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虹色戦争  作者: ますじろう
3/5

第2話 獅子王マナブの過去

「落ち着いて聞いてください、

 獅子王ヒデキさんは……死にました」


「そんな……」


 その場に崩れるソラ


「うそでしょ? ねぇ、嘘なんでしょ?」


 膝立ちで泣きながら職員の服の裾を引っ張るヒナ


「奥さん落ち着いてください、

 獅子王ヒデキさんの乗っていた船の通信と、

 ヒデキさんのLHDの反応が途絶えました。

 Dump siteに向かった39隻ぜんぶ消息不明です。

 おそらく、流星群と衝突した可能性があります。」


 ヒナが地面に崩れ落ち、職員の顔を見上げて言う


「流星群って…流星群予報はしてたんですよね?

 衝突しないようにするのが、あなたたち司令部の仕事でしょ?」


「そうゆうことは、現在調査中ですので……」


 話を遮るようにドアを開けて職員の上司が入ってくる。


「おい、なにしてんだ、早くしろ」


「すいません」


 上司に頭をさげる職員


「報告は以上です。では、失礼します」


 職員が立ち去ろうとする


「夫を返して、ねぇ主人を返してください」


 狂ったように職員の服を引っ張るヒナ


 普段は温厚なヒナのこんな姿を

 ソラは初めて見たのであった。


「いい加減にしてくださいよ奥さん、

 こっちも一気に人手不足で困ってるんですから、

 遺族年金は、しっかり今月から支給されますんで。

 それじゃあ失礼します。」


 無愛想にドアを閉めていく上司

 申し訳なさそうに一礼して、上司の後を追う職員


「そんな……」


 床にしばらく座り込むヒナとソラ


 黙っていたマナブが、居間からやってきて呟く


「あいつは、死んどらんよ」


「へ? じいちゃん……なに言ってるんだよ……」


「だから、ヒデキは、死んどらんと言ってるんだ!」


 少し怒鳴るように言うと


「だから、二人とも、もう、泣くのはおやめ……」


 とマナブは、優しく呟く


「お義父さん、私にはなにを言っているかわかりません……」


「ヒナさん、深呼吸をしてごらん」


「はい……」


 深呼吸をするヒナ


「ゆっくり話をしよう、こっちにおいで」


 食卓に戻る3人


「本当なら、黙っておくつもりだったのだが

 これ以上、悲しむヒナさんやソラを見てられなくなってな……」


「あの人は生きているんですか?」


 テーブルを叩き立ち上がるヒナ


「あぁ」


 深く頷くマナブ


「もう、なにがなんだか……

 だってブリオッシュ区動物輸送管理局が、

 輸送船が、全部消息不明だって、

 それに主人のLHD反応が、途絶えたって……」


「LHDなら、わしが解除方法を教えた」


  ソラとヒナが驚きの表情を浮かべる。


 数秒、場が静まりかえり、

 沈黙に耐えかねたように、ソラが口を開く


「でも、なんで父さんはこんなことを?」


「そうですよ、お義父さん、どうして?」


 ヒナとソラは、

 なぜ、マナブがLHDの解除方法を知っていたか

 などということは、気にも留めなかった。

 それよりも、なぜ、ヒデキが自分たちに黙って

 このような行動にでたのかを知ることの方が

 2人にとっては、重要だった。


「それは、わしにもわからん」


 ー獅子王家 地下研究室ー 2日前


 研究室を物色している

 ヒデキを発見したマナブ


「お前、そこでなにをしとる」


「おっと、オヤジ、いいところに来たぜ、話がある……」


 いつになく、真剣な表情のヒデキ


「金ならやらんぞ」


「おいおい、まだ、金とは言ってねーぜ」


「なら、なんのようだ」


「オヤジさっ、昔LHDを開発しただろ?」


「お前、なんでそれを」


 焦った表情のマナブ

 マナブから冷や汗が流れる


「オヤジの日記見つけちゃってさ……」


 ヒデキを睨むマナブ

 マナブが口を開こうとするのを遮るように

 ヒデキが続けて喋り続ける


「まぁ、怒る前に最後まで聞いてくれや!

