名前で呼んで
「皆準備はいいか?」
「私は大丈夫!新種族君と新種族ちゃん…何だか言いにくいな…まぁいいや。大丈夫!?」
「はいはーい!私は大丈夫です!」
「…右に同じく」
「私も大丈夫ですわ。天人族として万全を尽くしましたわ!」
早朝、誰もいない学園に集合した一行。オールでもしない限りハクリは朝に弱かった。やけにテンションが高い周りを見ていると無性に腹が立つほどである。
前にもヤヨイが説明したが、今回の目的はハクリとルリの疑いを晴らす事である。故に極秘であり他言は厳重に守らなければならない。
眠い目を擦りながら欠伸をしていると、イタチがハクリの側に居ることに気がつく。
「おはようイタチ。これからよろしくな」
対してイタチはいつもの眠そうな目を更に虚ろにしていた。
「ん…おはよう…」
すると、よほど眠いのかハクリにもたれる様に体重をかけるイタチ。とっさの判断でその小柄を受け止めた。自分の腕の中でスヤスヤと寝息をたて始めるイタチを微笑ましく見ているとーー
「…シスコン」
どこかの誰かから前にも同じ様なことを言われた覚えがある…しかし、今回その単語を口にしたのは、ハクリを不審に見つめるウェイリィだった。
「あのなぁ、俺に変な疑いを掛けるなよ。どうみてもこれは不可抗力だろ」
「その展開を不可抗力でまとめ、そして汚らわしい目でイタチさんのことを見てニヤニヤとしている時点で、あなたは相当たちの悪い犯罪者ですわ」
「…お前ってイタチの事名前で呼んでたっけ?」
「っ!?そ、それは…その…」
ハクリの質問に、不審なものを見る様な目を一変しキョロキョロと泳がせる。
あたふたと落ち着かないウェイリィを見て、ハクリは首をかしげる。
「…仲直りした…私とウェイリィは…友達。ウェイリィから言ってきたの」
「なっ…!」
いつの間にか起きていたイタチの証言により、恥ずかしさのあまり顔を真っ赤に紅潮させるウェイリィ。それと同時に顔をニヤつかせるハクリ。2人に間で起こっている空気に、【?】のマークを出すイタチ。
三者それぞれの反応を露わにし、何やら面白そうな空気を醸し出している。
「あっちは面白そうだね新種族ちゃん」
「あ、あの…その呼び方言いにくくないですか?」
この2人は初対面だが、ミナヅキとルリの性格上、すぐに打ち解けた。
ルリの何気ない質問に、ミナヅキは頬に指を当てて考える。
「んー。私ってヤヨイみたいに付き合いが長くないと名前で呼べないタチでさ〜。恥じらいってやつ?」
「は、恥じらいですか…あはは…」
初対面の人にグイグイ話しかけて来る人に恥じらいという言葉があるのだろうか…。そう思ったルリだった。
「でも、私は名前で呼んでほしいです…ダメですか?」
「いやいや、嫌じゃないよ!むしろこっちから頼みたいくらいだよ!」
慌てた様に両手を振るミナヅキを見て、笑みをこぼすルリ。
「ふふっ。じゃあ決まりですね。よろしくお願いしますミナヅキさん!」
満面の笑みで差し出された手を握り、互いの距離が縮まった事を実感した2人。
ーこの子はすごいなぁ。こんな風に周りの人を笑顔に出来るなんて…あの子もこの子の笑顔に何度となく助けられたんだろうなぁー
ふと、映った光景はルリの背後で騒ぎ立てているハクリ達の姿。顔を真っ赤にして一生懸命に何かを訴えているウェイリィを、ニヤニヤしながら聞いているハクリと、その光景を、眠そうな顔で聞いているイタチ。
様々な無理難題を超えてきたのは…超えられてきたのは、間違いなくハクリの側にルリがいてくれたおかげだろう。この笑顔が、ダメなりに頑張ろうとする存在が居てくれたから、ハクリはここまでのし上がってこられたのだと、ミナヅキはそう実感した。
「…ミナヅキさん?」
名前を呼ばれ、我に帰りルリの瞳をまじまじと見つめる。
何かを確信した様な表情を取るミナヅキに、ルリはきょとんとするが、またミナヅキはいつもの様に満面の笑みでー
「よろしくね!ルリちゃん!」
 




