彼女達のために……
「それにしても…本当にヤヨイのクラスの子達卒業させちゃうの?」
「なんだいきなり…悪いか?」
野宿先であるヨウロストレアの森の前に到着する少し前、ミナヅキはふと思っていた事を聞いて見た。
ヤヨイが受け持ったクラスの生徒達は、初歩の初歩しか学んでいない。チームを結成するなら、魔法の技術も知識も十分学んでいるが、それを応用した技術は皆無である。口頭で説明を受けることくらいはしても、実践的な実技を行うのは次の学年からである。
「別にヤヨイの判断が悪いなんて言ってないよ。彼女達には悪いけど、あの子達にはもうその道しかないと思うからね」
ふと、後方で励まし励まされるハクリとルリに視線を向ける。
「私としてもあまりこの手は使いたくなかった。学園側はお荷物を手放すことが出来て万々歳だという事が気に食わんが」
結論から言うと、ハクリのクラスである欠陥クラス…もといミュードクラスは卒業する事が極めて難しい。
説明が遅れたが、この学園には、学ぶためのクラスと、戦うためのクラスが存在する。学ぶためのクラスというのはかなり前にヤヨイが説明していた、最優秀クラスの『ゼノ』優秀クラスの『ロイド』普通クラスの『ランド』、そして、欠陥クラスの『プロトノイド』別名『ミュードクラス』である。
戦うためのクラスというのは、種族競技会のためのクラスで、A〜Fまでの各種族に分かれた、クラスというよりは、擬似チームみたいなものである。
ウェイリィは天人族なのでAクラス、クラスランクはゼノである。
ハクリにあそこまでやったウェイリィが、ゼノでは長をやっていないとなると、まだ上の実力を持った者がいるという事は建前ではない。
「ま、卒業できるならいいじゃん。その実績と知識や技術を身につければちゃんとした仕事につけるのも夢じゃないって」
「全く…半ば汚職をした様なものだ。たった一年で全科目の単位を終わらせたと偽造したんだからな」
卒業できない…しかし学園側からはお荷物扱いという環境が気に食わなかったヤヨイは、ハクリをきっかけにチームを結成させる事を決意した。まともな職ではないが、このまま彼女達が卒業を迎える事なく、周りから蔑みを受け続ける事を想像すると、体は自然に理事長室へと向かっていた。
今思えば、少々横暴だったかもしれないと、自分を攻め立てるが、卒業できない確率は比較的高かったため、仕方ないと自分に言い聞かせる。
「いや、ヤヨイは生徒思いのいい教師だと私は思うよ。それにあの子達はなにもいわなかったんでしょ?」
「私の前ではそうだったが、ハクリ君やルリ君には本当のことを言ってない様だったな…私も言う気は無いが」
「それはいつか彼女達の口から…ってね」
無邪気に笑いかけるミナヅキを見て、ヤヨイはなんだか元気が戻ってきた様な気持ちに見舞われる。
歩み進める足を止め何かを決心した様に拳を握り締める。
「私は生涯彼女達を見守ろう…それが私に課せられた役目だ」
ヤヨイの決心とその凛々しい顔を見て、薄く笑みをこぼすミナヅキ。それが気に食わないヤヨイは、不服そうな表情をとる。
「何だ?私が変なことでも言ったか?」
「ふふっ。いや、その前にヤヨイは親御さん達にどう説明するんだろうと思ってさ」
ミナヅキがそう問いかけると、ヤヨイはふふんと鼻を鳴らす。
「その事ならもう手は打ってある。事前に学園長に全過程終了の通達を送らせた。学園長直筆だからな、信憑性があったみたいだ」
「へ、へぇ…そうなんだ」
この回答には、さすがのミナヅキも引き気味だった。




