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ふたりはプリズム

作者: 和久井一臣

「―――――願い事を言ってごらん。君の願い事は何かな…?」


※※※※※※※


―――長い1ヶ月の梅雨がようやく明け、初夏の7月を迎えた、日本の何処かにある平和な街。

今日は平日で、いつものようにサラリーマンは会社に出かけ、学生たちは学校へ向かう。

熱心に毎日ランニングをする初老の男性、花に水やりをする近所のおばさん。

そんな何ともない街なかで、けたたましいサイレンが鳴り響いた―――。


ウーウーーウーーウーーーーウーウーーーーーー……


※※※※※※※※


「私の名前は春風なるみ。どこにでもいる、小学3年生の女の子。魔法少女になってみたいなんて思ってたりするんだけど…。そんな奇跡、起こったりしないよね…。あ!そろそろ学校行かなきゃ!遅刻しちゃう~」


なるみは今日も遅刻気味。

母親に毎日怒鳴り気味に起こされながらも、それに懲りずいつもギリギリになって準備に取り掛かる。

また、近頃は日曜日の朝にテレビで放送されている、いわゆる「魔法少女もの」のアニメにハマっているらしく、自分自身もそれになりたいと考えているらしい。

言ってみれば、どこにでもいる典型的な小学生の女の子だ。


「僕の名前は夏野しずる。どこにでもいる、小学3年生の男の子。僕、男なんだけど魔法少女に憧れてるんだよね…。けど、こんなこと友達にも言えない。僕だけの秘密…。そして、もうひとつ、秘密があるんだ―――」


「僕、なるみちゃんのことが大好きなんだ…。で、そろそろ告白してみようかなとも思ってるんだけど…。あ!もうこんな時間だ!そろそろ出発しなきゃ!」


しずるはなるみと一緒の学校に通う、小学三年生の男の子。

最近、男女の意識が芽生え始め、女の子と喋るのがちょっぴり苦手。

特に、なるみのことが気になり始めているらしく、まだ年齢が二桁にも乗らない中で、告白という手段を講じようとしている。

昨今、性の低年齢化が進んでいるとは言うが、年端も行かない少年少女が交際を意識しているというのは、やはり紛れもない事実でもあった。


―――そしてその刹那。


「いった~い!」


ドンッと人と人とがぶつかり合う、鈍い音がして、まだ幼い少年少女が道端に転がる。

どうやら、なるみとしずるがあまりにも急いでいたためか前方に注意を向けることができず、ぶつかり合ってしまったらしい。


―――いや、それだけではなかった。


二人が衝突したその瞬間、淡い光が二人を包み込み、ほんの少しの間時が止まっていた。

まるでその場だけ、時空から取り残されたかのように―――。


―――時は三秒にして正常に戻った。


「いてててっ…」


ゆるく施錠されていた赤いランドセルからは、可愛らしいペンケースと数冊の教科書、ノートが飛び出ていた。

対して、黒いランドセルはよほど軽かったのか、しずるから少し離れた場所にまで吹っ飛んでいっていた。

そう、彼は置き勉の常習犯だ。


「な、なるみちゃん!」


「し、しずるくん!」


顔を見上げ、お互いはようやくぶつかった相手について認識したようだ。

血行がよいのか、なるみのおでこにはさっそく赤い字が出来上がってしまっている。

それとも、しずるの石頭が原因か?


