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If.七種目の召喚者(イレギュラー)  作者: 石原レノ
始まりNew World
6/313

拝啓僕は早速詰みました。

「ここだ。間違っても変な気は起こすなよ」

「へいへい。ゴードンさんも大変だねぇ」

「私はグリムだ。ゴードンではない……さっさと入れ」

グリム(さっきから狛李とリルに何度もあっているおっさん)は呆れた顔で部屋に入るよう促した。狛李リルは何の躊躇い(ためら)もなく入室する。

「やぁ」

「……どうも」

「…………」

ルリは挨拶をしたものの、狛李は口を開かない。

理由は簡単。この女性の醸し出している雰囲気と気品さ。狛李(はくり)の苦手なタイプだからである。

「私はこの判断所の長をやっているものだ。ヤヨイ・イーリアと言う。君達は?」

「ルリです。そしてこの方が―」

天狛李(あまたはくり)

軽い自己紹介を終えると、ヤヨイと名乗る女性は「ほう」と言って、手元に置かれている資料に目を通す。

「まぁ立ち話もなんだからそこに腰掛けてくれ……資料に目を通すから楽にしていて構わない」

その言葉を最後に、手に持っていた資料に目を通すヤヨイ。

「……な、なぁルリ」

「はい。何でしょうかマスター」

ヤヨイに聞かれぬようヒソヒソと耳打ちをする。

狛李にはどーしても気になる点があった。それは狛李のいた世界では有り得ないもので、狛李にとっては希望を込めた質問だった。

「……あの偉そうなお方には何で真っ白な羽が生えてるわけ?」

「あ〜。多分あの方が天人族(ディバイアント)だからですよ」

「でぃばいあんと?」

狛李には分からない単語が出てきた。ルリはふふんと言って話を続ける。

「マスターがいた世界の天使とか女神の事ですよ。この世界では天人族(ディバイアント)と呼ぶんです」

ルリの分かりやすい説明に「へー」と感心する狛李。すると―

「君は私達、天人族(ディバイアント)を知らないのかい?」

「げっ、聞いてたんですか……」

「あぁすまない。私にはそう言ったヒソヒソ話は効果が無いんだ。耳が良いからね」

「どんな盗賊スキルだよ(ヒソヒソ)」

「ん?何だって?(ギロり)」

「ナンデモナイデスハイ」

狛李の反応にヤヨイはため息をこぼす。

「つかぬ事を聞くが…………君達は?どこの人間だ?」

質問の回答に詰まる。この場合狛李とルリはどう答えれば良いのだろうか。

狛李はどこの人間だと聞かれて『日本です』と答えればいいのだろうか。確実にこの世界では通用しないだろう。

ルリはどうする?アンドロイドである彼女は淡々と『人間も何も機械です』と答えれば良いのだろうか。もしかしたらワンチャンあるかも知れない。

「俺は―」

「普通の人間ですよ?」

狛李が口を開いたと思えばそれをルリが遮る。

「お、おい―」

「私とマスターはこの通り普通の人間です。紋章が無いのは現在存在する種族どれにも当てはまらないからです」

ちょっとやばいんじゃねえかこれ!こいつ堂々と言いやがったけど、この世界じゃ紋章が無いこと自体やばい事なんだろ!?

「お、おいルリ―」

「では君たちは……私達が恐れている組織とは別物で、更には今までにない新しい種族…という事かな?」

「ちょ―」

「そーです!」

先程から狛李の言葉を遮るように話す2人。狛李は話の輪に入れず気分を落とした。

ヤヨイはルリの言葉を聞いて深くため息をついた。

「……本当なら君達は処刑されるはずなんだ。紋章を持たず、立ち入り禁止の場所に入った……これは立派な禁止事項で違反なんだからな…………まぁそれが『対全種族反対主義(アンドロイド)』ならの話だが……」

「??私達がその対全種族反対主義(アンドロイド)ではないと信じてくれるんですか?」

「それが信じずにはいられないんだよ」

そう言ってヤヨイは2枚の書類を狛李とルリに渡す。

資料に書かれていた内容は、人体図を書いた紙に大きな文字でこう書かれていた。

判読不可能(エラー)

「…………これは?」

この書類に書かれている内容は当然狛李には理解出来なかった。咄嗟に問いかけると、ヤヨイは表情を重くする。

「私に聞かれても困る…………まぁ君達が対全種族反対主義(アンドロイド)ならそこの判読不可能(エラー)の所はタイプAと出る……他の種族であればその名前が出るはずなんだが……どうも君達はそのどれにも属さないらしい」

