混乱
自己紹介にもたどり着けていない体たらく
しばらくしてようやく落ち着き始めたところで、
まず気になることが1つある。
それは、待ち合わせをしていた友人2人のことだ。
自分だけがこのトンデモ状態になったのか、
2人も巻き込まれてしまったのかだ。
自分のことさえよく分かっていない状態で
友人の状態など分かるはずもなく、
再度焦り始める。
距離感すらつかめないこの場所だが、
とにかく、じっとしていても意味はない。
動くことしか出来ないのであれば、
歩いてみることにした。
その1歩目を踏み出した瞬間、
『ようこそおいでくださいました、異界の方。』
唐突に男か女分からない声音で
後ろから声をかけられた。
「ッ!?」
考えてほしい。
焦っている時に何もないと確認した場所で
呼び掛けられる驚きを
思わず踏み出したまま体が固まる。
「誰だ!?」
振り返ったままさらに固まる。
そこにいたのは犬。
トラックほどの大きさもある犬だった。
「は?」
『驚かせてしまい、申し訳ありません。貴方の現状と事情などを説明のために、声をかけさせていただきました。』
見知らぬ場所への移動。
友人達の現状。
誰もいないはずの場所からの声。
「…」
『驚かれるのはもっともですが、貴方が求められた事をお答えしますので、暫し御時間をいただいてもよろしいでしょうか?』
挙げ句にあり得ない大きさの犬。
シベリアンハスキー。
「……」
『わふ。』
真っ白。
周りの風景と共に頭の中まで
真っ白に塗り潰された。
……………………………………………………………
『重ね重ね申し訳ありません。貴方の記憶の中から、好まれている姿を選んだつもりでしたが、驚かせてしまったようですね。謝罪致します。』
嘘だ。
『ともあれ、落ち着かれたようなので、改めて事情説明をさせていただきます。』
確かに黒歴史化しそうなほど取り乱して
今は落ち着いたが、絶対に嘘だ。
「…その前に1つ聞いていいか?」
『? はい、なんでしょうか?質問でしたらまとめてお答え致しますが?』
「…楽しめたか?」
『……何の事でしょうか。』
とぼけているようだが、隠せていない。
「……尻尾。」
『………』
千切れんばかりに振られていた尻尾の動きがピタリと止まる。
「………」
ジトッとした目で見つめると
思い出したかの様に首を掻き始める。
デカいと迫力があるな。
じゃなくて、
「誤魔化すな、こっちの反応を見て楽しんでいただろう?」
丁寧な口調と犬の見た目で分かりにくいが、
明らかに楽しんでいたな、こいつ。
いや、逆に分かりやすかったか。
『…………てへ♪』
うん、イラッとした。
確かに落ち着くまで思い出したくないような醜態をお見せしましたとも。
ため息しか出てこない。
しかたがないが全て無かったことにしよう。
そうしよう。
「……事情説明。」
『はい、畏まりました。でもその前に、このままですと見下ろすようで申し訳ないので姿を変えますね。』
うん。
殴ろう。絶対に。
話は1発殴ってからだ。
『よっと。これなら大丈夫ですね。』
「…………。」
ポンというふざけた効果音と煙の後から現れたのは、尻尾と耳だけはそのままで黒髪金目、白いシャツに白い短パンの子供だった。




