拝啓……って付けるのも疲れました
「今日は転校生を2人連れてきた……入ってくれ」
「連れてきたて……まぁたしかにそんな感じだよな」
「何してるんですかマスター!ぶつぶつ言ってないで行きますよ!」
ガラガラッとルリが勢いよく教室の扉を開ける。ウキウキするルリの後ろを狛李はだるそうな顔をしてついて行った。
「え……あれってどこの種族?」
「僕は見たことないかなぁ」
「あらあら……」
とまぁ人それぞれな反応を浴びる2人。当然の事ながら狛李とルリ(アンドロイド)の他に普通の人型をした人物は居ない。
「今日からこのクラスで皆と共に過ごすハクリとルリだ。皆仲良くするように」
ヤヨイの威圧を含んだ一言に教室はしんと静まり返っている。まぁ今はハクリとルリが珍しいから静かなだけなのだが。
「先生ー」
そう言ってヤヨイを先生と呼んだ少女。あの金髪と尖った耳には見覚えがあった。
「どうしたユリ」
ユリと呼ばれた少女はヤヨイの返事とともにガタッと立ち上がった。
「あいつは……妖精族だったっけか?俺を蹴り飛ばしたやつだよな……?」
「いえ、違いますよ。容姿は似ててもよく見ると違います」
「な、なによ……そんなにジロジロ見て」
「いや……俺さっき君に似た人に蹴り飛ばされたからさ……もしかしてよくあるラノベ展開の『な、なんであんたがここにいるのよ!』展開かなぁと」
「??何それ……あ、そうだ―」
思い出したようにヤヨイに問い直す金髪少女。
「この2人の種族は何なんですか?見たところ種族紋章を付けていないようですが……」
ヤヨイは困った顔をする。
ヤヨイの反応は2人にはよく理解出来た。
新種族であるハクリとルリの事を普通に説明すれば、それこそパニックを招くことになる。穏便に済まそうとヤヨイは思考を巡らせてはいるがその方法が思いつかない。
「…………俺達、新種族なんで」
「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」
恐らく今のハクリの発言にはこの教室に居る全員が驚いたであろう。ヤヨイが散々悩んだ事をハクリは陽気に口にした。
「ちょ、マスター!ぬぁあに言っちゃってんですか!それ今一番口にしちゃいけない事ですよ!」
「え、でもさ、ここちゃんと言わないと俺達一生はぐらかしたまま過ごすことになるぜ?」
少し……いやかなり先走ったハクリの発言はヤヨイの気の動転をさらに強くした。
「せ、先生!ど、どどどういう事ですか!」
「新種族ってあの……」
「てぇへんだぁ!てぇへんですよ!こりゃあやべぇですよ!」
「あらあらまぁ……」
とまぁ生徒達は様々な反応をしていた。
教室中がガヤガヤと騒がしくなり、いよいよ制御が効かない状況になりかけたその時だった―
「注目!」
ヤヨイの大声と共に騒いでいた空気は一気に静まり返る。
ヤヨイは意を決したように口を開いた。
「彼が言った通り、この2人は私達の世界には居なかった新しい種族だ。これは既に魔法での検証も済んでいる。だがしかしだ、だからと言って君達が慌てる心配性はない。いざとなれば私が君達を守ろう。だから大丈夫だ」
何だろう……なんか悪人にされてる気分だ。
ヤヨイの言葉を聞いた生徒達は静まり返っていた。
そしてヤヨイはため息をこぼし……
「はぁ……ほら、君達の席はあの2つだ」
そう言って席を指定した。
よりによって1番前の席である。
「……行くか」
「そうですね」
若干の気まずさを残しながらも、ハクリとルリは隣同士になるように席へつく。ちなみにハクリがいるクラスの席の並べ方は、ハクリのいた世界のめちゃくちゃでかい大学みたいな段々になっている。
黒板から遠くなるほど段が高くなっているアレである。
「……視線が痛いんだが……」
「えぇ……私、早くもギブかもです……」
ここにつく前まではハキハキしていたルリも今は顔を青くしていた。
ルリは良いのだが、ハクリはより青い顔をしている。何故ならというと……
「おい……このクラス俺以外に男子がいないと思うのは俺だけ?」
ハクリ以外男子がいないのである。こんなもの引き篭もりのハクリにとっては死ぬほどきつい。かろうじてハクリの好みの他種族がいるとはいえ彼女達はれっきとした女性。
…………という事に今気がついたアホなハクリであった。
「そういえばそうですね……あ、マスターエッチなこと考えましたね」
ニヤァっと不敵な笑みを浮かべるルリ、思わずハクリはチョップを食らわした。