「おはよう、しずるくん。あ、こんなことしてる場合じゃないね。早く行かなきゃ、学校はじまっちゃう…!」


「うんっ。一緒に行こうっ」


なるみは散らばってしまった持ち物をランドセルに急いでしまい込み、しずるはそれを手伝ってから自分のランドセルを背負い込む。

学校へは歩いてすぐとは言え、もう始業の5分前。

二人は、手を取り合い足早に学校へ向かっていった―――。


「―――今の2人の魔力衝突…。あの魔力なら、或いは…」


二人がぶつかり合った場所のすぐそばで、小さな影が消えていった。

人や動物が歩みを進める際に影が移動していくのとは異なり、一瞬で。

そう、一瞬だった―――。


※※※※※※※


―――キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン


「あ~。今日も疲れたねっ。帰ったら、何して遊ぶ?しずるくん」


「ん~、そうだね。何して遊ぼうか。最近雨続きで、外で全然遊べなかったから、公園に遊びに行くのもいいかもね」


なんとか遅刻ギリギリで教室に滑り込んだなるみとしずるは、今日も平和に1日を終えた。


二人は、放課後一緒に家に変えるのが日課だ。

そして、予定が合った日には一緒に遊ぶ。

そんな風に毎日を過ごしているうちに、しずるはなるみに惚れていったのだ。


「公園かー!いいねっ!他にもだれか誘って、鬼ごっこでもしよっか!」


「うんっ!………、え………?な、なにっ…!?」


シュッ―――――。


突然小さな影が道端に浮かび上がる。

そう、それは朝方急に消えた影に他ならなかった。


影の原因は小さなフェレット。

いや、フェレットらしいものだった。

体長は40センチほど、毛色はオレンジ一色。

目は通常のフェレットよりもくりくりっとしていて、可愛らしさがあるものの若干不気味な眼光を放っている。


そんな、フェレットもどきが二人の前に立ちはだかった。


「―――君たち、魔法少女にならない?」


「ぎゃあああああああああああああああああああ!」


フェレット亜種は二人に思いっきり蹴飛ばされた。

無理もない、気味の悪い色をして、日本語を話すフェレットが急に現れたからだ。


「いてててっ…」


フェレットは5メートルほど飛んでいったが、すぐに起き上がり、なるみたちのもとに戻ってきた。

蹴飛ばされた衝撃で若干青ずんだ右足をさすりながら。


「何するんだよ!いきなりふっ飛ばすなんて、失礼じゃないか!親の顔が見てみたいよ!」


ベタだ。

非常にベタな問いかけだ。


「ごめんなさい…。怪しい人にはロケットキックって、お母さんに言われてるから…」


なるみは、フェレットっぽいものに向かってそう言う。


ロケットキック・・・?

本当に、なるみの両親の顔が見たくなってきてしまった。


「まったく…。で、話なんだけど、魔法少女にならないかな、2人で」


「―――ん~、そうだね。2人はいろいろな光を放ってくれそうだし…。そうだ!プリズムがいいよ!ふたりはプリズムだ!」


偽フェレットは、なるみの理不尽な受け答えに対して気も止めず、会話を続けようとする。


「ふたりはプリズム・・・?」


いや、なるみ、しずる。そこは、「なぜフェレットが喋っているの!?」だろ?


(本当は僕、魔法少女になってみたいって思ってるから、このフェレットの言ってることに少しは興味あるんだけど、こんなことなるみちゃんの前で言ったら気持ち悪いって言われて嫌われちゃう…。ん~、どうしよう)


しずるは自問自答する。

「魔法少女」というワードに、しずるは心惹かれていた。

ここ最近、なってみたかった「魔法少女」。

自分の手で魔法を使えるかもしれないという期待が湧いてきた。


しかし、今はなるみと一緒だ。


『―――フェレットさん!僕、魔法少女になりたいです!』


こんなことを言ってしまえば、


『え…。しずるくん、魔法少女になりたいの…?うっわ、気持ち悪い…』


まあ、間違いなくこうなってしまい、しずるの淡い恋心も一瞬のうちに砕け散ってしまうだろう―――。


「―――私…、魔法少女やります!実は、前から興味があったんです…。魔法少女に…」


「えっ!?」


なるみのその発言にしずるは驚いた。


「だって、魔法少女って可愛くってかっこよくって、そして強くって。そんなの憧れないほうがおかしいじゃん!」


なるみはしずるのびっくりとした瞳を見つめつつ、さらに続けた。


(なるみちゃんも、魔法少女に憧れていたのか…)


「君の名は…?」


おい、淫獣、そのセリフは今はダメだ。


「なるみ。春風なるみ。小学3年生!」


なるみの顔は期待に満ち溢れていた。

昔から憧れていた魔法少女になれる。

テレビアニメで見ている、みんなの味方・魔法少女になって、魔法を使って世界平和を守れる!

そういった言葉がオーラとなって、なるみにまとわりついているようだ。


「なるみか。なら、1人は決まりだね。もう1人は…」


「―――しょうがないから他に探すとするか。そもそもよく見てみたら、こいつ可愛い顔してるけど男だしな。」


「うんっ。じゃあね、しずるくん!」


見た目は確かにフェレットな生き物となるみは、そうしずるに言い残し、立ち去ろうとする。

突然魔法少女になれるかもしれないと言われ、その後すぐに自分はなることができない。

状況がつかめないのか、ただただ魔法少女になれる可能性を捨てたくないのか、しずるは血相を変えたように、


「ちょ、おまwそれは、ないでしょ!やります!僕も魔法少女やりますよ!」


「―――――え…?」


時が止まった。

なるみの顔はまるで古代ギリシャの彫刻のようにこわばり、体も微動だにしていない。

音を立てるのは夏の到来を感じさせるアスファルトのジリジリとした音だけだった。


―――そりゃそうだ。


「え…!ちょっ、なんでそんな目するの!なるみちゃん、僕をそんな目で見たことなかったじゃん!どうしてだよ!僕だって、実は魔法少女になってみたかったんだよ!だって、可愛いじゃん!強いじゃん!そして…、可愛いじゃん!」


しずるはそんな沈黙にも負けじと、まくしたてるように言葉を重ねる。

自分が魔法少女に憧れ、愛する気持ちの悪いワードを連ねた。


ちなみに、私も小学3年生の女の子にそんなジト目で見つめられたいが、それはここでは余談だ。


「―――君の気持ちはよくわかったよ。魔法少女の可愛さに憧れる気持ちだけは、確かに受け取った。君も魔法少女にしてあげよう。ところで君の名は?」


おい、淫獣。

だからそのセリフは(ry


「夏野しずる!なるみちゃんと一緒の小学3年生だよ!」


「なるみとしずる…。よし。あ!申し遅れた。僕の名前は池田だ!この世界でいうと3万7千564歳にあたるかな」


「3万っ!?」


なるみとしずるはその年齢に驚き、のけぞった。


―――いや、そこは「意外とお前和風な名前なんだな?」だろ。

そういった年齢はデー○ン○暮閣下で慣れているだろ?


