代償
「あ゛ぁぁぁぁあっ!」
「ぐぎゃあ゛ぁぁぁあ」
「がぁぁぁぁあ!」
飛び散る血の雨、ただ一人私は立ち尽くす。数十ものゾンビ達を一方的に駆逐し、残された1人は私……。
「…行こう……皆の所……に……」
1歩……踏み出せなかった。力が抜けるように足から倒れていく私の体は、もう私の……自我の支配下にはないようだ。意識はハッキリしている……でもーー
ーー殺したくてたまらないーー
そんな感情が物凄い勢いでこみ上げてくるのだ。
「い……くんだ…皆の……所に……。またーー」
地を這いながら進むミナヅキ。彼女とは認識し難い程に付着した血が、彼女の戦った痕跡を語っていた。傷を負ったわけではない……ただ、苦しいのだ。そして一刻も早くハクリ達の元へ向かわないといけない…そんな使命感だけがミナヅキを動かしていた。
……そんな時ーー
「う゛ぅ……」
「え?」
這いつくばる自分の手元に、何者かの足が現れる。うめき声からして、間違いなくゾンビの生き残りだろう。
力が入らない。暴走してはいけないという感情だけを残して、残りの力はもう支配下には無かったからだ。
ゆっくりと、屍の口が、手が近づいてくる。
「あ…あっ……あぁ……」
初めて恐怖というものを感じた。殺される。死期が近いことを察した……そしてーー
「私に……触れるなあ゛ぁぁぁあ!」
心の定は外れた……。ミナヅキの手が、勢いよく相手の心臓を貫く。痙攣を起こしたゾンビを地面に叩きつけ、馬乗りになるミナヅキ。
「死ね!死ね!死ね死ね死ね死ね死ねぇっ!」
相手の顔を何度も爪で刻みつける。鈍い音と共に打ち上げられる血しぶきを見るだけで、今のミナヅキは快感に感情を奪われた。
力を失い、ピクリとも動かなくなった死体にまたがり、天を見上げる。
「ふふ…あははははははは!」
快感だけが脳を支配し、人を痛めつけることしか頭に浮かんでこない。
もっと殺したい……もっともっと……。
そんな事ばかりが頭を過ぎる。
完全に…支配されてしまった。
真の野生化を遂げたミナヅキは、次の標的を探しに、一気に駆け抜けて行った。
 




