プロローグ
蝋燭の灯りでぼんやりと照らされた石造りの空間に
白い人影があった。
白い服に身を包み、
教会で祈りを捧げるシスターの様に
両膝をついたまま頭を垂れている。
髪は白く輝く銀髪、袖のない服から見える腕も
透き通るように白い。
ただ胸の前で組まれた両手からひじまでは
彼女自身の血で濡れている。
その血は両ひじから雫となって
鏡のように磨かれた床に落ちていく。
ポタリ、ポタリと決して多くはないが
確実に彼女の命が流れていた。
彼女は何のために一人で血を流しているのか?
祈りを捧げているのは間違いないが、
見渡す限りではここは教会には見えないし、
血を流しながら祈る教義など邪教の類いだろう。
かといって罪人に血を流させる牢獄でもない。
円柱状になった部屋の天井は高く、
蝋燭の灯りは届かず、ただ暗闇がそこにあるだけ。
風が入らない構造なのか、
蝋燭の明かりは揺らめきもしない。
円形になった床の中央に血を流す少女が一人。
ポタリ、ポタリと微かな音のみが響く。
「あと一ヶ月……」
誰にも聴かれることはない言葉がこぼれた。
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「は?」
間の抜けた声が出た。
ここは?辺り一面真っ白で分からない。
今は何時だ?スマホを見ると9月16日午後3時20分。
直前まで何をしていた?
友人と3人で3時に待ち合わせをして出かけたはず。
いつも通りに自分が早めに待ち合わせ場所に着いて
いつも通りに時間潰しにスマホでゲームをして、
いつも通りに遅刻した2人と合流し、
いつも通りに遅いと文句を言ったのは覚えている。
いつも通りならこのまま目的地に向かったはずだが、そこから先の記憶が曖昧になっているな。
よし、整理しよう。
友人と合流して気がついたら白い場所にいた。
「は?」
結果は変わらなかった。
「いやいや、まてまて、いろいろおかしい、全てがおかしい、え?は?ここどこよ!?」
冷静になれと思っていてもうまくいかない。
人は自分の想像できる範囲内でしか冷静さを保てないことに経験してみて初めて知ることができた。