「うん。だって、僕人間じゃないしね。…、で、さっそく魔法少女になるための儀式をしよう!さあ、3人で手をつないで輪になろうっ!


「はい…!」


なるみとしずると池田(フェレットもどき)は3人で手を繋いで輪になった。

すると、先程まで雲一つない青空に黒い雲がいくつも現れ始めた。

そして、3人の下からは風が吹いてきた。


―――ビリビリビリッ


静電気か?

いや、そうじゃない。

囲んだ輪の周りに幾つもの小さな雷光が発生し、まるで魔法を発動している用な感じだ。

あ、魔法の儀式だったな、そういえば。


「す、すごい…」


なるみとしずるは今目の前の現実にただただ驚いていた。

無理もない、彼女たちの目線の先に広がっているのは、ドラマやアニメの世界だけの話だったからだ。

それをリアルで、肌で感じているのだ。


「うん、だってこれは魔法の儀式だからね。しかも、魔法少女になるための。そのためには、膨大な魔力が必要なんだ」


「―――じゃあ、まずはなるみから。魔法少女契約の呪文を唱えるんだ。僕に続いて」


「う、うんっ!」


池田は呪文を詠唱する。


「遥か天空から舞い降りしこの躯。蒼天の翼を羽ばたかせ、韋駄天の脚で駆け抜ける。天上天下唯我独尊。響け、天の彼方まで。凍てつけ、遠い山々までも。エターナルフォースブリザード!」


って、なんだその呪文は……。

聞いたことあるぞ。

あ、あれだ、10年前以上ネット掲示板で話題になってたあれだよ、あれ…。


「わかりましたっ…!」


い、いや、それでいいのかよ!


なるみはその呪文の信憑性に何の疑問も持たず、池田に続けた。


「遥か天空から舞い降りしこの躯。蒼天の翼を羽ばたかせ、韋駄天の脚で駆け抜ける。天上天下唯我独尊。響け、天の彼方まで。凍てつけ、遠い山々までも。エターナルフォースブリザード!」


呪文詠唱が終わった瞬間、なるみは、思わず目をそむけてしまうほどの眩しい光に囲まれた。


少しして光が消えたと思えば、なるみの身体に変化が。

何でもない、いわゆる小学生女子が着込みそうな可愛らしい洋服が一変。

ピンク色を基調としたなんとも魔法少女らしい、フリフリの服装になり、手には先端がハートで彩られた魔法のステッキを握っていた。


「す、すごーい!!」


なるみは自分の変わり果てた格好に驚きながらも、自分の望みがたった今叶い、喜びに満ち溢れていた。


「次は、しずるだ!僕に続いてね」


続いて、池田はしずるの変身用呪文を詠唱する。


「遠い未来からやってきたこの躯。漆黒の爪を振り回し、群雄割拠の時代を生きる。犬が西向きゃ尾は東。響け、あの子 の心まで。打ち砕け、全てがなくなるまで。サンダーライトニングクラッシャー!」


…………。

ま、まあこれ以上呪文のことについては触れないでおこう。

どうせ、しずるもなるみと同じく、呪文に対して何のツッコミもせず、続けるのだろ…


「遠い未来からやってきたこの躯。漆黒の爪を振り回し、群雄割拠の時代を生きる。犬が西向きゃ尾は東。響け、あの子 の心まで。打ち砕け、全てがなくなるまで。サンダーライトニングクラッシャー!」


