転生
「驚いた…まさかここまで固いとはな」
「先程から言っているだろう。お前の痛みは鈍い」
空中からの連続砲撃さえ、ペイスの体に傷を作る事が出来ない。接近して放てば可能性はあるが、そんな事をすれば陸に群れているゾンビの群れのいい餌だ。
なら、ヤヨイは持続して高威力な魔法を放ち続ける他なかった。出来るだけ時間を稼ぎたい。まだまだ足りないと自分に言い聞かせ、再度詠唱を始める。
発動するのは、対人滅魔法。
「然の理…光の導、闇の惑を記し…我命じるーー」
周りの空気が揺れる。危険を察知したように草木が揺れ、ペイスでさえ目を細めた。
ヤヨイがペイスの方向に手をかざすと、自身の何倍かに及ぶ巨大な魔法陣が形成された。
「無尽の闇に葬りさってやる…第九十七対人滅魔法」
ヤヨイが詠唱を終え、魔法を発動する。すると、ペイスの足元に大規模な魔法陣が形成され、白く染まる。
範囲型殺人魔法である第九十七対人滅魔法は、魔方陣内にいる対象に大規模なダメージを与える魔法だ。逃げようとしても、時すでに遅し。ヤヨイがペイスに向けていた中指と人差し指を、天に向けて返した。
ズドォオオオォオオン
耳をつんざく程の爆発音と共に発生した光の気流。ペイスは目視できないほどにその上昇気流の中に飲まれて行った。
徹底的に痛めつけるヤヨイは数十秒が経過していても放ち続ける。
そしてーー
「……朽ちたか…」
発動を止め、魔法陣を消滅させる。残骸すら残さない一撃は、発動範囲内を砂漠と化す。それほどまでに恐ろしい魔法を、ヤヨイは易々と放ったのである。
「これで終わりーー」
「ぬるい。痒いーー」
完全に油断しきっていた。
あくまで今の最終兵器であり、切り札だった一撃に期待を寄せすぎたためのミスだった。
一瞬の油断をタイミングにして、ペイスが背後まで接近してきていた。
「ーー鈍い」
後頭部を掴まれ、勢いよく地面へ投げつけられる。抵抗する好きもなく、ヤヨイは簡単に地面へ打ち付けられた。
「がはっ!…ば、ばかなっ!私の魔法が効かなかったのか!?」
血反吐を吐きながらそう問いかける。飛行ができないペイスは、物理法則に従い地に足をつける。過保護なくらい高くいたヤヨイの背後に回りきるまでの筋力…。そして、あの上昇気流を掻い潜るまでのタフさと速さ…。
ペイスを侮っていたヤヨイの典型的なミスが招いた事態。
自分の切り札さえこのバケモノには効かない。そんな絶望感がヤヨイを襲い、戦意を喪失してしまいそうになる。
「な…なんて奴だ……私の魔法が効かない……もう……こいつに勝つ事なんて……」
「もう終わりか?俺はここにいるぞ?早く魔法を打ってこい」
「だめだ…もう……私も……皆も……」
ふと、皆の顔が頭を過ぎる。
ーー辛い事も楽しいこともあった今回の旅。どんな時も頑張ろうって……皆を守るんだって思っていた……。
それがこのザマだ。自分の力が虫のように及ばず、ただ遊ばれているだけの自分がここにいる。こんな事で良くもまぁ守るだの助けるだの大口を叩いたものである。
自分は弱い……ーー
「私は……私は……」
跪き、涙をこぼす。このままではハクリ達もこのバケモノの餌食になってしまう。
ーー私のせいで…私の……せいで……ッ!ーー
「…………」
「ふん。やっと立ったか…。さっさと次の攻撃を放ってこい。無論鈍いだけだがな……」
「いくらでもほざいていろバケモノ。私は…もう嘘はつきたくない……すまないがここからは自制は効かないからなーー」
そう吐き捨て、再度空中に飛行。誰の手も届かない高さまで上昇する。
「……皆すまない。私は、私でなくなるかも知れない……ミナヅキもそうかも知れないけど…私が約束を守るためには仕方がないんだ……だからーー」
ヤヨイを囲むようにいくつもの魔法陣が形成される。笑顔のまま涙を流すヤヨイの頭上には天使の輪のようなものが現れ、翼が、身体中が神々しく光を放ち始めた。
「私は戦う。約束を…みんなの力になるために……ッ!」
『転生』。自分自身を新しい存在へと進化させるヤヨイの固有能力だ。既に天人という立場のヤヨイは、人間の域を超えた存在へと豹変したのである。
大きくなった美しい白翼を広げ、人差し指で ペイスのいるであろう場所を指さす。
「第二対人滅魔法」
準備のための詠唱を行われずに放たれた一撃は、すさまじい威力を誇った。大規模な爆発が起こり、広範囲に火災が発生する。
「ん…ぐぅ……良いぞ……もっと!もっと俺に痛みをぶつけてこいっ!」
流石のペイスも無傷とはいかなかった。しかし、未だ健在。転生を終えたヤヨイは、ゆっくりと、地上に降り立つ。
「そう焦らずとも、私はここにいる…。お前を殺すまではな……」
そう言い残し、ヤヨイは大周囲型対人滅魔法を放った。




