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If.七種目の召喚者(イレギュラー)  作者: 石原レノ
今からが振り出し
66/313

温泉に大きな岩があれば、それはもうアレが起こるっていうフラグです

「うわぁ。なんか汗臭いな俺…」

恐怖の晩餐を終えた一同は、皆各々のまま過ごしていた。明日に向けて早く就寝する事が代前提なのだが、野宿という事もあってなかなか寝付けないハクリだった。

ふと、自分の汗臭さに不快を感じ、どうしたもんかと頭を悩ませ始める。

と、懐に入っている魔札の存在を思い出す。

「……もしかしたら」

学園から支給された魔札は10枚、その中に水を生成する『第一水系魔法(ウォートメイク)』と対象に熱を与える『第一火系魔法(フォートメイト)』、一定区間に穴を開ける『第五地系魔法アースレイク』が入っている。

「…この三枚を使いこなせば……いけないこともないな」

意思は固まった。あとは善は急げである。

思い立った直後、すぐに行動に移したハクリは小走りで目的にあった場所へと向かい出す。

思い当たる場所は、先程まで居た場所だ。

「…うん。ここならいいな」

すぐ側で小川が流れる場所。もうすっかり夜の静けさに包まれたその場所は、周りに何の気配も感じられない。そんな場所で、ハクリは先程の魔札を取り出す。幸いここら辺の土は粘土質になっており、高火力の熱を与えれば浴槽の代わりになるだろう。

問題は、一定の深さまで掘らなければならない事だ。少々面倒な気もするが、このまま汗の匂いをさせながら行動するのもアレだと思い、一心不乱に掘り進めた。

そんなハクリの甲斐あってか、作業は思いの外順調過ぎるくらい捗った。

「はぁ…はぁ…掘り過ぎたな」

掘る途中に大きな岩に遭遇しながらも、何とか力作業は終えた。一言言うとすればあの大きな岩が異常なまでに気になる。

まるで、これからの出来事に必要不可欠だとでも言わんばかりに…。

「…ま、いっか。とりあえず風呂だ風呂」

早速、第一水系魔法(ウォートメイク)で、穴の中に大量の水を流し込む。ちなみにこの学園支給品の魔札は、一回使い切りで、生成系の魔札は上限量がある。

上限ギリギリだったようで、穴いっぱいにたまったところで魔法の効果は消えてしまった。

「このままじゃ土に吸われちゃうから…」

すかさず第一火系魔法(フォートメイト)を展開し、急激的に温度を高める。まず土が固まり、次に水が熱気を放ち始める。あまり熱し過ぎると固まった土が熱に耐えられなくなり、割れてしまうので、ある程度温まったところで術を解く。

すると、見事な天然温泉の出来上がりである。

我ながら上手くやったものだと、感心した瞬間だった。

そしてーー

「はぁあぁあ。癒されるよなぁ。このために生きてるって言える瞬間だよなぁ~」

湯に浸かれば体の疲れが抜けていくような感覚に見舞われる。やはり風呂というものはいいなと、ジジくさくなるハクリだった。

「……あの岩がやっぱり気になるな」

先程からどうしても気になって仕方が無いあの大岩。アレを見ていると何か思い出しそうになるのだが、何故か思い出せない。

王道であり、ここでアレがあればほぼ100%の確率で起こると言われるとある展開…。

「…………だめだ。思い出せない。何だったっけな…あの岩見てるとなぁんか思い出しそうなんだよなぁ」

何度頭を悩ませてもダメだと確信し、思い切ってこの場を満喫することにするハクリ。

溜まっていた疲労が一気に、眠気を誘う。

自分が眠りにつく事を自覚する前に、ハクリは浅き夢の中へと落ちて行った。

ーーそして、どのくらいの時間が経っただろうか。

ハクリ自身思い出すことは無かったあの展開は、着々と繰り広げられようとしていた。

「いやぁ運がいいよね。こんな所で温泉見つけるなんてさ!」

「そうですね!これなら明日汗の匂いを気にせずに済みそうですねーー」

………まずい

「しかし、先程この場所にこんな温泉なんてありましたか?」

「見落としてたんじゃないか?結構結界の大きさもあるみたいだし」

いやいやいやいや!温泉なんてそうそうみおとさないからっ!少しは怪しんで!

