遭遇
「ーーで、あるからして、我々も外の世界の住人と友好な関係を気付くことを、これから前向きに検討していくわけでありますーー」
ここら辺の地域の偉い人達の長話を嫌と言うほど聞かされた。自分の隣でコクコクと頭を揺らしているミナヅキを注意しない所を見ると、ヤヨイも相当参っているらしい。
「……はぁ。それにしても長いですね」
「しょうがないさ。この話はこの先の外交関連の話だからな。この場を利用して報告した方が効率が良いんだよ」
と、こう言ったハクリだが、正直なところ結構限界まで来ている。イライラしたり腰が痛くなったりのオンパレードで、精神的にもきつかった。
「ーーと、こういう関係を、今ここにいる外の世界の方々と約束します!」
一通り話の区切りがつき、観衆達が盛大な拍手をする。予定では30分だったが、結局演説は1時間弱続けられた。予想外の展開もあったが、とりあえずは祭りを楽しめそうである。
時刻は昼を少しすぎたくらい。既に屋台が沢山並び、既に一般の公開は始まっているようだった。
そして、ハクリ達も今、その出店が並ぶ道路へと解き放たれた。
「おー!食べ物だよ食べ物!あ!あれ美味しそー!」
無邪気な子供のようにはしゃぎ立てるミナヅキ。ヤヨイもどこか上気しているようで、先程から微笑みが絶えない。
「さて、どこから回るかな」
「……ハクリ」
回る順番を決めようと辺りを見渡していると、イタチが不意にハクリの袖をクイクイと引っ張る。
指差しをしながら訴えた場所は……。
「あれは……綿あめか?」
「食べたい」
いつもより一際目を輝かせているイタチ。そんなイタチを見ていると、買わずにいられないのはきっと母性本能的な何かのせいだろう。
前もってリランから受け取っていたお金に手を伸ばす。
残金1万円。祭りにしては大金すぎる気もするが、リランは構わないと言って渡してくれた。
「ーーほら」
買ったばかりの綿あめをイタチに手渡す。
興味津々そうに眺めたのち、その小さな口でパクッと一口。
「……美味しい」
「そっか。そりゃ良かったな」
満足気な顔をするイタチを見て、ハクリは和むように微笑む。
「ん。ありがとうハクリ」
無表情でありながらも、きちんとした礼の気持ちは伝わってきた。
「おう…さ、とりあえず合流しようぜ。出店を全部回る事がミナヅキさんの目標らしいから、忙しくなるぞ?」
そう言って手を差し伸べる。イタチは一瞬手を出すことを拒んだように思えたが、綿あめを持っていない方の手をきちんと差し伸べてくれた。
「おっそーい!あんまり遅いと置いてっちゃうよー?」
「すみません。ちょっと混んじゃってて」
「気にするな。祭りかま終わるまでにはまだ時間もある。この規模だと十分に回りきれるさ」
「や、焼きそばぁ~。たこ焼きぃ~。はしまきぃ~。フライドポテトぉ~」
腹を鳴らしているルリが、物欲しそうに出店をじっと見つめている。これは早々と食事にありついた方が良さそうだ。
「とりあえずご飯を食べましょう。お昼まだでしたし」
「そうだな…ハクリ君のおすすめを聞きたいな。何かあるかい?」
ヤヨイの質問に、ハクリは顎に手を添える。
「んー。ここは無難に焼きそばですかね」
「焼きそば……私たちの世界では聞かない食べ物だな」
「何でもいいから食べよう!そして回ろう!」
「私もお腹がすきましたわ…早く何かを口に含みたい気分です」
と、言うわけで早速回り始めた。イタチは未だ綿あめを頬張りながら満足気な顔をしている。
ハクリを含む他のメンバーは空腹感に追われながらも、着々と祭りを満喫していった。
「あっ!金魚だ金魚!ねぇヤヨイ!金魚だよ!」
子供のように無邪気なミナヅキ。
「あぁ…これはまた美なる光景だな」
親のような風格を醸し出しながらも、どこか上記しているヤヨイ。
「ウェイリィさん!あそこ入りましょうよ!」
上機嫌なルリ。
「え、えぇっ!?あそこって…その…お化け屋敷なんじゃ……」
いつもはツンツンとお嬢様な態度のウェイリィも、今は祭りの空気に浸っていた。
「…皆楽しそうだな」
そんな光景を見ていると、自然と笑みがこぼれてくる。
全てこと無く終わればいいのに……。
ーー『今』を生きる俺は、この時そんな事すら思えた……ーー
そして、その元凶は、突然現れる。
「…………」
「……ヤヨイ?」
不意にヤヨイが立ち止まる。不思議に思ったミナヅキはヤヨイの目線の先にいる人物に目を向けた。
2mはありそうな筋肉質なガタイ。歪な形をしたマスクのようなものからは緑色の気体が漏れる。
周囲の人物はそいつを避けるように歩く…。まるで、目に入っていないかのように。
続くハクリ達もそいつに目線を向ける。
そして、大男はこう言った。
「俺の名はペイス。高位なる資格を持つものよ、我が主の命に従い、お前を試させてもらう」




