26.
私達の結婚式は、ハリンストンとブラントン、そのどちらの名前にも恥じぬほど盛大に執り行われた。
国民全員に祝福される王族の結婚式と同じ……まではいかないが、貴族に属する者はどの爵位でも関係なく、各家最低一人は代表者を送り出してきていた。
さすがはブラントン。一家で騎士職に就くだけのことはあり、会場内には正装に身を包む騎士達の姿が多く見受けられた。
次々に二人並んで祝福の言葉をかけられる中、意外にもエリオットが多くの騎士に慕われていることを知った。
第一、第二騎士団に属する騎士はともかくとして、第三騎士団の方とも仲がいいとは思わなかったのだ。
他国よりは格差があるわけではないが、やはりリットラー王国でも貴族と平民の地位の差はあるのだ。平民出身で第二騎士団に属している者や、その生まれから仕方なく第三騎士団に所属しているものの中には貴族をよく思わない者もいる。
そんな中でも所属する団関係なく、慕われているというのはエリオット本人の人柄が大きく影響しているのだろう。
なにせ素性をよく知りもしない町娘の隣で悠々とクレープを食べ、オヤツ仲間まで仲を深めるほどの男だ。
私だって早々にエリオットをクレープの仇扱いするのを止めたほどだ。カリスマ性があるから、というよりは人の懐に入るのが上手いのだろう。貴族意識がありながら、同時に身分の差を関係なく接してくれる彼に心が惹かれるのは無理もないことだ。
エリオットには二人の兄がいて、家を継ぐのはブラントンも例外ではなく長兄だ。だが、もしもエリオットにも当主となる権利が与えられていたのなら……、いや考えるのはよそう。
なにも当主の妻になりたいわけではないのだ。むしろ、そんなことになれば付き合いが増えて、読書の時間がますます減るだけだ。
それに騎士貴族に産まれたエリオットは昔から剣の英才教育を受けていたとも聞く。となればその実力もそれほどのものがあるのだろう。やってくる騎士服の彼らの瞳には尊敬のようなものも見える。
なら何も言うまい。彼が円滑な仕事ができているのなら、今回の婚姻でハリンストンに何かよからぬ火種が飛び散るわけでないのなら、なんだっていいのだ。
お母様とミランダからは今日を迎えるギリギリまで、すぐにボロが出やしないかと、何度も気をつけるように言い聞かせられた。
結婚するとはいえ、ブラントン相手に粗相があってはならないと。
けれどエリオットのことを少しだけ二人よりも知っている私は、彼なら私の素の姿を見ても受け入れてくれるのではないかと楽観的に考えていた。
なにせ彼は城下町に繰り出した私を、ユリアンナをオヤツ仲間として受け入れてくれたのだから。
もちろん愛してもらおうだなんてハナから思っていない。
だが家族としてなら、共に生きていくことができるのではないか?
今日から夫となるエリオットの顔を見上げ、これからよろしくとの意味を込めて笑ってみせる。
するとエリオットは私と目があった途端に頬を赤らめて、その目を逸らした。
それは取り引きを持ちかけて来たあの夜とは別人の、ウブな少年のような反応だ。
…………まぁ、それは彼が私のことを思っていれば、の話だ。実際はちょうどアルコールが回ってきたとかそんな理由だろう。
彼の手の中にある空になったグラスを、ノンアルコールの飲み物が入ったグラスと取り替え、そして次々とやってくる方々のお相手を再開するのだった。