―――言ってるそばから…。


しずるに関しても、呪文詠唱が終わった瞬間、身体の周りは光に囲まれた。

光が消えた瞬間、しずるの格好も、今度はブルーを基調としたフリフリのいわゆる魔法少女の格好になっていた。


ああ、やっぱりあくまで魔法少女なので、フリフリなのか…。

スカートだし…。


「さすが、あの魔力があるだけのことはあるね!すんなり儀式終了だ!これで、2人は立派な魔法少女だよ!!」


池田は、うんうんとうなずきながら二人に向かってそう声をかける。

どことなく、池田も嬉しそうな表情を見せている気がする。


「なんだか、すっごく魔法が使えそうな気がしてきたよ!」


「僕も、なんだかすっごく乙女な感じになってきたよ!」


―――またしても沈黙……。

しずる、そんなんじゃ、他の部分がいかに魅力的でも、なるみのお眼鏡にかなわないぞ…。


「…え?」


なるみが呆然とした表情でしずるを見つめる。

あまりのことでびっくりしたのか、魔法のステッキを落としてしまった。


カランカラン……。


虚しくも、沈黙の中にステッキが転がる音が響き渡る。

…、しずる、ほら、言わんこっちゃない…。


「いや!なんでもない!」


「んんっ……。よし。これでとにかく、契約は完了したよ。2人とも、活躍を期待してるよ」


いい感じに池田が仕切り直して、二人にそう声をかけた。

こいつ、結構空気を読めるフェレットなのだな。


「はいっ!」


なるみとしずるは、大きく元気よく揃って返事をした。

家族と学校の教育が行き届いているのだろうか、何も恥ずかしさを見せることなく、大きなことで「はい!」と返事をする。


―――返事をすると、池田はどこかへ消えていった。

今日は、とりあえず魔法少女になる儀式を行いたかっただけなのだろうか。


「私たちも帰ろっか」


「うんっ!一緒に帰ろ!」


こうして、なるみとしずるも帰宅の途についた。

先ほどまで太陽の光が降り注ぎ、青く広がっていた大空は、いつのまにか夕暮れのそれに変わっていた。


―――そのときだった…


「クックックッ。われの名は、ナイトオブナイト。すでに、火星はわれの傘下に入り、続いてこの星、地球もわれが侵略してやろう。まずは、あの小学校なんかが好敵手ではないだろうか。幼き子が苦しむ姿は見ていて、悦楽を覚える…。クックック。フハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」


黒マントで覆われた謎の大きな女が、不気味な声を荒げた。


―――そして、彼女も一瞬のうちに消えた。

池田が今朝ほど、なるみとしずるのそばから消えて行ったかのように。


※※※※※※※


―――翌朝。


今日も昨日と引き続き、よく晴れている。

チュンチュンと小鳥が鳴く声、学校に向かう高校生たちのはしゃいだ声、顔の汗を拭き取りながら会社に向かうサラリーマン。

そう、いつもの光景だ。


「なるみちゃん、今日は普通に学校、間に合いそうだね」


「うん。だって昨日遅刻しそうだったから、今日は目覚ましちゃんとかけたもん」


なるみとしずるは今日も仲良く2人して登校。

…、しずる…、もうほとんど付き合っているも同然じゃないか。

告白するなら早めのほうがいいんじゃないか?


「え…。けど、隣から、なるみちゃんのお母さんの怒鳴り声が朝早くに聞こえてきたけど?」


「もー、そういうことは黙っておくの!しずるくん、空気読めないと出世できないよ!」


しずるの好感度マイナス5。

しずる、お前はもう何も言うな。

黙って当たり障りのないことを言いつつ、一緒に登下校したり遊んでいたりしたら付き合えるぞ。

多分。


「え?出世?」


しずるはなるみに「出世とは?」と問いかけようとしたが、言葉がそれ以降続かなかった。

目の前に、日常とはかけ離れた光景が広がっていたからだ。


「―――あれ?なんか学校おかしいね。早く行ってみよう」


そう、彼らが通う小学校が黒い霧に囲まれていた。

近くの民家や商店はその限りではなく、いつもどおりだ。

そして、通行人たちは何も気に留めることもなく学校のそばを通り過ぎている。

どうやら、みんなの目には、この光景は写っていないようだ。


「うん」


なるみはしずるの呼びかけに応じ、2人して足早と学校へ向かっていった―――。


※※※※※※※


「クックック。この子たちは全員、捕まえてやったわ。こいつらを人質にすれば、この世界を暗黒に染めることもそう遠い未来ではなかろう。クックック」


―――そう、夕べの女だ。


黒いマントを覆った、背丈が2メートルはあろうかと思われる大女が小学校の一室を占拠していた。

その教室はあろうことか、なるみとしずるが所属する3年B組の教室だった。


「た、助けてよーーーーーーー」


「お母さあああああああん」


「お家に帰りたいよーーーーーーーー」


教室では子どもたちが30人ほど手足を縛られ拘束されている。

そして、教室内は子どもたちの叫び声が響き渡っている。


泣きじゃくる子。

あまりの恐怖で声も出ない子。

気を失ってしまい横になっている子。


―――無理もない。

年端も行かない幼い子どもたちが、突如囚われの身になってしまったのだ。


「あれ…!みんな!」


なるみとしずるが教室にたどり着く。

二人はこの日常離れた空間にただただ驚いていた。


―――しかし…、


「てか、あなた、だれ…!?」


なるみが大女に声をかける。

続けて、教室の中で何かを見つけたしずるが、


「てか、なんで池田さんが…!?」


……、おい、池田。

お前何捕まってるんだよ…。


―――大女はなるみとしずるの方を向き、不敵な笑みを浮かべながら口を開ける。

その口は頬をすべて覆い尽くしてしまうほどの大きなものだった。


「クックック。われの名はナイトオブ…」


「僕、捕まっちゃったんだよ…!!」


「貴様!われの自己紹介の邪魔をするな!」


―――バゴッ。


「いてててっ…」


池田が大女に思いっきり蹴飛ばされた。

昨日はなるみとしずるに蹴飛ばされ、右足にあざができてしまっていたが、今度は左足を思いっきり蹴られてしまった。

両足あざだらけになってしまったフェレットもどき・池田。


「んんっ」


大女は咳払いをして、再びなるみとしずるに目を向ける。

目は大きく見開いており、つり上がっていた。

眼光は鋭く、突き破るような視線を二人に向けて続ける。


「さあ、仕切り直しだ。われの名は…」


「どうして、捕まっちゃったんだよ!」


なるみとしずるは、そんな大女を見向きもせず、両足創痍となった池田との会話を続ける。

―――大女、お前存在感はその見た目と身体の大きさだけかよ…。


「ちょっとぼうっとしてたら、捕まっちゃってたんだよ!このう○ぎの○っぺ・カスタード味、○島製パンより大好評絶賛販売中がおいしすぎて、ぼうっとしてたんだよ。そしたら、いつの間にかとらわれてたんだよ!」


