群れる亡者達
「…さて、お前と対峙するにあたって色々と聞きたい…目的はなんだ?」
「…………」
無言。ヤヨイの問いかけなど耳に届いていないとでも言いたげにじっとヤヨイを睨みつけている。
「回答の余地なしという事か…私も舐められたものだな……これでも一応、大七種というのにーー」
手先から形成された魔法陣。背中から伸びた白い翼を広げ、戦闘態勢をとる。
それを眺めていた大男、もといペイスもスイッチを入れたのか独自の戦闘態勢をとる。
緊迫した空気の中、先手を取ったのはーー
「第十九光系魔法!」
魔法陣から放たれた光の刃達。それが雨のようにペイスの元へと降り注ぐ。
「……」
しかし、それを唯眺めているだけのペイス。避ける動作などとる余地もなく、とった行動はーー
「なっ…腕で防御しただと…」
突きつけられた壮絶な光景。魔力の篭った刃を腕で直に防ぐ事など例外であり、理論上不可能とされてきた事を易々と行った。何食わぬ顔で受け止めた腕を見つめるペイス。当たって関係で煙の様なものを放ちながらも、全くの無傷だった。
「くっ…だがな、そうやって立ち止まっていては、魔力量に長けた天人族にとってはいい的でしかない!」
即座に二重詠唱の準備に入る。どんなに固い壁であっても、重複された火力には必ずひびを入れる。
要はゴリ押しだ。
しかも、それが現時点での最善策というわけだから情けない。
「ーーぶっ飛べ。殺戮の空にーー」
まず発動したのは、二重詠唱専用の、後から出した魔法の威力を2倍に増幅させる魔法、第五聖系魔法。そして二つ目は、対象に大きな風穴を開ける第二対人滅魔法である。
ヤヨイのはなった光の支柱は真っ直ぐにペイスの元へと走っていく。
「……ッ!」
さすがにやばいと思ったのか、ペイスは防御体制をとり始めた。
当たるであろう予測場所に腕を交差する形で守る……それだけである。
「ばかな。2倍に増幅させた第二対人滅魔法はミスリルに傷を作る威力だ…それしきの防御で守れる……わけ……」
ペイスの腕にピンポイントで命中。眩い光がペイスの周囲に飛び散り、見ただけで多大な被害が出るほどだと認知できる程だ。
……しかし、ペイスは無事だった。先程と違うところと言えば、威力故に少し後ろに押された事と、焦げたように腕から煙をあげているくらいだ。
「そ、そんな馬鹿な……」
「お前の痛みは鈍すぎる…。俺が痛みを教えてやろうーー」
そう言うと、ペイスは膝を曲げ、ふくらはぎに力を加える。自分を抱きしめるように腕を回し、俯くように視線を下に落とした。
「これが真の痛みだ……ッ!」
その言葉と同時に放たれたおびただしい量のガス。薄い霧のように広がっていたものが、より一層濃くなっていく。
するとーー
「あ゛ぁぁぁぁぁぁあ!」
周りの倒れ伏したこの世界の住民達が、一斉に苦しみ始めた。先程まで力が抜けたように気を失っていた者達が、全く同じタイミングでーー
「貴様!何をするつもりだっ!」
これに驚いたヤヨイは、即座に防壁と遮断を兼ね備えた魔法を形成する。細心の注意を払いながら、辺りに目を通す。
「痛みこそが生きている証。俺はそれをコイツらに教えているだけだ」
訳の分からないことを淡々と告げるペイス。
ヤヨイは戸惑いながらも現状の整理を行う。
苦しみ始めた者達の中には意識を取り戻したのか、立ち上がるものがポツポツと現れ始めた。このままでは戦闘に巻き込まれると思い、防壁遮断魔法を解く。
「急いでここから逃げろ!巻き込まれるぞ!」
すると住人達は声を発したヤヨイの方をゆっくりと振り返った。
……おかしい。
住人達の顔には1ミリの焦りもなく、それどころか感情すら篭っていない目だった。さらにその目はーー
「アイツの目と同じ…まさかーー」
「あ゛ぅう゛ぁぁぁぁ!」
意識を取り戻したと思った住人達5人は、突如ヤヨイ目掛けて襲い掛かってきた。
これには流石のヤヨイも対応しきれず、すごい力で肩を掴まれる。
「なっ何をするっ!私は敵ではーーう゛っ!」
噛まれた。豹変した住人の一人が、ヤヨイの肩に噛み付いたのである。
それだけ出たとどまらない。腕、足と次々にヤヨイの体は蝕まれていった。
「ーーこのっ…クソがあぁぁぁぁあっ!」
無理やり放った周囲攻撃型魔法。それをもろに受けた住人達は簡単にぶっ飛ばされて行く。
「はぁ…はぁ……なんて事だ。まさか洗脳魔法を使うとはな」
「どうだ?それが本当の痛みだ。これからもっと味あわせてやろう」
余裕を顕にしているペイス。今は噛まれた所がズキズキと痛むが、気にしている暇はない。
次々に住人達が立ち上がっていく。
きっとアレもまたゾンビのような者なのだろう。そう察したヤヨイ。
回復魔法をかけている時間はない。だから攻撃に集中する。
先程からあまり動かないところを見ると、ペイスは行動速度が遅いのだろう。だから自分から接近して攻撃することはなく、なおかつ洗脳によって自分ではない者達に攻撃をさせる。
……なら、攻撃が当たらない、かつ自分が有利的に戦えればいい。幸いと言ったところか、自分にはこの翼がある。
「…ペイスと言ったか?」
ヤヨイは美しい白翼を広げ、真剣な眼差しで睨みつける。反応したペイスが、じっとヤヨイの目を見つめ返す。白翼の天使が…、自分に向けて殺意を顕にしていた。
「…これから天人族の戦い方を見せてやろう」
 