 LHDの解除方法……教えてくれない?」


「なにを言ってる!LHDを解除することがどうゆうことか、わかってるのか?」


「あぁーわかってる、

 人間やめるってことだろ?その覚悟もある……」


 下を向くマナブ


「でも、なぜじゃ……」


 マナブは、ヒデキと目を合わせる


 ヒデキの表情に迷いはなかった。


「本気なんだな?」


「あぁ、マジだ。

 俺は、この世界に失望したんだ。

 だから、俺が世界を変える」


「ヒナさんには……ソラには、なんていうんだ!」


「俺は明後日、Dump siteに、

 出発する宇宙船39隻全てを占領する。

 全員のLHDを解除してな、

 だから、夜ぐらいには動物輸送管理局が来るはずだ。

 俺の死亡報告に……

 おそらく、奴らは流星群衝突で片付けるだろうよ。

 そしたらヒナとソラにはそのまま、

 死んだということにしておいてくれ

 ソラにはテロリストの子供なんて、肩書きを背負わせたくない」


「止めても行くんだな?」


「俺は、あんたの息子だからよ」


「わかった……好きにしろ」


 ー獅子王家 居間ー 現在


「私、コンタクトして見ます。あのバカ……」


 涙をを流すヒナ


「無駄じゃ」


「そんなの、やってみないと……」


「ヒナさん、LHDを解除するってことはな、

 人間をやめるってことじゃ。

 あいつは、もう、地球には戻ってこない……」


「でも……」


「もういいよ……母さん、

 僕は父さんを信じるよ。

 信じるしかないよ……」


「ソラ……ソラは、父さんがもう地球に戻ってこなくても父さんと、もう会えなくてもいいの?」


 ソラの体を掴み、揺らすヒナ


「そんなのいやだよ。

 でもさ……

 でも、考えたって、仕方ないじゃないか!」


 ここまで抑えていた

 ソラの感情が爆発する。


「考えたって……」


「ソラの言う通りじゃよ……

 今はあいつを信じてやってくれ。

 くよくよしたって、なにも始まらんよ」


「そうですよね……

 あの人は生きてるんだから、私たちも前を向かないと」


 ヒナが笑顔をつくる


 マナブが立ち上がる


「ヒナさん、ソラ

 今日はもう、休みなさい」


「お義父さんは?」


「わたしは研究室に行く。

 ちょっと確かめたいものがあってな。

 あいつのことで……何かわかるかもしれない」


「お願いします。お先に寝ます」


「おやすみ、じーちゃん」


「あぁ、おやすみ」


 そう言うとマナブは地下室にある研究室に向かった。

 マナブが、階段を、一段、一段、降りるにつれ、

 頭の片隅に浮かんでいたある不安が、

 どんどん大きくなっていった。

 マナブは研究室のドアを開けると真っ先に日記を確認した。

 パラパラとめくり折り目がついてるページに目を留めた。


「私は科学者として最も大きな失敗を犯してしまった。」……


 という書き出しで、

 マナブが前に研究していたある、

 薬品についての日記だった。

 マナブの顔が青ざめた。

 マナブは急いで薬品庫に向かい、

 暗証番号を入力し、開いた。


「ない……」


 マナブの脳内で膨らんでいた不安が爆発した。

 あるはずのものがない、

 それはマナブが、家族にも教えたことがないパンドラの箱だった。


 ー60年前ープリン王国生物研究室


「できたっ!ついにできたぞ!サンダース!

 おっと、サンダース宰相だったな」


 マナブは完成した薬品を注射器に入れる


「やめてくれよマナブ、私たちは親友だろ」


「あぁ、もちろんだ」


「もう直ぐたくさんの血を流した戦いが終わる

 そして、プリン王国を中心とする平和な世界が完成する。

 私がただ表舞台に立っただけだよ、

 君が宰相を引き受けてくれていたら

 血を流さずにうまく世界を統一できていたかもしれないね」


 切なそうな表情のサンダース


「いや、私はそんな器じゃないよ

 私がやったとしても同じ結果になったさ、

 世界を統一する、歴史上、誰もなし得なかったことだ。

 流血なしには無理なことさ…残念ながらね

 私はもっと研究したいことがたくさんある。

 それに、この世界をを引っ張っていくのに君ほどふさわしい人間はいないよ」


「マナブに褒められるとは、これほどにない幸せだな。

 で、それの話を聞かせてくれ」


 サンダースが、注射器を指差す


「これは、すごい発明だ、動物を強制的に進化させるんだよ」


 無邪気な子供のようなマナブ


「強制的に進化だって!?

 すごいな、それができれば動物と人間が共存できるかもしれない」


「あぁ、人間は自分より劣っていているものを、

 見下し粗末に扱う」


「だから、動物が進化すれば、

 人間は動物を対等に考え共存できるというわけか」


「そういうこと!

