自己紹介の会
「コホン……それでは皆さん、本日このクラスに来たハクリ君とルリちゃんのために自己紹介をしましょう!まずは私から行きますね」
既に全員の目線の先に立っていたシノアは進行に続き自己紹介を始める。ハクリとルリはそれを真剣に聞いていた。
何度か深呼吸をした後にシノアは再度口を開いた。
「はぁ……ふぅ……よし。このクラスの委員長をさせて頂いてます。シノア・イーリアです。趣味は……そうですねぇ……薬品調合でしょうか……。よろしくお願いしますっ!」
シノアの話の終盤に何やら危なっかしい単語が聞こえた事をハクリは逃さなかった。
「……ちょっと待ってくれ」
「はい?何でしょうか?」
ハクリの唐突な問いかけに一瞬シノアはきょとんとしていた。
「俺の聞き間違いだと良いんだが……趣味のところ……もう1回」
不思議そうな顔をしているシノア。どうやら何で止められたかを自覚していないらしい。
「……薬品調合ですよ?」
そしてハクリの思っていた危なっかしい単語は聞き間違いではなかったようだ。
「……冗談だよね?」
「本気です。本当の本当の本当ですよ?」
「……まじかよ」
清純そうなシノアにもこんな弱点?があったなんて……。
「さぁ次はユリさん!どうぞ前へ!」
ハクリの反応を気に止めることもなく、シノアの進行は続いた。
「っ!?あたし!?」
ユリと呼ばれた妖精族のロ……少女はシノアの名指しに驚いていた。
「はい!ささっ前へ出てきてください!」
シノアに促され、ユリは赤面しながらハクリ達の前へ出た。
「うぅ……何でこんな事に……まだ心の準備が……」
「おらおらーさっさと済ましちゃうんだろユリーやれやれー」
ユリがもじもじしていると、ハクリの後方から茶化しの声がかかる。
先程有り余る程の元気さを持っている事で印象的な女の子。ミルだった。
「わ、分かってるわよ……うぅ……」
あ、こいつ本当は純粋なんだ……と思ったハクリをよそに、ユリは意を決して自己紹介を始めた。
「ユリ・クライヤ……妖精族で趣味は家庭菜園……これでおしまいっ!」
手短に済まされた自己紹介を終え、恥ずかし目で染まったユリは自席へと駆け抜けた。
それをシノアは微笑ましく見送り、再び進行を続けた。
「次はヒノンさん。どうぞ前へー!」
静かな物音と静かな足音と共に前へ出てきたのはスレンダーな女の子。
しかし、当然ながらこの世界の住人ならではの特徴を持っていた。
「……猫耳……ですか」
「あぁ。おれちょっと惹かれそうになった」
「ヒノン・ミルモント。獣人族の猫種。趣味は読書……よろしく」
人に聞こえる最低限の声で話された言葉を聞いて、ハクリのヒノンに対する印象は『大人しい子』となった。
自己紹介が終わり、直ぐに席に戻るヒノン。
「ありがとうございます!それでは次、ミルさん」
「やっと僕の番だね!」
その言葉と同時にハクリの頭上を微風と影が後方から前方に向けて通り過ぎていった。
そしてそれがすぐにミルが頭上を飛んでいったのだと気付かされた。
「ミルさん。そんな登場の仕方をしては危ないですよ!」
「いやぁごめんごめん。ハクリ君やルリちゃんにかっこいいところ見せたくってさ」
てへへーっとミルは頭をかく。
「僕は竜人族のミル・メルトロール。好きなものは食べ物なら何でもかなー。嫌いなものはないよ。それと趣味はー……んー……スポーツかな!」
何ともまぁ彼女らしい答えだろうか……正直期待通りすぎて自分がエスパーではないかと思うくらい。
「ミルさんありがとうございます!それでは次、リリィさんよろしくお願いします!」
そう言われてミルと入れ替わりで出てきたのはユリよりも幼い容姿の女の子。
「てやんでぃ!ばーろーですよ!」
威勢よく放たれた言葉と容姿とではかなりのギャップがある。被り物をかぶった少女は続けて自己紹介をした。
「小人族のリリィ・ノーべリア!気軽にリリィと呼んでくだせぇ!趣味は料理とか……とにかく作るものですぜ!」
てやんでい口調のリリィ……そう覚えたハクリ。
「あ、ちなみに小人族っていうのはですね―」
「知ってる。小人の事だろ?あの容姿と趣味を聞けば分かる」
「ほぇ~。マスター詳しいんですね……」
ルリの感心するような一言を聞いてハクリはふんと自慢げに鼻を鳴らした。
「これでも俺は他種族もののラノベギャルゲエロゲその他もろもろ殆ど揃えてたからな。ちなみに推しはヴァンパイアだ」
「うわぁ……」
ハクリの自信ありありの言葉にルリは引き気味だった。
「皆さん自己紹介が終わりましたね。それでは改めましてハクリ君、ルリさん」
シノアに名前を呼ばれ、視線を移す。
「今日からよろしくお願いしますね。私達は2人を歓迎します!一緒により良い学園生活を送りましょう!」
「お、おう……よろしく……」
「よろしくお願いしますっ!」
ハクリとルリが返事をしたところでタイミング良くチャイムが鳴り響く。