ヤヨイの言っている意味が分からない。狛李はそんな顔をしていた。

「……結果的に長官殿は何が言いたいのでして?」

何故か上司に言うような口調になる狛李を気にすることもなく、ヤヨイは何度目かになるため息をした後にこう言った。

「君達は新種族(イレギュラー)って事だよ」

そしてこうも言った。

「君達には我が校の『ミュードクラス』に入学してもらう」

「「………………………………………………………………………………………………………………………………………………は?」」

狛李とルリのハモった声は、長官室に響き渡った。


「いやまてまてまて長官殿よぉ!何で俺達がいきなり学校に行かなきゃいけないの!?俺達捕まった身だよ!?しかもほんの数分前まで殺されかけてた身だよ!?」

つい先程、この判断所もとい刑務所的な所で、狛李とルリは長官と言う女性ヤヨイ・イーリアに処刑を取り消され、学校入学を命じられた。

↑の意味が分かるだろうか?ちなみに狛李には分からない。

「さっきも言った通り君達は新種族(イレギュラー)の可能性が高い。言ってしまえば研究と安全の為なんだよ」

「け、研究とか言ってますよマスター!私達隅々まで調べられるんですよ!」

「や、やばいぞこれは!お、俺は嫌だからな!」

目の前でオロオロとしている2人にヤヨイは優しく微笑んだ。

「大丈夫だ安心してくれ。痛い事はしない」

「い、いやだぁぁぁぁ!その笑い方はやばいやつだぁぁぁあ!」

「ま、マスター!わ、わわ私達大丈夫なんでしょうか!?」

どうやら逆効果だったらしい。この2人をどうしたもんかと腕を組み考えるヤヨイ。

実際、研究と言っても軽い身体検査くらいしか無いのだが。残りの能力や危険度なんかは魔法でいくらでも調べられる。勿論痛みなしで。

「ま、まぁ何だ。私の話を少しは聞いてくれ。なに、君達の悪いようにはしない」

ヤヨイの言葉に狛李とルリは震えながらも静かになった。

ヤヨイは1度咳払いをした後話を続けた。

「君達はこの世界で貢献できる人間になる為に私の学校に通ってもらう。それに伴って君達の能力や種族を確定出来るからだ。ここまではいいな?」

ここまでを解説しよう。

異世界から来た2人はどうやらこの世界では新種だったらしい。それと同時に対全種族反対主義(アンドロイド)でない事も信用された。それに伴い、安全面の確保や新種の能力について調べる必要があり、狛李とルリはヤヨイが長を勤める学校に行かなければいけないらしい。

と、いうのが前回のあらすじである。

一度は処刑確定まで(おちい)ったと思えば物凄い転機である。

「あの……」

ここで狛李が恐る恐る手を挙げた。

「ん?何か気になる事があるか?」

これは狛李にとってはすごく重要な問題である。それは学生兼引き篭もりなら誰もが思う事であって……

「その学校って俺は絶対に行かないといけないんですか?」

狛李は引き篭もりである。引き篭もり歴二年の狛李には学校といった物は苦でしかない。それも学校の趣旨はヤヨイに聞いたところ『職に就くこと』だそうだ。

ただでさえ働きたくないと思っている狛李が『職に就くこと』を目的とした学校に行くなど狛李にとっては蛇足(だそく)でしかない。

「当たり前だ。学校に入学するんだから勿論のこと毎日通ってもらう」

「え、俺それなら嫌で―」

「もし断ろうものなら今すぐ処刑しても良いんだぞ?」

「ハイワカリマシタマイニチカヨワセテモライマス」

「はやっ」

狛李の心変わりの速さにルリは驚く。ルリ自身は学校に通うことは嫌ではなかった。行けないものと思っていた所に行けるとなると嫌な要素など別に気にならない。

「あの、私達はいつからその学校に行くんですか?」

「あぁ。それなら今日の午後からだ」

「へぇ今日の午後からなんですか~それはまぁご苦労なことで……今日からですか!?」

ルリは驚いたように大きく声を出すが、ヤヨイは気に止めることもなく話を続けた。

「ちょうど今日が始業式なんだよ。午後から色々な学校説明が各教室で行われるから、その時に転入告知をすると手間も省けると思ってな」

「ほえー。私心の準備が出来てませんよー♪」

やけに上機嫌なルリの隣で深くため息をする狛李。その2人をヤヨイは微笑ましく見ていた。

「まぁ何だ。もうすぐ移動になるから準備を整えておいてくれ。私は移動手段を手配しておくから」

そう言って席を立つヤヨイ。狛李とルリはそれぞれ絶望、期待に満ちた顔をする。狛李に至ってはどうしようもないことなのだが…………。

「はぁ……おしまいだぁ……」

「何言ってるんですかマスター!学校ですよ学校!楽しみじゃないですか!」

「何でだよ!引き篭もりの俺には拷問施設だよ!」

「良いじゃないですか。きっとこっちの学校は楽しいですよ!」

「そうは言ってもな、俺はこの世界の言語や文字は知らない。この二つどうにかしなきゃ学校なんて到底無理だ!」

「??言語ならマスターさっきヤヨイさんと普通に話してましたし、さっきヤヨイさんが見せてくれた資料も読んでましたよね?」

「あっ……」

狛李は墓穴を掘ったような顔でうなだれた。

ここでうまく言い訳すれば学校に行かなくて済んだと思っていたところで運の尽きなのである。

今の話を聞いていたのか、いつの間にか扉の前にヤヨイが立っていた。

「意思は固まったようだな。さて、行くぞ」

はてさて、大の学校嫌いの狛李はよりにも寄ってその学校に通うことになった。就職を目的としたその学校で狛李とルリを待つものとは…………あ、これは意識を引かせるものとは断じて違うので誤解をしないでいただきたい……本当である。

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