「貴様、また邪魔をするか!」


―――ババゴゴッッ。


池田は再び吹き飛ばされた。

大女の蹴りはとてつもない威力だ。

ただ、一点聞きたいのはお前魔女じゃないのか?

その見た目の割には、随分と物理的な攻撃を仕掛けるんだな…。


―――ちなみに、池田、俺も「うさ○のほっ○」は好きだぞ。


「いってー。今の僕じゃないよね、割って入ったの。それに、人質にこんな扱いしていいの!?死んじゃったら、人質の意味ないよ。僕、かよわいんだよ!」


池田は(昨日に引き続き)何度も傷を負いはしたが、果敢にも大女に立ち向かっていった。

40センチほどのフェレットもどきと2メートルほどの大女。

幼稚な言葉にはなってしまうが、すごい構図だ。


「黙れ、うるさい!少しは黙っとけ!この淫獣が!」


「あぁっ…」


「池田さん…!」


池田は大女にガムテープで口を封じられてしまった。

もごもごと口を動かしているが、何を言っているのかわからない。


―――繰り返しになるが、口封じの方法も物理的なのだな、大女…。


「クックック。それにしても、貴様ら2人は割と落ち着いているな」


大女は池田の口にガムテープを何重にも貼り終えたあと、再びなるみとしずるの方に目を向けた。

度重ねて、池田に自己紹介の邪魔をされたのだよっぽど腹がたったのだろうか、目を充血させている。


「なんだか、この風景、僕知ってるんだ。なんでだろう」


「私も。きっと魔力がそうさせてるんだと思うけど…」


なるみとしずるは、どこかこの光景に見覚えがあるらしく、大女の呼びかけに返答もせず、少し不思議な気分に浸っていた。

どこかで見たことがある、どこかで聞いたことがある。

そんな気がしていたのだろう。


―――まあ、よくあるデジャヴってやつだ。


「んん、ん~、んん!」


「ん?なんて言ってるの?聞こえないよ!」


池田が口をもごつかせて何かを叫んでいるが、なるみとしずるにはその声がどうも聞き取れない。

必死になって繰り返し叫ぶが、その労力も無に帰してしまっている。

なるみとしずるは首をかしげたままだ。


「早く、魔法少女モードになるために、儀式を行って。と言っているぞ」


大女がその大きな口を開けて、池田の悲痛な叫びを代弁した…。


―――えっ?

大女、何ばらしちゃってるの?


「ありがとう!知らない誰かさん!」


「知らない誰かさんじゃないわ!われの名はナイトオブナイト。この世を統べる暗黒の帝王…。


「―――って、なんで私こいつの言ってることあいつらに教えちゃったの!てか、私じゃないし。一人称、われだし。んんっ。とにかく、われに刃向うな!貴様らも、とっととわれにつかまれ!」


ナイトオブナイト(大女)は自らの失態に気づき、その大きな口を大きく明けて呆然としている。

必死なのだろう、額から汗がたらりと落ちてきている。

それを拭おうともせず、なるみとしずるを見つめ続ける。

しかし、その目つきは先程のような余裕のある厳しいものではなく、悲しいかな、少し涙ぐんだようにもみえる。


「そういうわけにはいかないよ。友達がいっぱい苦しんでるんだ。こんなの見過ごすなんてできないよね、なるみちゃん?」


「うん。絶対そんなことできない!しずるくん、魔法少女になるため、池田さんが言っていた儀式、やってみよう!昨日、教わったあの儀式!」


「え…?あれ、やるの…。いやだよ、恥ずかしいよ!」


しずるの顔が急にこわばる。

今更何を言っているのだろうか、と言いたくもなるが、どうやら同級生たちを救うために、という理由があったとしても、あの儀式をもう一度行うのにためらいがあるらしい。


―――しずる、お前昨日結構ノリノリに詠唱してたじゃないか…。


「けど、仕方ないじゃん!みんなを救うためだよ、ほらっ!」


「うん…!」


しずるはなるみに半ば強制されつつ、昨日池田に教わった魔法少女変身の儀式…、あの恥ずかしい詠唱を始めたのだ。


「遥か天空から舞い降りしこの躯。蒼天の翼を羽ばたかせ、韋駄天の脚で駆け抜ける。天上天下唯我独尊。響け、天の彼方まで。凍てつけ、遠い山々までも。エターナルフォースブリザード!」


