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虹色戦争  作者: ますじろう
2/5

第1話 終わりの始まり

 ー学校 教室ー プリン歴 368年


 スクリーンにはプリン王国の歴史が写されている。


 気温 22°C 湿度40%気流0.1m/sに設定された、

快適空間でも、巨漢の大猩猩先生の額からは汗がどっと噴き出す。


「明日、今日教えた、地球とDump siteの関係について、テストするから、勉強しくんだぞ!」


 教室がざわつく


 Tha教師に憧れていた、大猩猩先生にとっては、生徒の反応は100点だ。


 授業終了のチャイムが、教室に鳴り響く。


 教師の仕事内容は科学の進歩とともに簡略化され続けたが、教師という職が、昨今のロボット化の風潮から、守られたのは、教育には心と心によるコミュニケーションが欠かせないという、研究結果からだった。

 なにより、中学生という、思春期真っ盛りの時期は、最もデリケートで扱いにくい。


「はいっ、授業は、終わりです」


 大猩猩が、立ち去ろうとした時、

1人の生徒が立ち上がる


「先生ー」


 獅子王ソラ、彼はまさに、思春期真っ盛りであった。


「なんだ?獅子王 」


「動物を、自分たちの生活に、邪魔だから、他の惑星に送るってことでしょ?それって、ひどいと思います」


 真剣な表情で問いかける。


「それは違うぞ! 獅子王、この地球はな、狭い!

地球には300億人住んでるんだ。

まだまだ、増え続ける。

 だからなっ、人間が住むだけで精一杯なんだ。

 動物たちも窮屈な暮らしはいやだろ?

 だから、動物たちをDump siteに送ることを、提案したんだ、

 わかったか?」


 熱血タイプの大猩猩は、本当なら、深く悩んだ上で、

自分なりの心のこもった受け答えをしたかった…

 そうしなきゃ、生徒とのほんとの意味でのコミュニケーションは、取れないということも分かっていた。

 だが、国の方針に関しては中央政府のマニュアル通りの受け答えしかできなかった。


「だから……」


当然、生徒は納得しない


「もう、いいか? 獅子王、先生これから会議なんだ。

 はーい、じゃあテスト勉強頑張るように」


 大猩猩は、小走りで教室を出る。

 大猩猩は、悔しかった…

 真っ直ぐにぶつかってきてくれる生徒から逃げることしかできない自分が、情けなかった。

 これでいいんだと、自分に暗示をかけながら、会議室に向かう。


 ー教室ー

 ソラの周りに仲の良い数人が集まっている。


「ソラ、逃げられたな」


「大人は都合が悪いとすぐこれだ」


「俺はなあいつらが、なんかに怯えてるんじゃないかって考えてる」


 一人の生徒が冗談まじりに言う。


「なにかって、なに?」


 ソラの食いつきに戸惑う生徒


「それは、まだ、わかんねーけど。やっぱ、国家権力とか?」


 また、冗談まじりに言う


「敵は国家か……」


 ため息をつくソラ

 それを見て、笑い出す生徒


  「お前ほんとばかだな、そんなの戦って勝てるわけないじゃん?

まぁ、これも、俺のただの妄想だから気にすんな!」

 

ソラが何かを思いつく


  「シンジ!ちょっと付いてきてくれよ」


 寝ているシンジを起こし走っていくソラ


  「どこいくんだよ」


「確かめに行くんだよその敵を!」


 ソラが教室から出ていく


「ソラ!待てよ!」


 シンジも走って追っかける


「いいから付いてきてくれ」


 階段を降りて右に行き

 突き当りを左に行った先に目的地はあった。


「ソラ!ここ会議室じゃないか!」


「静かに!」


 ソラがシンジにジェスチャーをおくる


 会議室の扉に機械をあてる


 ー会議室ー

 大猩猩先生と校長先生が会話をしているようだ


「3年6組、まぁ、うちのクラスなんですが、

獅子王ソラはご存知ですか?」


「いろいろと問題のようだな」


「今日も中央政府の方針に疑問を感じているようでした」


「言い聞かせろ…それでもダメなら転校させろ」


「なにも、そこまで」


「そうするしかない!」


「でも……」


「来年には中央政府は情報統制を始める、

 分かるな?大猩猩くん」


 ー廊下 会議室前ー


「なんだって!」


 機械を通して聞こえる衝撃の情報に驚くシンジ。


「なぁ、シンジ! 情報統制ってなんだよ」


 ー会議室ー


「誰かに聞かれているようだな」


「私が見てきます」


 ー廊下 会議室前ー


「やばい、見つかった、逃げるぞ! シンジ」


「あぁ……」


 走り出す二人


 先生がドアに触れるが三分の一ほど開いて閉じる


「なにかがつっかえてるようです」

 

