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人間嫌いの英雄譚  作者: kei
第1章 最低の始まり
3/4

デスヨネー

小刻みですいません

『では、改めまして自己紹介からさせていただきます。と言っても決まった名はございませんので

お好きなようにお呼びください。』


男か女か分からない声色と見た目と、

にぱっと音がしそうな笑顔でそう告げる犬、

もとい子供は更なるイラつきを与えてくる。


『あ、貴方の自己紹介なら記憶を読ませていただきましたので結構ですよ、坂上久志(さかがみひさし)様。』


我慢だ。

我慢するしかない。

明らかにおちょくるつもりの言葉でも、

流石にこの見た目に手を上げたら人としての何かを手放してしまう。

それに、届かない可能性(.......)が高い。

恐らくは全て計算のうちなのだろう。


『では順番にご説明致します。まず、この場所ですが言うならば待機場所、待合室のようなものとお考えください。ここで今後などの説明を行い、その後に移動していただきます。』


「おい、具体的な説明になってないぞ。」


『ごもっともです。で、次に貴方のご友人達ですが、』


「ぐっ!?」


反射的に振り上げた拳を止める。

殴りたい。猛烈に殴りたいが、この話だけは曖昧にさせるわけにはいかない。


『全ての説明をした後に、一足先に移動していただいていますのでご安心ください。貴方が向かう場所も同じとなりますし、時間の誤差なく同時に到着致します。』


無事だった点では安心したが、巻き込まれていた点ではまるで安心できない答えが返ってくる。


『ちなみにですが、移動を拒否することもできます。その場合、貴方がこの場所にいらっしゃる直前の時間にお戻りいただけます。』


人質という単語が頭をよぎる。

そんな選択するわけがないことを、こいつは分かって言っているのだろう。

我関せずなんて出来るわけがない。

記憶を読んだと言うならば、こちらの答えもすでに分かっているはずだ。


『どうされますか?』


「あ"ぁ"~、行くに決まっているだろう!?分かりきったことを聞くな!手早く、簡潔に、説明しろ!」


『これは失礼しました。怒らせ過ぎてもあれなのでここから先はおふざけなしで進めさせていただきます。申し訳ありませんでした。人と遊ぶのが好きなもので、ついやり過ぎてしまいました。』


ペコリと頭を下げる姿は真剣に見えるが、顔は見えないので信用ならない。

自分以外の考えなんて見た目では分からないのだから。


「最初から説明し直せ。」


『分かりました。まず、私ですが名前がないのは本当の事です。神獣と呼ばれてはいますが。お気づきのようですが、神と呼ばれる者の1柱です。』


およそ予想通りの答えが返ってくる。

人の記憶を読むものなぞ、実在するならあとは妖怪の類いぐらいだろう。


『次にこの場所が説明の場というのは変わりません。向かう場所は貴方のいた世界とは違う世界、いわゆる異世界になります。』


ありきたりと言えばありきたりだか、

実際に言われてみてもピンとこないものだ。


『貴方のご友人達が説明を終えられ、移動もとい転移を承諾されたのは事実です。誓って脅迫などの強制行為は行っておりません。』


「…説明した順番は浩介(こうすけ)(けい)の順だな。」


確信をもって、ややグッタリとした声で聞いてみる。


『はい。その通りです。浩介様はほぼ即答でした。慧様も同じ流れで説明しましたが苦笑気味でしたね。私もこの順番なら断られないだろうと思ってはいました。』


そうだろうとも。

面白そうなら首を突っ込みたがる浩介なら。

それを分かっている慧も。


『伝言をお2人から預かっています。浩介様から<面白そうだから行こうぜー>、慧様から<諦めよう>、以上です。』


デスヨネー。


やはり難しいものです。

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