見たもの……
「やっぱりまだ変わってないな…ここも」
長年慣れ親しんだパソコン。ハクリとルリにとっては思い出深いものだ。
引きこもるために最低限必要なものを揃えてあるこの部屋は、旗から見ればアパートの一室である。
……自慢じゃないがそれほどに広い。
ベッドに横たわり、顔を伏せる。思い当たる事は色々あるが、今はこの状況に、どこか満足している自分もいる。
同時に、どこか詰まるところもある。
「………」
懐かしい感触と匂いに疲れが重なり、早くも眠気がハクリを襲う。
「このままここで寝るのも……あり……かな」
ものの数秒を経て、ハクリの意識は夢の中へと沈んでいった。
「狛李君!コレ見てよ!」
「うわぁ!凄いよこれ!〇〇ちゃんこれどこで見つけたの?」
幼き頃の記憶…アレは、確か近くの公園で遊んでた時の事だっけ……。
その時仲良くしてた女の子が凄いもの見つけて……アレ?
名前……何だっけ…。
不意に頭を過ぎる難題に、夢の中でありながら頭を悩ませる。
「〇〇ちゃん!こっちにもこんなのあるよ!」
「凄い!凄いよ狛李君!」
……駄目だ。思い出せない。
それに、感覚で分かる。もうすぐ眠りから覚めるって事が…。
多分これは、こんな所に来たから見てしまう物なんだと…。これから起こることに何も関わりは無いんだと……そう言い聞かせる。
ただ一つ…彼女がここにいれば、この世界が『偽物』だって証明出来る……。名前は分からずとも、その忌々しい記憶だけはしっかりと残っていた。
「ーーリ君。ハクリ君」
「…あれ。俺、寝てたのか」
目を開けると、ヤヨイが不満気な顔をしてハクリを見下ろしていた。目に直に差し込む日差しは橙色を帯びており、その事から夕方頃だと推測する。
「全く…。放っておいた事をいい事に、こんな時間まで寝てしまうんだからな。そろそろ出発すから支度を済ませておくように」
「……すいません。なんだか懐かしくって」
「良いんだよ。気持ちは分かる…だから今の今まで起こさなかったんだしな」
眠い目を擦りながら体を起こす。机の上に置かれた時計は問題なく作動しており、現在時刻は4時27分を示していた。
体を伸ばし、ベッドから立ち上がる。
「もう皆準備は整っている……さぁ、行こう」
「……はい」
先程見た夢の内容……気がかりな点はあるものの、今はそんなことを気にしている余地はない。
そう思いながらヤヨイの後に続く。