 機械がドアから外れドアが開く。


「誰もいない…これか…」


 小さくつぶやき機械を拾い、ふところにいれる


  「誰もいないようですね」


  「そうか……」



 ーその日の帰り道ー


「いやー、危なかった。

 捕まってたら俺たち、

転校させられてたな? ソラ!」


「あいつらさ、生きてる動物なんて、

見たことないくせに」


 ソラが小さく呟く


「ソラはあんの?」


「食肉用の豚や牛は、父ちゃんに、

こっそり見せてもらったんだ、もうかわいかったよ」


「へぇー、俺も見てみたいなぁー動物」


「じいちゃんに聞いたんだけど、ライオンっていうのは百獣の王でとっても、かっこよくて、鷹は空の王者なんだって」


「ライオンなら映像や資料で見たことあるよ、アッパー階級の貴族とかは、地球に密輸して飼育してるって噂だけどな」


「あぁ!あぁーー!」


「なんだよ、大声出して」


「あぁー、忘れた」


「なにを?」


「じいちゃんのターゲット盗聴器、会議室前に

 どうしよう!じいちゃんに怒られる」


「あぁ、あれか、もう無理だよ。

どうせ 、先生に取られてる」


「正直に言って謝るしかないか……」


「そんなことより、情報統制だよ」


「あ、そうだ! なんだよ! 情報統制って」


「中央政府が国民の言論にまで、

規制をかけるってことだよ」


「えっ! なんでだよ、そこまで制限されたら、

生きた心地しないよ……」


「父さんに聞いたんだけど。

大昔、王政に不満を持った市民が反乱をおこして王政を倒したって、不安の芽は、小さいうちに摘んでおこうってことよ。

 もちろん、LHDがあるから、武力行使はできないんだけどね」


「もっと他にやり方があるだろ! もう、こんな世界うんざりだ!」


「でも、本当の目的は人口調整だよ。ここ10年食糧不足だろ?

 オレたちミドル階級の人たちは、まだ、食べていけてるけど、

 ロウアーやロウアーミドルの人たちの食糧は少なくなってきている。

 でも、食糧を作っているのはロウアーやロウアーミドルの人たちだろ?

 だから、どうせ、減らすなら階級に関わらず中央政府にとって都合が悪い人たちを消すってことだよ」


「シンジは頭いいな」


「だってこれ、昨日の授業で言ってただろ?」


 すこしバカにしたように言う。


「そうだっけ」



 ー教室ー 昨日


 スクリーンにピラミッドが映されている


「いいかー? この世界には幾つかの階級が存在する。

 その頂上に立つのはもちろん、

 プリン王宮、その下が中央政府だ。

 中央政府は、この世界の全てを決める大事な組織だ。

 その下に、"アッパー"

 俺たちが一年間どんだけがんばってもアッパー階級の1日に使うお金すら稼ぐことはできない。

 その下が"アッパーミドル"

 アッパー階級には及ばないが、相当に富と権力を持ってる。

 その下が俺たち"ミドル"

 俺たちは金持ちとは言えねえが、当たり前のように飯を食って当たり前のように遊んで、勉強して、何不自由なく暮らせてる。

 幸せなことだ。

 だが、いいかー? その当たり前を、当たり前にできない、階級の人たちがいるってことを決して忘れるな!」

 


 ー帰り道ー 現在


「だから、ソラ……

 もう、中央政府の方針には逆らわないでくれ……」


 真剣な表情のシンジ


「それじゃあ、納得してなくても、納得しろと?


「うん」


「なんでも、はいはい、言ってろと?」


「うん」


「そんなの、ロボットと一緒じゃないか!」


 真剣な表情のソラ


「そうだよ……それでも、逆らっちゃいけないんだよ」


「なんで…なんでだよ

シンジも先生と一緒じゃないか」


「大事な友達を失いたくないんだ」


 ソラの話を遮るようにシンジが言う


「どうした、どうした、そんな大きな声出して」


「ダイモン!」


 いきなりの登場に驚く2人


「ずっといたけどよ、真剣な話してっから、

出ずらかったんだよ」


「ダイモンはどう思う?ソラのこと」


「どうって、ソラの人生だろ?

 ソラの好きなようにやればいいさ!」


 シンジが下をうつむく


「なんて、無責任なこと俺は絶対言わねえよ」


 シンジが顔を上げる


「俺はシンジと同じ考えだ!

 ソラは大事な友達だからよ!失いたくない。

 だから、ソラ、今は悔しいだろうが、

 お前の意見を堂々と言える日が来る。

その日まで黙ってろ」


「うん…わかった。

 なんか、うれしいなぁ。

 こんなシンジやダイモンに、

大事に思われてるって」


「あたりまえだろ!

ソラ、何年一緒にいると思ってるんだよ」


「なに泣いてんだよ」


 ダイモンがソラの背中を叩く


「俺はシンジほど、

お前との付き合いは長くねえけどよ、

気持ちはシンジにも負けねえぜ?」


「泣いてないよ」


 ソラが目をこする


「あ! 忘れてた、マホによ、

お前らを丘の上まで連れて来いって

言われてたんだ」


「マホたち丘の上にいるの?」


「たち? よくわかったな! ハルもいるぜ?」


「え…」


 頰を赤らめるソラ


「なに、照れてんだよ!」


「照れてないよ……」


「マホとハルか、久しぶりだな」


「俺もマホとは親ぐるみの付き合いだからよく会うけどよ

 ハルとはしばらく会ってねえな」


「はやくいこう!」


「おう!」


「うん!」



 ー丘の上ー


 マホとハルが会話をしている


「ハル、元気だしな!