目が覚めたのは、同行した女性陣達の声が聞こえたからである。寝ぼけていた始めは何事かと思いつつ意識を覚醒させたのだが、自身の異変に気づいたのはその直後である。

ーー俺裸じゃんーー

そしてこの場所に女性陣が訪れたということはーー

「温泉……気持ち良さそう」

「あ、イタチさん!入るときは服を脱いでくださいまし!」

あああああああ!やばい!服を脱がれる前にここを出なければ!

ちなみにハクリが位置している場所は、あの大岩の向こう側で、女性陣にはギリギリ見えていないらしい。先程からハクリを見つけた関連の話は出ていない。

その状況がまた厄介でもある。すぐ後ろに置いた衣服に手をかけようとするが、ピタリと手を止める。

……湯に浸かった体制で、どう着ればいいんだ?

そんなことが頭をよぎる。気にせず着てしまえばもちろん服は濡れる。しかし何故服が濡れているのかと突っ込まれれば、多分感がいいウェイリィ辺りから第二対人滅魔法(オーバートール)を喰らいかねない。

地上に上がって服を着るか…いや、この大岩はそんなに高くない、湯から上がれば簡単にハクリの全裸は晒されてしまう。

「ヤヨイ先生も早く脱いでください!こんなに気持ち良さそうなんですよ?」

「そうそう、これは満喫したもん勝ちだよ!」

早々と、生まれたままの姿になったルリとミナヅキは、警戒しているヤヨイを促す。その隣で、ウェイリィが、イタチの髪の毛を丁寧にまとめていた。

「…これでよし。イタチさんの髪の毛はサラサラしていて羨ましいですわ」

「そう…ありがとう」

淡々と礼を告げ、すぐさま衣服に手をかけ始めるイタチ。よほど興味があったのだろう。

そんなイタチ続いて、ウェイリィも衣服を脱ぎ出す。そんな光景を、大岩の向こうから声だけで確認する男が一人。

(まずいいっ!これはマジでヤベェ!早く対策を練らないとマジで俺変態扱いされるっ!)

「…そうだな。私も入るとしよう」

身につけている衣服を脱ぎ、白い柔肌を晒すヤヨイの裸体を目の当たりにしたルリ達は、思わず言葉を飲んだ。

「ヤ、ヤヨイ先生っていつも大人っぽいなとは思ってましたけど…その…脱いだら凄いんですね」

「う、うん。ヤヨイってそんなに大きかったんだね」

ルリとミナヅキの言葉に、ヤヨイは顔を赤面させる。

「や、やめないか。なんか二人ともおっさんくさいぞ」

そんな事を呟きながら、湯に浸かるヤヨイ。その光景を無言のままジィッと見つめていたイタチだった。

「イタチさん?どうかしましたの?」

ウェイリィの問いかけに、イタチはヤヨイのような豊かなものとは対照的な、自分の貧相なものを見下ろす。

「……ヤヨイの…大きい…ルリも、ウェイリィも。私の…ちっちゃい……何で?」

率直な質問に、ウェイリィは悩んだように苦笑いをする。

気がついた時には大きくなっていたなんてあからさまな事は言えないし、むしろこれが人によって大きさが違うと言うのも気がひける…。

はて、どうしたものか…。

「それはねイタチちゃん次第だよ。うん!」

と頭を悩ませていたウェイリィの所にやって来たのは、テンションがやけに高いミナヅキだ。一応ヤヨイと同年代だと聞いていたが、気になる体の方は……

「…??どうしたの?私の体に何かついてるかな?」

「あ、いえ……その…何でもないです……あはは」

イタチにアドバイスをするミナヅキのモノに目が行き、つい負の感情を抱いてしまう。

ーー勝った……と。

そんなウェイリィの心情など知るよしも無く、薄い胸を張るミナヅキは、自信満々に語り出した。

「まだイタチちゃんは若いからね!そのうちこの中で一番のヤヨイみたいになるよ!多分!」

根拠はないと言わんばかりの説得に、もはや苦笑するしかないウェイリィと、いつにも増して真剣な表情のイタチ。

……しかし知っていただきたい。ミナヅキは多分イタチの次にコンパクトだということを…。

「…流石にヤヨイ先生までは難しいとは思いますけど…」

「んー。なら2番目のウェイリィちゃんか3番目のルリちゃんかな…?」

「そ、そんな大きな声で言わないで下さいっ!誰が聞いてるか分からないでしょう!?」

「大丈夫大丈夫!ここら辺平原で家なんてないし、第一新種…ハクリ君は呼んだ時反応無かったから寝てるって」

どこか納得いかないウェイリィは、深くため息をこぼし、肩を湯に沈める。

と、そんな時ハクリはーー

「ほうほう、大きさはヤヨイ先生、ウェイリィ、ルリ、ミナヅキさん、イタチか…これはまた一ついい情報をってちげぇだろっ…早くこの状況を打破しなければ…流石に死ぬ…ッ!」

