痛みこそ
「や、止めてくれ……っ!く、来るなっ!!」
「…お前は痛みを感じていないのか……ならば俺が与えてやろう」
誰もいない路地裏…。ガタイのいい大男が、恐怖を顕にした男の前に立ちはだかる。暗くてよく見えない顔立ち。マスクのような物からはガスらしきものが漏れ、尻餅をついて後ずさりする自分に手をかけようとしている。
「…痛みこそ生きている証…痛みがなくては生きている価値無し…痛みこそ生死をーー」
「あ゛ぁぁぁあぁぁぁぁあ!?」
首を掴まれ、易々と持ち上げられた体。化学物質を含んだ匂いが鼻につくが、今はそれどころではない…。
ーー体中が痛くて仕方が無いーー
「い゛、い゛だい゛っ!?痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いっ!あ゛ぁぁぁあっ!体中がぁぁぁぁあ゛がら゛だがぁぁぁぁあっ!!」
首を掴まれている事を忘れ、必死に身をよじる。その反応を見た大男は、掴んでいた手を緩める。物理法則に従い、男は地面に叩きつけられた。その時の痛みよりも、今は体中に走る激痛が先だった。
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いっっっっ!!!」
「…感じろ……そして屈するのだ。さすれば真の生を感じる事が出来る」
「う゛ぅ…う゛ぁあ゛ぁぁぁあ……」
呼吸が荒くなり、必死にもがいていた男は段々と大人しくなっていく。
そして、何かに取り憑かれたように動きを止めた。
……荒い呼吸だけが残り…その他は沈黙。大男は終始その光景を見下ろす…そして、次第に荒い呼吸さえも収まり、先程までもがいていた男は、ゆっくりと立ち上がった。
「…痛み…痛み……痛い痛い痛い痛い……ふふっ…はははははっ!」
狂ったように声に出して笑い出した男の目は、人の原型を留めておらず、芯まで不快な色に染まっていた。元々黒目だった部分は原型をとどめておらずより不気味さを誇っている。
それを確認し、大男はその場を去る。連れていくそぶりも見せず、一人で夜の街へと姿を消していく。
「…我、物思う。存在の意義は…痛みなのだと。痛みこそが生なる証なのだと………我、名を刻む。痛みを司る『ペイス』」
また一つ、大きな壁が訪れようとしている。それは、増殖し、大きな脅威となることを、ハクリ達は知らない……。そして、この壁がハクリにとって最大の困難へと繋がることを、ハクリ自身は知らなかった…知る由もない。企てた人物の存在に気づかない限りは……
 