 また、あいつらがハルに文句言ってきたら

 私が、またボコボコにしてやるから」


「うん……ありがとう。

 でも、もう、マホには迷惑かけられないよ」


「おぉーい、連れてきたぞ」


「デカ物がきたなっ」


「久しぶり!ハル、マホ」


 ソラと目が合い頰を赤らめるハル


「おぉー、ソラ、シンジ、ひさしぶりやな!元気か?」


「マホは相変わらず元気みたいだね」


「シンジもな!」


「マホは風邪の時ぐらいが、静かでいいんだかな、

 おっと、すまん、バカは風邪引かないんだったな!」


「そのセリフ、お前だけには、絶対に言われたくないんだけど」


「相変わらず、2人とも仲良いね! 」


「仲良くない! 」


 ダイモンとマホが声を揃えて言う


 突然笑い出すハル


 みんながハルの方を見る


「ハル……」


 嬉しそうな顔のマホ


「なんか、うれしいなぁー、

 昔みたいに、ダイモンとマホのケンカみてみんなで笑ってさ」


「道に迷ったらここに来ればいいだっけ」


「なんだそれ?」


「ソラが初めてここに連れてきてくれた時に言った言葉でしょ?」


「そうそう、三年前」


 ー丘の上にー三年前


「わぁー綺麗」


「すっげー」


「ここはさ、僕たち五人の、秘密の場所だよ」


「秘密の場所?」


「うん、僕たちが、大きくなって道に迷ったら、ここに来ればいい」


「なに言ってんだ?

 道に迷うって、迷ったらここにも、

これねぇだろうが!」


「空気を読め。ばか!

 道に迷うってのわね、

悩んだりしたらってことでしょっ、ソラ」


「う、うん、もちろんだよ」


「そんぐらい、マホに、言われなくても、わかってるわ」


「はいはい」


 呆れた表情のマホ


 ダイモンがふて腐れた表情でマホを睨みつける


「あのさっ」


 急に大声をあげるハル


「それ以外の時も来ていい?」


「うんっ、もちろんだとも」


「こんなとこ、ずっと、住んでて知らなかったよ」


「本当きれいだなぁここっ」



 ー丘の上ー現在


 三年前と同じ夕日が5人を照らしている


「そーだ、これからは

 みんな、忙しいだろうけどさ、定期的に

 ここに集まることにしよーよ」


「うちは賛成だな!

 ハルのこんな、笑顔観れたの久しぶりだし」


「俺もソラの意見に賛成だぜ、

俺はいつでも暇だからよ! なぁ、シンジ!」


「俺はダイモンみたいに、

いつでも、暇ってわけじゃないけど、

塾がない日はいけると思う……」


「じゃあ、決まりだな」


「やったー! これからは、こんなうれしいことが

 ずっと続くんだね!」


「そうだよーハル!」


 その時はまだ、誰も知らない

 この先、僕らに待ち受ける未来を


 ー獅子王家 玄関 ー 夜


「ただいまー」


「おかえりー、あら、なんか嬉しそうね!」


「うん、久しぶりに、みんなであつまってさ」


「みんなってハルちゃんだち?」


「うん、ハルとダイモンとシンジとマホ!」


「みんな元気そうだった?」


「うん」


「そー、よかったわね!

 お義父さん、ご飯ができましたよー」


 地下室から白衣を着た、白髭の男が出てくる


「おぉー、すまんなヒナさん、いつもご苦労様

 あれ?ヒナさん?」


「なんですか?お義父さん」


「ヒデキは、どこをほっつきあるいとるんじゃ」


「それが、連絡がつかなくて、今日はDump siteに

泊まる日じゃないと思うんですけど」


「まぁ、あいつのことだすぐに戻って来るだろう」


 ソラがマナブの顔を見てターゲット盗聴器をなくしたことを思い出す。

 ソラの表情に暗雲が立ち込める


「じいちゃん、実は今日、ターゲッ…」


 ソラの話を遮るように玄関のチャイムが鳴る


「僕が出て来るよ」


 ソラが、玄関まで走る。


「はーい」


「こちら、ブリオッシュ区動物輸送管理局の

ものですが」


「来たか……」


 マナブが、何かを悟った表情でご飯を食べ続ける


 ヒナも同時に玄関に走り出す。

 ヒナもマナブとは違う何かを悟り、

不安げな表情を浮かべていた。

 

「獅子王 ヒデキさんのお宅で間違いないですね?」


「主人に何かあったんですか?主人に何か……」


「落ち着いて聞いてください、

 獅子王ヒデキさんは……死にました」


 END

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