女性陣がキャッキャウフフしている岩の向こうでは、そろそろ体力の限界でのぼせそうなハクリが、声を殺しながら一人漫才を繰り広げていた。

「…………」

「どうかしたんですか?ヤヨイ先生」

ある一点をじーっと不審に見つめているヤヨイを、ルリは不思議そうに問いかける。そんなに気にする程ではないようだ。ヤヨイは「いいや」と言って深くゆに浸かる。

「こう力を抜いていると、いつ敵が来ても呆気なくやられてしまいそうでな」

「ふふっ。ヤヨイ先生もたまには息抜きが必要なんですよ」

「…そうかも知れないな」

安堵の息を漏らすヤヨイ。

こうも平和な日々が、いつまでも続けば良いのにと、ここにいる誰しもが多分思っていたであろう。星夜に照らされた平原です温泉に浸り疲れを癒す。

彼女達にあんな苦痛を与えてしまった自分が、こんな褒美を受けてもいいのだろうか…。ここには居ないシノア達にそんな思いを抱きながら、ヤヨイは一人黄昏るのであった。


例えば、人は窮地に追いやられた時、俗に言う『火事場の馬鹿力』を発揮するらしい。ハクリが今いる状況がまさにその通りで、一歩間違えれば一生後ろ指さされながら生活する事も免れないという、絶体絶命な状況下。

誰がこんな状況を予想しただろうか。いやしない!

「や、やべぇ…そろそろマジで本格的に絶命的に死にそう…」

顔を真っ赤に染め上げ、空を見上げるハクリ。ここまで岩に接近してきた者がいない事が奇跡である。

しかし、そんな命運も元から絶たれてしまっては意味がない!

ここは勝負に出るべきなのだと、ハクリは確信した!いや、しなければならなかった!

だってこのままだと冗談抜きに死ぬもん!

「よ、よおし。見てろよ…誰にもバレずにこの窮地を脱してやる…ッ!」

と、決心した時だった

「さぁって!明日も早いしそろそろおいとましよっか!」

ザバァっと勢いよく湯から上がるご様子のミナヅキ。少し長湯したのか、その可憐で煌びやかな肌は、少し赤く火照っている。

「ん…上がる」

「そうだな。これならゆっくり眠れそうだ」

続いて次々と湯から上がりだし、ハクリは当然の事ながらチャンスと思っていた。素早くバレないように岩の側まで移動し、身を潜める。

「いい湯でしたねー!疲れが取れたみたいです!」

「えぇ。久しぶりにゆっくり癒された気がしますわ」

どうやらハクリが作った温泉はこうひょうなようで、女性陣はたいそう満足そうに衣服を身につけていく。

まだかまだかと息を荒らげながら(のぼせたせいで)その光景を耳だけで確認する。

「マスターも来れば良かったのに…残念ですねぇ」

「ルリさん!?それは流石にまずいと思います!」

「……?ウェイリィはハクリと一緒にお風呂入りたくないの?」

何も気にすることはないと言いたげに、淡々と告げる2人に、ウェイリィは戸惑いを隠せない。

思いの外精神年齢の低いルリとイタチである。

「…ルリちゃんとイタチちゃんはあぁ言ってるけど、ヤヨイはどう思う?」

「愚問だな。そんな事をしているところを目撃すれば、一瞬の慈悲もなく撃つ。目撃すればだがな」

何故か念を押すようにそう言ったヤヨイ。

衣服を着終わった一同は、テントが張ってある場所へと歩み出した。

少し遅くなってしまったものの、これなら明日は大丈夫そうだ。

「……行ったか?」

恐る恐る岩陰から顔を出すと、既に人影あらず、残ったのはハクリだけだった。

大急ぎで湯から上がり、夜風にあたる。あと少し遅かったら意識はなかったと実感した瞬間だった。

「はぁ…はぁ…よく耐えた俺。あのままルリ達がいたらーー」

「私達がいたら……何だ?」

…………へ?

