猫の手〜お料理〜
「つーかーれーたぁー」
だらしない声を上げながらソファへとダイブするミナヅキ。それもそのはず、昼頃から深夜前の今まで、ずっと教え、教えられるを続けてきたのである。疲れはヤヨイも溜まっているようで、ミナヅキに何か言うわけでもなく、頬杖をつきながら何かをメモっていた。
「…電子回路をここに取り付け…これは代用出来そうなものがあるな…あとはこれをここに…ブツブツ……」
「ヤヨイ先生はそっとしておいた方が良さそうですね」
「…そうだな。とりあえず晩飯にしよう」
キッチンへと向かうと、イタチが包丁を持って難しい顔をしていた。その側でウェイリィが何やら料理の指導を行っている。
「あぁっ!包丁を持たない方の手は猫の手ですわ!」
「猫?猫ってあの猫?」
そう言うと、イタチは猫の真似をしているのか、手を猫の手のように握り、仕草を真似る。効果音をつけるなら『ニャー』である。
「そう、ニャーですわ。その手で切るものを支えるんです」
無意識だったのか、ウェイリィも同じように猫の真似をする。それを目の当たりにしたハクリは……
「…………」
無言になってしまう程可愛いと思った自分が恨めしかった。
運が悪い事にその即座にウェイリィと目が合ってしまい、ウェイリィは恥ずかしさのあまり顔を真っ赤に染め上げた。
「…不可抗力だからな。怒るなよ」
「べ、別に怒ってなんかいませんわ!それより何しに来たんですの!?」
「い、いや手伝おうと思ってな。もう時間が時間だし、早く食べないと明日に響く」
「それもそうですわね…イタチさん。お料理教室はまた後日ということで、今からは私とハクリ君でやりますわ」
「ニャーニャー」
「……イタチさん?」
「ニャー?」
何故か今に至ってまだ猫の真似をしているイタチ。余程気に入ったのだろうか、テンションが上がっているように思えた。
「……」
「あ、今イタチさんに邪な感情を向けましたね?」
「人の心を読むなよ…って、そんな事考えてねぇよ。可愛いなと思っただけだ」
「それが邪だと言うんですよ!本当に懲りませんね…」
「自分の妹に向ける可愛いと思う感情の何が悪い!」
「あ、あなたの場合はそれだけじゃ………このまま喧嘩していても埒が開きませんわ」
ハッとしたように切り替えるウェイリィ。前日からの経験が今になって活かされてきた気分だ。
「…そうだな。晩飯とっとと作っちまおうぜ」
ため息を零しながらイタチと場所を交代する。イタチは上機嫌気味に猫の真似をしながらリビングへと向かった。
「…………」
「…………」
ハクリが食材を刻み、ウェイリィが煮焼きを担当する。
「……」
気まずい。
その一言が両者の脳裏に過ぎる。
「あのーー」
「あのさーー」
重なる声。何ともまあ典型的であろう。こんな事が実際に起きるなんて、両者共に思ってもいなかったであろう。これにより両者の気まずさは更に増していった。
「…明日はどんな特訓をするんだ?」
「そうですね。風の中級魔法といった所でしょうか…この際出来次第次の属性にいくという形でやっていきましょう」
「そうか…」
沈黙……。
何でこうも気まずいのだろうか…。
べ、別に、ウェイリィの事が好きなわけじゃないんだからねっ!
「マースター!ご飯できましたー?って…ほぅこれはまた…」
沈黙など関係なしに空気をぶち壊したルリ。ハクリとウェイリィの姿を見ると、興味津々に指を顎に当てた。
「な、なんだよ……」
「いや、ウェイリィさんとマスターが新婚さんみたいに見えまして」
「っ!?」
「ふ、ふふ夫婦!?私とハクリ君がですか!?」
突拍子もなくそんな事を言ってきたルリ。これに頬を高揚させないウェイリィではない。
「はい。そうやって一緒にご飯作ってると夫婦みたいです」
ルリがそう淡々と伝える中、ショート寸前のウェイリィ。口をパクパクさせながら何かを伝えようとしているが、ろれつが回らず、何を言っているのか全く聞き取れない。
「…からかうなよ。ほら見ろウェイリィがキョドってるじゃないか」
「な、べ、別に私はそんな事で動揺なんてしていませんわっ!」
「してるっての。その証拠にろれつ回ってないからな」
「っ~!」
夜は長い…特にこれからは色々と起きそうだ。
本日より、1~2日投稿に戻します!
皆様にはご迷惑をおかけしました!




