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If.七種目の召喚者(イレギュラー)  作者: 石原レノ
今からが振り出し
65/313

イタチの心情…本当はーー

「ふぅ〜。危うく死ぬかと思った。あんな手際よくやってたのに、全部テキトーだったなんてな…」

「全くですわ…かるく気分が悪くなってきましたわ…」

野宿場所から少し離れたところに、小川が流れる場所があった。第五聖系魔法(リューレント)で作った防壁のギリギリの場所に位置する理由は、ルリとウェイリィがこの川まで入れようと考えたからである。

「こんなんで明日大丈夫なのか…今から不安になって来たよ」

「そう…ですね」

夜ではあるが、星夜に照らされ、程よく辺りが見渡せる。そんな風景に心奪われたのか、ウェイリィの表情はどこかしんみりとしていた。

「…すみませんでした」

「……俺なんか謝られるような事されたっけ?」

「学園での無礼です…その、いきなり襲ったりしましたよね?」

「あぁ…あの時の……」

ふと、当時の記憶を呼び覚ます。晴れて種族の長となり、浮かれている頃だった。やっとこの世界の人物になれたような錯覚をし、ウェイリィに再び気付かされた……。

まだ完全に浸っている訳では無いと。

「いいんだよ。ウェイリィが俺とルリを疑うのは普通の事何だし。それまで隠していた俺も悪かった…」

そして現実を見る。何故今まで、誰も問い詰めなかったのか…気になりはするものの、素性を出来るだけ知られたくない側としては好都合であった。いつかウェイリィのように、問い詰められたらどうしようか、内心では考えていながらも、今までその現実から逃げてきた。

そして、今回はイタチに助けられそうである。

ハクリの妹という形で、周りの人物には信頼性を与えているが、これから向かう先はハクリ自身も不確定要素の多い所である。

……あとで聞いてみないとな。

そう思いながら、夜空を見上げた。

「何も考えもなしに行動するのが私の悪い癖でして…今回の1件も、自分の思い過ごしだったようですね…ただーー」

と、そこで疑問を生じたような顔で、首を傾げるウェイリィ。

「ーー何故イタチさんが知っていて、お2人は道筋を存じていないのですか?」

「……そ、それはだな…」

先程までの真剣な表情はどこに行ったのやら、今度は額に汗を流しながら考え込むハクリ。

ここで変な回答をしてしまえば、今この状況でまた疑いを持たれかねない。

…………考えろ。

と、思いついた案がーー

「いやぁ、何か向かっている道中道に迷ったみたいでさぁ!何かもう地図とかも持ってなくってさ!ウロウロウロウロした挙句やっと到着してたみたいな!?」

そんな突拍子もない回答に、ウェイリィは声に出して笑い出した。

「ふふっ。あなたらしいですね。何だか疑ってた頃が馬鹿らしいですわ」

そんな反応を見せるウェイリィに、ほっと胸をなで下ろしたハクリ……であったがーー

「…しかし、何故今の今まで姿を現さなかったのでしょうか…やっと見せたと思ったらお二人だけですし…何か秘密でもあるのでしょうか……ねぇハクリ君?」

「お、ぉうおう!えっとそれはだな……」

そして再び汗が湧き出るハクリ。そんな切羽詰まった彼を見ても、ウェイリィはただ真剣な眼差しで見つめてくる。

現実の3倍近くの時間が経ったような感覚に見舞われ、これはもう終わったと自覚した…その時だった。

「私達の種族には掟がある…。表の目には出ない…そんな掟が」

突然差し伸べられた命綱。イタチが、いつの間にか二人の前に立っていた。

ーーそういえば、さっきの食事の時居なかったよな…ってか、ルリが探しに行ったはずじゃーー

「掟…その内容を詳しく聞かせてもらっても宜しいですか?」

「ん…いいよ」

眠たげな表情のまま、ちょこんとハクリの膝の上に座り込む。サラサラとしたキメ細やかな黒紫の髪が、鼻をくすぐる。

「私達の種族は、ずっと前からいた。ただ、表に出ることを掟で禁じていた…外の世界は危険、汚れている。そんな噂から出来た掟……。だからオブティーンに着くためにはある条件を満たさないと行けないように結界をかけた」

「……私達が、危険な存在…ですか」

「でも、考えを改めたの。数人を外の世界に送り出して、様子を見させる。その為に、ハクリとルリは、間人族(ニュートル)として、外の世界の人間に姿を現した…」

イタチの口から放たれた真実は、あまりにもウェイリィにはきつい現実だった。今まで普通に会話をし、少しずつだが距離も短くなってきた少女から突きつけられたどうしょうもない衝動に、ウェイリィは言葉をつまらせる。

何がその、ハクリやルリの種族にそう思わせたかは不明だ。しかし、そう思われている以上は、ウェイリィはそれを否定しなければならない。いや、否定したい。

私達は危なくなんかないと、そう教えてあげたい…。

「私達はーー」

「それで、イタチはどう思ったんだ?こうやってウェイリィや、皆と会ってみて、どう思った?」

ウェイリィの言葉を遮るように、ハクリがイタチに問いただす。

その問いかけに、無表情ながら考え込んでいる様子のイタチを見て、深追いする事は止めたウェイリィだった。

最悪の回答を聞くための、心の準備を整える。

「……悪くない。皆優しくて、いい人達…だと思う」

「……え?」

俯いていたウェイリィが、目を見開きながらイタチの顔色を伺う。

無理をしているようには思えない。真っ直ぐに真実を述べている様な表情。

ポンと、ハクリがイタチの頭の上に手を置きーー

「…そうか。俺も同意見だ」

と、微笑むハクリを見て、ウェイリィは、先程までの心情とはうって変わり、ただ微笑むことしかしなかった。

「あ、皆さんこんな所に居ましたか!探しましたよ!」

と、そこで背後から、ルリが駆け寄ってくる。息が荒くなっている様子から、走っていたのであろう。

「探したって…ルリはイタチを探しに行ってたんだろ?」

「……?私はルリとは会わなかった」

「いやぁ、それが道中珍しい生き物発見しましてね…それを追跡しているうちに迷子になっちゃって…」

たはは…と後ろ頭を掻くルリを見て、ハクリは呆れたようにため息をこぼす。

「はぁ…まぁそれがルリらしいけどな」

「……えぇ。ルリさんはこうでなくては」

先程までのしんみりした空気はどこへ行ったのやら…。一同はまた一つ、距離を詰め合ったのであった。

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