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7.

 リーゼロット様とライボルトと過ごした時間、そしてあれからも変わらず送ってきてくれるミランダからの手紙を支えに私は日々を過ごすようになった。

 

 寝室が分かれたことでエリオットと過ごす時間もほぼなくなり、その時間というのも主に社交界でのことだった。

 誰もが私達夫婦を仲がよく、羨ましいと称する。相変わらず私もエリオットも演じるのが上手いようで、誰もほぼ会話がないとは思わないだろう。

 

 あまりにも悟られないもので、貴族としてやっていけなくなっても舞台女優として生計を立てていけるんじゃないか、と頭の中で第二の人生の設計を立ててしまうほどだ。

 

 だがそれも無理だろう。

 なにせ一度、お茶を共にしたリガードは私の顔を見て首を傾げているのだから。

 

 

「リガード、どうかしたのか?」

「いや、まさか……な」

 今日はブラッド家主催の夜会ということもあり、以前見かけた時とさほど時間を空けずに彼の姿をこの目に収めることができた。

 今までは幸運を運んでくる前兆と認識していたリガードだが、以前見かけた夜会の後のことを想像すると、今はあまり会いたくはなかった。

 けれどブラントンと好意にしているブラッド家の夜会に足を運ばないわけにもいかず、こうして重い足取りでやってきたというわけだ。

 

 ――まさかこの夜、リガードと会ったことによって生活が一変するとは夢にも思わなかった。

 

 

 その数日後、リガードは唐突にブラントン屋敷を訪ねてきた。

 普段はこんな真っ昼間にエリオットが自宅にいることなどないのだが、今日は休暇らしかった。リガードもそれが分かっていて来たのだろう。

 

「よう、エリオット」

「リガード!? どうしたんだ、突然。まぁ、いい。すぐにお茶でも用意させる」

 エリオットは突然やって来たリガードに驚いてはいたものの、友人の来訪を温かく迎え入れた。

 

「いや、いい」

 リガードはそれだけ告げると、エリオットの隣を通り過ぎ、私の前で立ち止まった。そしてかつて喫茶店でそうしたようにクンクンと鼻をヒクつかせた。

 

「リガード? 何やってるんだよ」

 エリオットは様子のおかしいリガードを私の前から引き剥がす。

 けれどリガードはエリオットの言葉を無視して、私へと問いかけた。

 

「なぁ、あんた。城下町にある『リオン』って名前の喫茶店、知ってるか?」

「え? ええ」

 突然の問いかけに驚きはしたものの、リガードと入った喫茶店が確かそんな名前だったはずだと思い出して、正直に答える。

 するとその答えにリガードは「そうか」とニタリと笑った。

 

 だがそれがどうしたのか、と私が尋ねるよりも早くエリオットがそれを口にする。

 

「リガード、ユタリアがその店を知っているからなんだって言うんだ」

 自分だけ仲間外れにされた気分で焦っているようにも思えるが、それは私も同じである。この質問の真意を分かるものはまだ、リガード本人だけだ。

 

 だがやはりリガードはエリオットの問いかけを無視して、己の質問を続ける。

 

「あそこは喫茶店にしては珍しくテイクアウトもできるから、知ってるかなと思ってな。あんた、あそこのケーキ食べたことあるか? 特にモンブランが絶品で、俺は定期的に使用人に買ってきてもらうんだが……」

「何が言いたい?」

 二度の問いかけを無視されたエリオットの声は怒気が孕んでいた。友人と形ばかりの妻とはいえ、貴族の男として、二人きりの会話は許せないのだろう。

 

 するとさすがのリガードもそれには困ったようで頬をポリポリと掻きながら、質問の意味をエリオットに説明する。


「いや、彼女は甘いものが好きだって聞いたから、食べたことあるかなと思って」

 その姿は少し可哀想に思えて、彼の質問に答えることにした。

 

「ありますよ。モンブランではなく、ガトーショコラですが……」

「ガトーショコラ、ね……。貴族のご令嬢であるあんたが、わざわざ城下町まで足を運んで食べに行ったのか?」

「え?」

「知らなかったのか? ガトーショコラはテイクアウトメニューには含まれない。正確に言えばテイクアウトサービスができる前にあの店からガトーショコラ自体がメニューから消えた」

「…………」

 そんなの初耳だ。

 だがメニューが消えることはあり得ない話ではない。材料の入手が難しくなったとか、金銭的な理由とか、何通りかは考えつく。

 

「なぁ、あんた……ユリアンナなんだろ?」

 ……だがまさかそんな理由でこうして窮地に立たされるなど夢にも思わなかった。

 自分の甘さを実感していると唇を噛み締めていると、エリオットが驚いたように声を上げた。まさかリガードと私が知り合いだとは思わなかったのだろう。


 これで終わりだ。そう、覚悟まで決めた。

 

 ――だがリガードはまさかの一言を続けた。

 

「ユタリア=ハリンストンとはいつ入れ替わった?」

「は?」

 力強く封じられていた口が開いて出た声はあまりにもこの場には相応しくない。

 だがリガードのどこからやって来たのかもわからない結論には、こんな素っ頓狂な声が一番合っていた。


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