「遠い未来からやってきたこの躯。漆黒の爪を振り回し、群雄割拠の時代を生きる。犬が西向きゃ尾は東。響け、あの子 の心まで。打ち砕け、全てがなくなるまで。サンダーライトニングクラッシャー!」


二人は、昨日同様大きな光の中に包み込まれた。

凄まじい光の音が鳴り響く中、彼女たちの変身が行われているのだ。


―――そして、光は徐々に消え…


「ふたりはプリズム!」


なるみとしずるは声を揃えてそう叫び、無事魔法少女へと変身した。

二人は大事な同級生(およびフェレットもどきの池田)を助けるべく、果敢にナイトオブナイトに立ち向かおうとしていた。


「ほう。ならば、その魔法少女とやら2人。われに挑んでみるがよい。この暗黒界の帝王、ナイトオブ…」


「ウルトラキーック!」


「ぐはっ」


しずるのウルトラキックが大女の腹に突き刺さる。

ナイトオブナイトは一瞬転げそうになったものの、手でお腹についたしずるの靴裏の汚れを「パンパンッ」と振り払い、二人に迫ってきた。


―――てか、しずる。その技、なるみのものだぞ?


―――てか、お前もせっかく魔法少女になれたのに物理的攻撃なのかよ…。


「貴様!われの邪魔をするな!しかもまだ宣戦布告前ではないか!国際法違反だぞ!もうよい、貴様はこうしてやる!ナイトオブオブディエント!」


「あぁああああっ」


ナイトオブナイトは両手をしずるに向け、怪しい光を放った。

その禍々しい光は電流のようにしずるの全身を駆け巡り、そして、倒れた。


―――てか、暗黒界にも「国際法」ってあるんだな…。


「し、しずるくん…!」


「あああああああっ…」


しずるはあまりの激痛のためか、立ち上がることができない。

床に這いつくばり、のたうち回りながらその痛みに耐えている。


「クックック。もう無駄だ。こいつはわれの服従の呪文で操り人形と化した。さあ、あの小娘に制裁を与えよ!」


「うああああああああ!」


しかし、ナイトオブナイトのその言葉に反応し、しずるは未だ全身に怪しい光をまといながら立ち上がる。

そして、その目はなるみの方を向いていた。

先程までとは全く違う目つきだ。

眼光は鋭く、まるでトラが獲物を捉えたかのような視線を向ける。

また、口からはよだれを垂らし、犬歯が少し成長したのかまるで牙のように外にむき出している。


「うぉおおおおおお!!」


「きゃあ!」


「うああああああああ!」


―――そしてついに、しずるはなるみに飛びかかる。


なるみは一瞬その牙に身体をえぐられかけたが、すんでのところでなんとか回避し、間合いを取る。


「もう、しずるくん!どうしちゃったの!」


しずるの急な変貌ぶりにまだ収拾がつかないようだ。

しかし、そんなこともいざ知らず、しずるは引き続き恐ろしい目つきをしながら、徐々になるみとの間合いを詰めてくる。


「だから、無駄だと言ったはずだ。話しかけたところで、何も反応などせぬ」


ナイトオブナイトが横から口を出す。

その口元は大きく歪み、なるみがヤラれるのを待ち望んでいるかのような眼差しも向けている。


「―――ただ、一度攻撃をくらわせて気絶させれば、もとに戻るがな…。って、私何を言っているんだ!なんで、ネタバラシ…!」


―――おい、大女…、いくらなんでもそれはないだろ…。


「ありがとう、バイトオブバイトさん!」


「ナイトオブナイトだよ!なんだよ、バイトオブバイトって!最強の社畜みたいじゃないか!」


なるみはナイトオブナイトの壮絶なネタバラシに感謝の念を表しつつ、しずると相対する。

ナイトオブナイトは2回ものちょけをやらかしてしまい、頭を抱える。

大きな口もあんぐりと開き、今にも顎が外れそうだ。


「とりあえず、しずるくん。ちょっと痛いけど、我慢してね…!春風なるみ、いきます!」


「うおおおおおおお!」


なるみとしずるはさらに間合いを詰め、互いに攻撃を仕掛けた。

なるみは、右手に持つ魔法のステッキからピンク色を帯びた光線を発射し、しずるを攻撃。


「ぐはっ…。ガルル…、うぉ、おおおおおおおお!」


光線はしずるの腹に直撃し、一瞬ダウンしたものの、再度なるみに飛びかかり、その大きく伸びた爪でなるみの身体を引き裂こうとする。


「きゃっ…!痛いっ…!」


なるみは何とかギリギリのところで回避を狙うも、避けきることができず、右腕に傷を負ってしまった。

少量ながら、幼い少女から血しぶきが上がった。


「いたたっ…。し、しずるくん。お願い、これで気絶して…。くらえ、トルネードスピン!」


―――なるみの魔法のステッキから念力が…!


