帰ってきたら
「そうですか…しばらく会えないとなると寂しいものですね」
気を落とすようにそう呟くシノア。
次の日すぐ、ハクリとルリは出発の事について報告するために教室へと訪れた。幸い午前の授業が終わり、昼休み時である。
「ハクリとルリちゃんに会えないのかぁ。ミャアちゃん寂しいなー」
「私達も暇じゃないわよ。報告しに行かなきゃならないんだもん」
「報告?何かやらかしたのか?」
何も知らないハクリは、周りが頷く話の内容についていけてなかった。呆れた顔をしながら、リリィが説明する。
「チームってのはそう親から喜ばれる仕事ではねぇんですよ。だからそれを報告…言い合いをしに行くです」
「まじか…そりゃ修羅場だな」
ある程度知っていたが、改めて聞くと凄い話である。まぁ親の気持ちもわからんでもないが、ハクリとしては自由にしてほしいとつくづく思う。
「ま、私達も頑張って説得してくるわよ。何年間か口聞いてもらえなくなると思うけどね…」
「胃が痛ぇです…」
周りが苦笑する中、リリィは青ざめた顔で腹部を抑える。余程嫌なのだろう。
「あ、そうか。リリィの家は確か―」
「そ、それ以上言わねぇでくだせぇ!」
ミルが思い出したように口に出した言葉を、リリィは全力でフォロー阻止する。そんなリリィを不思議に思うハクリであったが、それ以上は問い詰められなかった。
「ハクリ君、ルリ君。少しいいかな?」
資料を両手に抱えたヤヨイが、廊下からこちらを呼びかける。リリィの家の事は気になるが、それは後回しとなった。
「じゃ、ちょっと行ってくるよ。またこっちに帰ってきたらこの教室で」
「うん。気をつけて行ってらっしゃい!」
「お身体にお気を付けて」
「帰ったらミャアちゃんとデートしようねっ!」
「なっ、ミャン!それはダメよ!…気をつけて行ってきなさい……」
「皆さんも親御さんの説得頑張ってください!」
「……ん。まかせ…て」
「うぅ…ま、任せろです!」
クラスメイトから激励の言葉をもらい、やる気に満ちたハクリとルリであったが、内心心寂しい感情もある。やるせないが、今の自分達がすべき事、それを優先すべきだと、この仲間達が応援してくれたからそう思えた。
だから…踏み出せる。
「…じゃあ、行ってくる!」
大丈夫だと言わんばかりの満面の笑みを見せ、教室を後にする2人の背中を、名残惜しそうに見送った。
その背中を見る事が、 この先あるかどうかなんて……分からないのに…
「あーあ…行っちゃったね…」
「これで良かったのよ…あの2人には…私達の真実を聞けば辛いだろうから」
感情の入っていない笑みを浮かべながら放った一言は、それぞれの胸を締め付けるように、心の奥へ響いた。
ただ待つ事しか…無事に【試練】を乗り越えて帰ってくる事を祈る事しか…彼女達に許された自由は無かったのだ。
「さ、僕達も家に帰ろう。もしハクリ君が帰ってきた時は、いつもの日常に戻れるんだからさ!」
 