 これで、動物輸送を進める世論もひっくり返せるかもしれない」


「実験には何を使う? ライオンか? チーターか?」


 興味津々のサンダース


「カエルだ!」


「世紀の発明だぞ?

 世界に発表するなら、見栄えもいいほうがいい」


「実はまだ不安なんだ、

 これには私のDNAとやつらのDNAを混ぜてる)


「やつら?」


「プリン王国の王様いるだろ?

 そこで保護している戦闘民族だよ。そんな奴らのDNAだ。

 ライオンやチーターそんな野獣に投与したら抑えがきかなくなる。


「共存どころか人間を食い尽くしちまうな……

 戦闘民族ってピーチ民族か?あの第47銀河を征服したっていう伝説の殺戮集団」


「まぁ、それも過去の話だよ。

 隕石の衝突で、壊滅的被害。

 人口の96%が死に、生き残りは銀河連合に保護。

 地球にも受け入れ要請が来て、

 世論の反対もあったが、

 プリン王国第32代王モンブランの独断で、

 赤ん坊6人の受け入れを決めたっていう。

 ちょっと訳ありのやつらだよ」


「よし、カエルのいきのいいやつを選んでやる」


 カエルの飼育ケースを覗き込むサンダース


「よしこいつにしよう」


 サンダースをじっと見つめるカエル


「言われた通り部屋は用意してある。

 あと警備兵も数名ほど……」


「警備兵はもしものときのためだよ。心配はいらない」


「あぁ」


 二人で会話をしながら

 部屋へと向かう。

 360度全てが真っ白の部屋だ


 サンダースが部屋の暗証番号を入力する


 ドアが開く


「いよいよだな……」


「警備兵のみなさん、もしものときはこのカエルを殺すつもりでお願いします」


「はいっ!」

 鍛えてあげられた男たちの勇ましい声が部屋に響き渡った。


「俺、カエルが相手なんて初めてだぜ」


 隊員たちの話し声が聞こえる


 マナブはカエルに薬品を投与し、部屋の中央へカエルを投げた。


 緊張が走る


 ボトンッという生々しい音と共に、

 カエルが床に叩きつけられた。


 5秒ぐらいしてカエルは、もがき苦しみ出した。

 それと同時に体がどんどん肥大していくのが分かった。

 変化が始まってから10秒ほどで体は人間のような体つきになった。


 体の成長が止まった時、カエルの動きが止まった。


「失敗か……」


 マナブが、そうつぶやき、

 サンダースが駆け寄ろうとした瞬間、

 2人の目の前に笑いながらサンダースの左腕をひきちぎる、

 不気味なカエルの化け物の姿があった。


 カエルは笑いながら言った


「あれ、まだ体が完全に機能してねーや。

 殺すつもりだったのに……」


 カエルはニヤリと微笑み

 けたたましい笑い声を部屋に響かせた。


「すげぇ力だぜ。パワーがみなぎってくる」


「ばけものめ!」


 一瞬ひるんだが、

 警備兵がカエルに向かって、一斉射撃を開始した。

 カエルはすべての弾を体で受けた。


「はちのすだぜ」


 警備兵達が安堵の表情を浮かべたのと同時に


 サンダースとマナブは外に出た。


「失敗だな……」


 落胆したようにサンダースが言う


「大丈夫なのか?サンダース」


「あぁ、腕の一本や二本

 科学の進歩には、犠牲がつきものだ。

 さぁ、上で高みの見物と行こうか」


 サンダースの左腕からは血が絶え間なく流れ落ちる


「救護スタッフを要請しておいた」


「あぁ、助かるよ」


 二人はこの部屋を監視することのできる、司令室に向かった。

 椅子に座り救護スタッフによる、

 サンダースの治療が始まろうとした時

 2人の脳内に激震が走った。


 モニタに映されている映像は、

 2人の想像とは真逆のものだった。


 警備兵が皆、血を流し倒れているのだ。

 体が、引き裂かれているものもいた。


 そして、その見るも無残な光景よりも、

 衝撃的だったのが、部屋の中央で、

 お腹を抱えながら笑うカエルだった。


「うけるー!