その念力はしずるの身体にまとわりつき、大きく何度も何度も回転した。

教室に散財された机に幾度となくぶつかり、獣と化したしずるはついに倒れた。


「あああああああああ!」


しずるが倒れたその瞬間、見る見る内に見た目がもとの魔法少女の姿へ戻っていった。

犬歯も、爪も元通りだ。


―――もちろん、フリフリのスカートも…。


「しずるくん!大丈夫?」


「―――な、なるみちゃん。どうして、僕…」


なるみはしずるのそばに駆け寄り、その身体を支えた。

傷を追わせた箇所を手でかざしている。

どうやら回復系の魔法らしい。


「今はいいの。とにかく今は、あのナイトオブバイトさんを倒さなきゃ」


「だから、ナイトオブナイトだ!夜の騎士だ!ナイトオブバイトだと、バイトの騎士で、やっぱり社畜みたいじゃないか!」


―――バイトの騎士…。エ○アの騎士みたいだな…。


「うん、でもどうすれば…?」


しずるは少し落ち着いたのか、なるみの問いかけに答えた。


―――それもそうだ。

一体どうやって幼い2人があの大女を倒すことができるのだろうか。

確かに見る限りたまにヘマはするが、体格で言うと、とても幼い2人が勝てそうな相手ではない。


「んんんーんん!」


再び池田がガムテープ越しに大きな声を出している。

何かしらアドバイスを二人にしているようだが、いかんせんガムテープが何重にも貼られているため、何を言っているのか皆目検討もつかない。

案の定、二人はポカンとした表情で池田を見つめている。


「なるみはエターナルフォーズブリザード、しずるはサンダーライトニングクラッシャーを放て!と、言っているぞ」


「―――って、私としたことが…。また教えてしまって…。もう!私の馬鹿馬鹿!」


―――ナイトオブナイト、仏の顔も三度までだぞ…。

多分、お前のいる暗黒界の仏的存在・閻魔様も三度までしか許してくれないぞ…。


ナイトオブナイトは自分で自分の頭をポカポカと叩く。

あまりに多すぎるヘマに、自分で自分が嫌になったのだろう。


「しずるくん。そうと決まれば、大丈夫だよね。いくよ!」


「うん。みんなを守るためだ。やろう!」


なるみとしずるはお互いに目を合わせ、うんうんっとうなずきあった。

そして目を閉じ、呪文を詠唱するのだ。


「凍てつけ、遠い山々までも。エターナルフォースブリザード!」


「打ち砕け、全てがなくなるまで。サンダーライトニングクラッシャー!」


二人の持つステッキからは変身時の大きな光と遜色ない、いやそれ以上の光が出現した。

なるみのステッキからはピンクの光、しずるのステッキからはブルーの光が出現し、まるで大砲から発射されるレーザー光線のようにナイトオブナイトへ向かっていった。


「そのような攻撃でわれに勝てるとでも思ったか!」


ナイトオブナイトは自分自身に向かってくる2つの光線に対し、全くもって動じなかった。

それどころか不敵な笑みを浮かべつつ、その大きな口をさらに大きく明けて叫んだ。


「―――暗黒界最強の奥義、ダークネスカオスネクロフィア!」


ナイトオブナイトは両手を二人に向け、そしてその手からは邪悪な光が一線となってなるみ・しずるめがけて発射された。


―――ゴゴゴゴゴゴッッッ。


計3つの光線が凄まじいスピードで互いに向かって発射され、教室ではとてつもない轟音が鳴り響く。

まるで、下りと上りの特急電車が双方からぶつかろうと猛スピードで向かっているような感じだ。


「うおおおおおおおおお!!」


「負けないっ!はああああああああ!」


―――――ドドドドドドドドドッッッッ。


そして、光線同士がぶつかりあう。

なるみ・しずるのピンクとブルーの光線、ナイトオブナイトの邪悪な漆黒な光線。


お互いの色がお互いの色を染め合い、まさに光線同士が拮抗している。

音は依然として激しく、ぶつかりあっている箇所は、火花のように光線はチッチッと教室中に広がっていく。


「このままじゃ…、持たないよ…」


「そうだね。しずるくん!こういうときは二人合わせていっせーのーで、で!」


「うん!」


―――拮抗を打開すべく、なるみとしずるはお互いのステッキを重ね合わせ、そして…


「いっせーのーでっ!!!」


―――ドビュシィイイイイイイイ。


ピンクとブルーの光線は螺旋状に絡み合い、勢いを増し、ナイトオブナイトめがけて一心不乱に突き進んだ。

ナイトオブナイトの漆黒の光線は徐々に徐々に二人の光線の色に染め上げられ、そして…


「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


二人の放った光線はナイトオブナイトの身体に命中!