不意に後ろから聞きなれた声が聞こえ、無意識のうちに振り返ろうとする。

「こっちを向くな。その粗末なものが見えてしまうだろ。タオルを巻け」

……言われた通りに行動する。持参したタオルを腰に巻き、一言。

「あの…何でいるんすか?『ヤヨイ先生』」

名前を呼ばれたヤヨイは、魔法陣を形成する。そして一言ーー

「君がいた事くらい気付いていたさ。その場で対処しなかったのは、君の社会的地位を崩さない為だ」

「……ありがとうございます。なら、悔いはありません」

降参だという事を、両腕を頭の後ろに組んで表現する。

「懸命な判断だ……歯を食いしばれっ!」

ほとんどの生命が寝静まる深夜に、第十八風系魔法オーディアンセクトが炸裂。夜の風景に、ハクリは風の砲弾によって吹き飛ばされた。

「いってぇ…なんか最近吹っ飛ばされてばっかだな…」

自分の寝床であるテントに戻り、思いっきりぶつけた腰を押さえながらぶつくさと文句を口にする。ハクリのテントは女性陣のテントとは少し距離がある場所に設置されている。

ハクリ自身ヘタレなので、万が一という事はないが、ウェイリィの強い希望でこうなってしまった。

すでに強い眠気に襲われ、このままいけばおやすみ3秒も無理な話ではない。

うつろうつろなまま簡易的な寝床へ潜り込む……そして何やら柔らかいものが肘にあたり、目を開けると……

「…イタチ?」

小柄なせいで敷布団の上から見えなかったのであろうイタチが、なんとハクリの目の前で寝息を立てているではないか……前にもこんなことあったよな。

「なんでこんな所にイタチがいるんだ…おい、起きろ」

疲れで重たい体を起こし、すぐ横の小柄を揺らすが、イタチが起きる気配はない。

一度寝てしまえばしぶといのがイタチである。

さすがのハクリもこれにはお手上げだと言わんばかりに、自分のテントを後にしようとした時だった。不意にイタチが体を起こしたのである。

「ハクリ…どこ行ってたの?」

小さな口から欠伸を漏らし、そう問いかける。

「それはこっちのセリフだこんなところで何してんだ。ここは俺の寝場所だぞ?」

「…知ってる。ハクリに言っておかないといけない事があって…来たの。そしたらハクリ居なくて…待ってたら寝ちゃってた」

「俺に?」

こくんと頷くイタチ。わざわざここに来て言うとなれば、ハクリにしか言えない事なのだろうか…そんな事を考えながら、イタチの話に耳を傾ける。

「私達の故郷の事…」

「…そうか。聞かせてくれ」

「……今から行く場所。オブティーンはハクリがよく知っている場所。ハクリがよく知っている人達がいる場所」

「……どういうことだ?」

問いかけた所で、イタチは口を閉じ、黙り込む。ここから先は言えないらしい。

「…まだ言えない。その時が来たら話す……じゃダメ?」

理由は分からないが、イタチがハクリの事を心の底から慕っていないのは、本人でも薄々気づいている。それがあってのこの状況なのだろう。まだ心の底からハクリを信じきれていない。だから秘密について明かすことは出来ない。

これは、行ってみないと分からないようだ。

「……いや、俺もそこまで深追いする気は無いさ。イタチは俺とルリのために案内してくれているんだろ?」

「それは信じて。私は…そのためにやってる……」

しっかりとハクリの目を捉え、強い感情のこもった瞳が便乗するように訴えかける。

「…なら大丈夫だ。俺はイタチを信じる。チョロいとか思われるかもしれないけど、今はイタチが頼みの綱だしな」

「ん…信じて。絶対に2人に疑いはかけさせないから」

そう言い終えると、イタチは再びこてんと横になる。

数秒後……

「すぅ…すぅ…zzz」

「ちょ、イタチ…そこに寝られると……ダメだ、完全に夢の中に行っちゃってるよ……はぁ」

ため息を零しながらテントの外へ出る。今晩は草の上で寝なければならないらしい。

仰向けになり、星空を見る。元いた世界とは違い、雄大で広大な星達が、各々の光を放ち作り上げた一つの作品のように思える。

そして、頭をよぎるのは…

「……皆元気かなぁ」

その言葉を最後に、ハクリは夢の世界へと誘われた。

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