないのか? と思っていた二人だが、どうやら出産後、私の体調が落ち着いてから式を挙げることにしてくれたらしい。

 その上、ブラントンに三人の子が生まれたと知ってからわざわざブラントン一家用に席まで作ってくれているらしく、さすがにそこまで優遇してくれなくてもいいのにと縮こまってしまいそうになる。けれど誰よりも式を挙げる彼らが乗り気だからいいのだろう。

 

 

 ――と四人とも我が子を可愛がってくれるのはいいのだが、さすがにほぼ毎日は来すぎではないだろうか?

 

 ミランダはフィンター様がやって来る時とお茶会がある時以外、ライボルトはどうしても外せない用事があった時以外、リーゼロット様はお茶会がある時以外、そしてリガードに至っては体調が悪くなければ。

 

 だが基本的に予定が入っていれば、いつもの訪問時間をずらしてでも来るのが彼らである。

 

 来すぎじゃないかと思う一方で、実は彼らの訪問には感謝している。

 

 夜なんて三人が別々に泣いてはミルクをあげて寝かせては次の子をあやし、を繰り返しているため全く眠れていないのだ。

 使用人が手伝ってくれるが、なぜかこの子達は夜限定で私でないと泣き止まないため、結局は起きなければいけない。

 


 産まれてから一か月した、私が一番やつれていただろう頃に、エリオットがこの機会にまた寝室を一緒にしようと言い出せしたが、それは丁重にお断りした。

 私はまだしばらくはお茶会の参加はないが、エリオットは週に一〜二日の休み以外は朝から夕方までお城で仕事があるのだ。

 日中に全く子ども達と触れ合えないから夜には! と思ってくれるのは嬉しいのだが、さすがに夜泣きパラダイスに身を置かせるわけにはいかない。よほど図太くないと寝られるはずがないのだから。

 

 

「じゃあ頼んでしまってごめんなさい」

「ええ、この子達は私達に任せて寝て来てちょうだい」

 

 子育てをマスターしつつある彼らが我が子達の面倒を見てくれている間にグッスリと睡眠をとるのがここ最近の日課である。

 

 こんな恵まれた環境を当たり前になってしまっていることに申し訳なく思うのだが、睡魔には勝てない。

 今日も今日とて甘えさせてもらうことにしている。

 

「はぁ……愛しのベッド〜」

 倒れるようにして入り込んだシングルベッドで吸い込まれるように眠りにつくのだった。

 

 

 

 ――がこんな私にとっては嬉しい、日々の彼らの訪問には一つだけ困ったことがある。

 

「カナン、お父様のところに……」

「セロイ〜」

「ミュリン……!」

 

 エリオットがこうして声をかけても我が子は三人揃って彼の元に来る素振りすら見せないのだ。

 

 カナンはミランダの腕の中。

 ミュリンはリガードの膝の上。

 セロイは本棚の前でリーゼロット様とライボルトと共に座り込んだまま。

 

 どんなにエリオットが休みの日に我が子達と交流を取ろうとしても三人とも、そこが定位置であり、エリオットなどお構いなしなのだ。

 

 そして私は膝から崩れ落ちるエリオットの背中を撫でることしかできない。

 まぁこうなることはなんとなく予想していた。

 

「ほらカナン、お父様が抱っこしてやるからな~」

「……あゔ」


 カナンが唯一の女の子であるとはいえ、まさか生後六か月で父親への反抗期を迎えるとは思わなかったが。

 

「私が父親なのに……!」

 赤児の力で弱くパシッと叩かれただけだが、エリオットのライフポイントはほぼゼロである。

 その上、四人が四人とも勝ち誇ったような笑みを浮かべているため、残り少ないエリオットのライフは徐々に、いやゴリゴリと削られていっている。

 

「ユタリア〜」

 仕方ないので、目を潤ませているエリオットの背中を抱きしめるように撫でてやる。

 最近ずっとエリオットのこんな姿しか見ていない気がするのは気のせいではないはずだ。

 

 子どもが生まれてからエリオットとの心の距離は確実に近づいているのだが、なぜか夫というよりももう一人大きな子どもを相手しているような気になってしまう。

 

「もう少し大きくなったらセロイとミュリンは剣の稽古を一緒にできるようになりますから、その時はエリオット様の腕の見せ場ですよ」

「そうだな!」

 

 それまで二~三年はかかるがということは伏せておくことにする。

 こんな簡単なことで機嫌が直るならそれに越したことはないのだ。


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