 肉体が引き裂ける瞬間たまらないぜ」


 笑い叫び、

 腹を抱えてもがき苦しむ姿を、

 ただただ見ることしかできない自分が、

 マナブは何より情けなかった。


 自分のせいでたくさんの人が死んだ、

 その事実をさっきサンダースが言った、

 科学の進歩に犠牲はつきものだ、

 という一言で片付けしまえるほど、

 マナブ心は強くなかった。


 映像を見ながら30秒ほど、

 マナブは放心状態であった。


 その間のマナブの心情は、

 自分の発明がしっかり機能していると言う喜びより、

 目の前にいる卑劣なばけものを、

 自分が作り出してしまったという後悔が大きかった。


 それをみかねてサンダースが、

 残る右手でボタンを押しが催眠ガスを発生させた。


「ぼーっとするな、マナブ!」


 サンダースがマナブを一喝する


「すまない」


 顔が青ざめているマナブ


「お前のせいじゃない。

 奴らが死んだのは奴らが、

 トレーニング不足だった……ただ、それだけだ」


 マナブは言葉が出なかった……


 室内に段々とガスが満たされていった。


「さーて次はだれを殺ろうかな?」


「お前だ! !」


 こちらに向かって指を指す

 カエルがモニターに映る


 マナブの冷や汗が止まらない


 カエルは、ニヤッと微笑むと

 あたりを見回し出口を発見すると

 まっしぐらに走り出した


 終わった……マナブがそう思った瞬間


 カエルが床に倒れこんだ


「助かったよ、

 もしあいつが外に逃げ出していたら……何億いや何十億」


 頭を抱えるマナブ


 その姿を見てサンダースが怒る


「マナブ! いい加減にしろ!

 お前が今考えなければいけないことは、

 そんなことじゃないだろ? この化け物をどうするかだ……」


「すまない……」


 二人はカエルがいる白い部屋へ向かった。

 サンダースが暗証番号を入力し中に入ると

 さっきまでモニターで見ていた無惨な光景が目の前に現れる。

 白い床が血で染まり、

 警備兵の死体が無造作に散らばっていた。


 サンダースが、カエルの元へと歩き

 気絶しているのを確認して

 マナブに問う


「こいつどうするつもりだ? 殺すか?」


「いや、私の知り合いの研究室に運ぶ」


「おっと正気か?……」

 やめといた方がいいと思うぞ

 もし、そこから逃げ出してみろ

 お前のさっきの想定が現実のものとなるぞ」


「A級宇宙生物を専門に扱う

 研究者だ。私は彼を信頼している」


「まぁ、いい。

 こいつは、お前のものだ、好きにしろ」


 ー研究室ー 現在


「カエル……カエルだ」


 マナブは、瞬時に最悪事態を想定した

 これが、マナブの癖だ。


 マナブは、知人に急いでコンタクトをした。

 A級宇宙生物を専門に研究している、旧友だった。


 ーコンタクトー


獅子王マナブ/春夏冬博士


「はい、こちら、アキナシだ。

 久しぶりだなマナブ!」


「アキナシのところに私の倅がこなかったか?」


「あぁ、きたよ」


「いつだ?倅が来たのは」


「どうしたんだ?そんなに急いで」


「すまない。緊急なんだ、いつだ? ヒデキが来たのは?」


「えっと……

 丁度2日前だ。朝から訪ねて来てね。

 えっと、お前が60年前に持ってきた、あれ、キマイラを、

 親父に頼まれて引き取りに来たっていうんで。」


「なぜ、私に報告しなかった。A級宇宙生物だぞ?」


「なぜって、お前の息子が取りに来たんだぞ?

 それに、A級宇宙生物と言っても、

 60年も人を殺してない、しっかり、善悪の区別も教えてきたつもりだ。

 前のようにむやみやたらに人間をやるような卑劣な化け物じゃないよあいつは……」


「安全なんだな? あのカエル」


「心配するな、ヒデキ君が殺されるようなことはないよ、

 まぁ、あの戦闘能力は健在だがね」


「わかった、ありがとう。

 じゃあまた何かあったらよろしく頼むよ」


「マナブ、あんまり1人で抱え込むなよ?

 困った時は仲間を頼れ!」


「あぁ、助かるよ」


 ー獅子王家 地下研究室ー


「あのバカ息子が……」


 マナブにはヒデキがやろうとしていることがわかった。

 あの時、研究室で、息子の眼差しに圧倒され、

 見逃したが、あの時止めていればと、

 ヒデキがやろうとしている事の大きさ故、

 マナブは後悔しても仕切れなかった。

 マナブ人生二度目の大きな後悔であった。


 END


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