黒いマントは一気にピンクブルーに染め上げられ、そのままナイトオブナイトの大きな身体は光に包まれ消えていった。


「やった!」


「なるみちゃん!」


「しずるくん!」


二人は勝利の歓声を上げる。

教室で囚われの身となっていた同級生たちも、歓喜の声を上げている。

これでようやく、自由の身になれるのだ。


「なるみちゃん、早くみんなを助けなきゃ!」


「うん、そうだね!」


なるみとしずるは、同級生たちのて足にきつく結び付けられている紐を次々と解いていく。


「ありがとう」

「よかったぁああ」

「しずるくん、かっこよかったよ」

「なるみちゃん、本当にありがとう…!」


次々に二人に感謝の言葉が向けられる。

まんざらでもないようだが、少し照れくさいらしく、二人は真っ赤な顔でお互いを見合わせている。


「―――はい、最後に池田さん!」


「池田さん、やったよ!僕たち勝ったんだよ!あの、暗黒の帝王に!」


二人は、次々と同級生たちを解放したあと、最後に池田のガムテープと手足に結び付けられた紐を解き、解放した。


「うん。君たち、よくがんばったね。えらい!」


「うんっ!」


池田がなるみとしずるに向かって声をかけると、二人は声を揃えて笑顔で答える。


「よし。じゃあ、いいね。魔法少女、満喫できたよね?」


―――池田の顔つきが少し変わった。

先程までは喜んでいた表情だったが、今はそうではない。

とはいっても怒っているわけでも、悲しんでいるわけでもない。

強いて言えば真顔そのものだった。


「うんっ!」


しかし、なるみとしずるはそんな池田の微妙な表情の変化にも気付かず、引き続き笑顔で受け答えをしたのだ。

これは、まだ二人が幼いといったところに起因するのだろう。


「よし。じゃあ、そろそろお暇しようか。お休みしよう」


池田の顔が少し寂しげになる。

しかし、どこか冷酷な表情も秘めているような、そんな感じだ。


「そうだね、お休みしよっか」


「うん。僕も疲れたよ。あ…!」


「何、しずるくん!」


しずるの頬が紅潮する。

なるみはそんな表情の変化にも気づかず、しずるの目をじっと見つめる。


「えっとね…」


(どうしよう…、けど、この場面、一番告白に適したタイミングだよね…)


しずるは自問自答する。

このタイミングでなるみに告白をしようかしまいか悩んでいるのだ。


―――いや、ここはそのままでいけよ!

いけよ!しずる!


「どうしたの?」


たまらなくなったのか、なるみが顔をしずるに近づけそう伺う。

しずるは赤くなった頬をさらに赤くしながらも…、


「あのね、なるみちゃん。僕、実は…。なるみちゃんのことが大好きなんだ!だから…、その…」


※※※※※※※


―――――パンッッッ


教室に乾いた音が響いた。

そして、一人の男が倒れた。

右手には拳銃が握られており、自身の頭をこめかみから撃ち抜いていたのだ。


「―――被疑者の死亡を確認しました」


数名の警察官が男を取り囲み、そう言い放った。

無残にも、本来教室にいるはずの子どもたちの黄色い声はなく、おびただしい血の海とともに、死体となって年端もいかない子どもたちが横たわっていた。


―――ただ、警察官の涙を押し殺した、被疑者死亡確認の言葉と、まだ外でなり続けるパトカーのサイレン音だけが教室中に鳴り響いた……。


ウーウーーウーーウーーーーウーウーーーーーー……


※※※※※※※


「―――えー、今回のこの学校への襲撃事件についてですが…。残念ながら、死亡者は35名。被害者は全員3年B組の子どもたちでした。言い方は悪いですが、教員含めこのクラス所属の人は皆殺しにされました」


ここは、小学校の校長室。

校長と教頭が横並びに座ってカメラを前に話している。

多くの記者が居並び、異様な雰囲気だ。


「えー、続けます。犯人は、学校内に入り次第、入り口から一番近かった3年B組に向かい、所持していた拳銃を教室内で乱射したと聞いています」


教頭は隣で涙をハンカチで拭いながら説明を続けるが、校長は淡々と事実を述べていく。

しかし、明らかに表情から悲痛を押し殺していることがわかった。

学校の先頭に立つ自分自身がしっかりとしないと、今後のやり直しが聞かない、そう思ったのだろう。


「―――それでは今から、被害者の名前を言っていきます。安藤博則、佐藤彩、夏野しずる、春風なるみ、松本里香、……………」


「―――そして、実行犯は、池田太郎。犯行後、所持していた拳銃で頭を撃ち抜き死亡しました」


…………………………。

………………………。

……………………。

…………………。

………………。

……………。

…………。

………。

……。

…。


※※※※※※※


―――――なるみちゃんと、しずるくんは夢を見ていたのでした。

あこがれの魔法少女になって、悪と戦う。

そんな、子どもながらにして壮大な夢を見ていたのでした。


そして、しずるくんはもう一つの夢、なるみちゃんと一緒になることも叶いました。

それから、その夢がかなった後、2人はお星様になりました。


―――遥か天空の彼方で。

2人寄り添って……。


ふたりはプリズムの輝きを見せ、わたしたちを照らしてくれています。

いつまでも、永遠に………………。


Fin

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[良い点] 読みやすくて楽しかったです。色々なパロディーが文章の中に込められていてクスリとさせられました。 [気になる点] 散財ではなく散在ではないでしょうか^^; [一言] 個人的には夜の騎手さんに…
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