「んなっ!?い、痛いじゃないですかマスター!女の子に何て事するんですか!」
「俺は今そんな事よりこの状態を説明して欲しいんだよ!」
「ハクリ君」
ルリにギャーギャー言っていると、ヤヨイからお声がかかる。
「今から始まる授業が終わったら職員室に来なさい。シノア、案内を頼む」
「わ、私ですか?」
「だめか?」
「い、いえ……そういうわけでは……」
あーこれ絶対拒否られてるやつだわ。痛いやつだわー。
内心静かに傷つきながらも、ハクリは黙って聞いている。ヤヨイはシノアの言葉を聞いて「頼んだ」と伝えて教室を出ていった。
「はぁ……マスター、私達どうなっちゃうんですかねぇ……」
「知るか……それより俺はこの状況にそろそろ耐えきれないのだが……」
「ハクリ……君で良いですか?」
人が集まる場所に弱いハクリが滅入っているところで、不意にハクリを呼ぶ声がする。
「んあ……な!?」
声がした方を見ると、そこにはヤヨイのように白く神々しい羽を片方だけ生やした女性が立っていた。
いや、ヤヨイと違う箇所が一点。彼女の羽は半分しか無かった。
彼女の大人びた、そして神秘的な容姿を見て驚きを隠せない。
「??そんなに驚く事はないと思うのですが……あ、私はシノア・イーリアと言います。先程先生から案内頼まれたのですが……」
シノアと名乗った女性は呆然とするハクリに対して丁寧に挨拶をしてくれた。
「マスター。なに固まってるんですか……マスター!」
「はっ。すまんちょっと今の出来事全てが夢かと思ってな…………その……よろしくシノア……さん」
「シノアで構いません。それよりハクリく―」
「僕はミルだよー!宜しくねハクリ君、ルリちゃん!」
シノアが本題を切り出そうとした所でボーイッシュな女の子が口を挟む。
2本の角と黒く勇ましい翼が特徴的な女の子は元気有り余る感じで自己紹介をする。
「お、おう……よろしく……」
「よろしくです!」
「いやぁまさか君達が新種族なんてねえ……あ、ちなみに僕は竜人族だから。そこら辺よろしくね~」
「ぐ、グランドル?」
「マスターの世界で言う竜人の事ですよ」
ルリの耳打ち解説によりハクリは納得した。まぁ言われなくてもミルの容姿を見れば大体の予想はつく……という事は伏せておく。
「もう!ミルさん待って下さいよ!私がハクリ君やルリちゃんのために自己紹介をする機会を作ってあげてるんですから!」
「あちゃーそれだと僕抜け駆けしたかんじだね…………ま、いっか!」
「……えっとシノアさんでしたっけ?」
「はい!何でしょうルリちゃん!」
ルリに名前を呼ばれ、テンション上々で答えるシノア。ルリのこういう時の適応力はかなり尊敬する……と、ハクリは思った。
ハクリがここで打ち解けるにはしばらくかかるかも知れないからだ。
「えっとですね……今からその……授業じゃないんですか?」
「今からの授業はヤヨイ先生の授業ですが、今回はハクリ君やルリちゃんが転校してきたという事で特別にLHR……この時間をお互いの自己紹介の時間に当てていいと朝起きた時に言ってくれました」
「??その口ぶりだとヤヨイ先生とシノアさんって…………あ」
ルリは察したように口を開いた。
ヤヨイも苦笑しながらこう言った。
「はい。ヤヨイ先生は私の実の姉なんです」
「シノア凄いよねぇ。僕は弟がいるけどまだ小さいし。ヤヨイ先生めっちゃ頭いいらしいしさー」
「俺達あの先生に殺されかけたんだけど…」
ハクリのぼそっと言った一言にミルとシノアは声に出して笑い出した。
「ははっ。それはハクリ君やルリちゃんが怪しかったからだよ。この世界に生きる以上対全種族反対主義と判断されたら死ぬ以外に無いもんねー」
「理不尽だ!俺達ここに来たばかりなのにいきなり殺されかけたんだぜ!?」
ハクリの言葉に、シノアは眉をぴくりと動かした。
「その言い方だとハクリ君とルリちゃんは別の国から来たという事ですか?」
シノアの何気ない一言にハクリは言葉を詰まらせた。
ここでうんと言って『どんなだった?』などの質問をされれば変な回答をするに違いない。そうすれば相手に変な疑いをかけられるかもしれないのだ。
「あー……それはだな……えっと……」
「ちょっとシノア!授業の時間始まってるわよ!さっさと自己紹介済ましちゃおうよ!」
シドロモドロしているハクリの救いとなったのは先ほどの金髪少女もとい妖精族の女の子。
もう既に授業の時間が始まっていると言う事で、シノアとの話は一旦打ち切られた。