向かった先は……
「えっと…ここですの?」
「……これまた大胆な場所だね」
「本当にここなら誰もいないのかい?」
「…ハクリ?」
「マスター…本当に大丈夫なんですか?」
ハクリが恐る恐る提案した場所。それは自身がよく知っている場所で、都合よくその場から近かったから考えた事。前までは誰かが居たような、綺麗なままのその建物は、未だ使われていないのか、汚れを帯びていない状態だった。
……その場所というのもーー
「大丈夫…ここ俺の家だし」
玄関に置かれている木彫りで書かれた『天』の字。どこか懐かしく、思い出したくないような記憶が巡り巡って脳内を駆け巡る。
「…ここが、マスターの家ですか」
初見の一同は言葉を飲み込む中、イタチただ一人はあまり乗り気では無いようだ。
しかし、誰もいない場所で、かつゆっくり休める場所といえば、ここしか思い浮かばなかった。
「…まぁ、とりあえずどうぞ」
まだ本心ではこの世界が前いた世界なのかは半信半疑だが、今はまだ結論を出すところでは無い。それを信じる事ができるのは、イタチの言うこの世界の上位者に会ってからだ。
緊張しながらドアノブに手をかける。鍵はかかっていないようで、順調に入室できた。
薄暗い玄関。足元に並べられた靴達。当たり前で、懐かしい光景が目の前に広がる。洋風な感じに包まれた廊下から見える扉、その向こうには、やはり懐かしい光景がそのままの形で残されているのであろう…そう思うと、自然に頬を伝うものがあった。
「…ハクリ、泣いてるの?」
イタチにそう言われ、自分の頬に流れるものが、自身の涙だと理解する。
「…いや、目にゴミが入っただけだ」
そんな事を言いながら涙を拭う。
「しばらくはここを拠点にしても大丈夫ですから、皆さんゆっくりして下さい」
「あぁ。世話になる…しかし今はイタチ君が言うこの世界の長なる人に会わないとな…あくまで休憩だ」
言葉を交わしながら
ハクリはヤヨイ達をリビングへと案内する。全員物珍しそうに家中を興味深そうに観察している。
「ここがリビングですので、どうぞご自由におくつろぎ下さい」
「ハクリ君!私喉乾いたんだよねぇ。何か飲みたいなぁ…」
「私も欲しいですわ」
「今持って来ますからそんな慌てないで下さい」
何があるかは分からないが、とりあえず冷蔵庫の中をマジマジと眺める。あいにく麦茶しかなかったが、とりあえずはこれで我慢してもらうことにする。
「はい。持って来ましたよ…て、何見てんだよ」
麦茶を人数分のコップに分け、運んだ所で、ウェイリィとルリ、イタチが何かを興味津々な顔で見ていた。
「これマスターですか?」
「……ん。まだ小ちゃい時のハクリ」
回答に一瞬詰まりながらも、イタチは幼いハクリが映ったアルバムを見ながらそう頷く。
「…ハクリ君にもこんなに可愛い時期があったなんて…何だか心外です」
「おい、人の幼少期見ておいてその反応は無いだろ。てか見るな!恥ずかしいだろ!」
「まぁいいじゃ無いかハクリ君。どれどれ…ほう、これはーー」
悪乗りしたヤヨイとミナヅキも、一緒にアルバムを眺め始める。
「へー、ハクリ君にもこんな時代がねぇ…」
先程から何度か聞いた言葉に、ハクリは正直耳が痛い。同時に恥ずかしさが重なり、顔が熱くなる。
「…俺、部屋の様子見てきます」
そう言葉を残し、ハクリは自室がある2階へと向かった。
 




