拝啓僕は学校(牢獄)に通わなければならないそうです
「出してぇ!お願いしますぅ!俺達をここから出してくれぇ!」
「うぅ……まだやりたい事や食べたいものがあったのに……どら焼き、アンパン、メロンパン、ローストビーフ……」
金髪少女に処刑宣告され、一晩明けた次の日。狛李とルリは監獄の様な鉄部屋に閉じ込められていた。
―話は昨日の処刑宣告後に遡る―
「…………は?ちょっと待て!何で俺達が殺されなきゃなんねーんだよ。何かの冗談だよな?そうだよね!そうだと言ってくれ!」
「そうですよ!私達はちょーっと立ち入り禁止の場所に入っただけじゃ無いですか!なのに処刑だなんて酷すぎます!」
狛李とルリの声も、金髪少女は軽く流した。
「あんた達はどの種族の紋章も持ってない。って事は『対全種族反対主義』って事でしょ。この世界で対全種族反対主義を見過ごすお馬鹿さんは居ないわよ」
「アンドロイド??それってこいつの―」
「知りませんよそんなもの!私達はアンドなんちゃらとかいうのとは全くの別物です!関係なんて1ミクロもありませんよ!」
「ね?マスター!」と言って念を押してくるルリ。その場に流されて言いたい言葉を言いそびれた。
「あ、あぁ……なぁそれって取り消せないのか?」
「取り消すことは無いでしょうね。だって紋章が無いものは消されるのがこの世界の習わしだもの」
習わしって…………おっかねぇ世界だな。
「嘘だろ……このまま俺何の展開もなしに死ぬのかよ……」
「ちょ、マスター!落ち込まないで下さいよ!まだ助かる勝算はありますって!」
「ま、これからあんた達専用の部屋に移動するから、そこで捕まった事を後悔するのね」
―そして今に至る―
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ終わった。俺の人生終わったマジで」
「マスター!マスター!」
落ち込んでいる最中、ルリの空気を読まない掛け声に多少イラつきながらも目線を向けると―
「おっ!それは!」
ルリが見つけたのは床に空いた穴。
ワンチャンある!ワンチャンあるぞこれは!
「でかしたぞルリ!これでこの穴から抜け出せ―」
「時間だ……早く来い……」
突如部屋の重めかしい扉が開かれ、鎧を身にまとった大男が姿を現す。
狛李はバッと穴の前に立ち、穴を見えなくする。ルリはあたふたと白李の背後で欠けた床で穴を塞いだ。悲しい共同作業である。
「な、何のことでしょう……処刑はまだ先でしょ?あはははは」
狛李の違和感だらけの言葉を聞いて大男はため息をこぼす。
「種族によって処刑方法は異なる。貴様らは自分の種族を正直に言うとも限らんからな。それを今から調べるのだ……早く来い!」
何も分からぬまま狛李とルリは大男について行った。長い廊下を歩き抜けた先には一つの扉がポツンとあった。
「……ここだ。入れ」
大男に促され、部屋に入ると。部屋の中は1面鏡ばりだった。
「うーわーこれは怖いですね」
「あぁ。この中の1枚だけ動きが遅かったり別の動きとかしてんだぜきっと」
と、言いながらこの空間の怖さを体感する。
どうしたものかとウロウロすると、不意に明かりが消え、真っ暗な空間に包まれる。
「ま、ますたぁ私暗い所ダメですよぉ」
「な、ちょ、離せって!動きにくいだろ!」
後方からいきなり抱きついてくるルリにドキッとしながらもわんちゃかわんちゃかしていると、再び灯がついた。
「よし、終わりだ。部屋から出てこい」
「え?終わり?」
「随分と早いですね」
狛李とルリは疑問を抱きながらも、再び元の部屋に戻ってきたわけである。
「またすぐに貴様らの処刑方法を伝えに来る。それまで大人しくしていろ」
バタン!と大きな音とともに閉められた扉を見ながら、狛李は一つの希望を抱いていた。
「ルリ。例の穴は?」
「はい!今見た所外と繋がっているようですね!」
ルリの言葉を聞いて狛李はグッとガッツポーズをする。
「よし!今から逃げ出す―」
「おい。長官がお呼びだ。今すぐ出てこい」
「アッハッハッハッハッーワターシニゲダソーナンテオモッテナーイアルヨーアハ、アハハハハハハ」
瞬足で大男の視界を塞ぐように顔を近づける狛李。勿論その後ろではルリが穴を塞ぐという悲しい共同作業が行われていた。
狛李の違和感だらけの言葉に、大男は疑問を覚えながらも部屋から出ることを促す。
「とにかく出てこい。一刻を争うことなのだ」
「??死刑囚にそこまで急ぐ事なんてあんのかね?」
「まぁ良いじゃないですか。また戻ってきた時には…………ね?」
悪戯な笑みを浮かべるルリに、狛李はニヤッとした顔で「あぁ」と返した。
次この部屋に戻ってきた時にはここから『脱獄』するのだと彼らは思っていた…………のだが…………
「君達には我が校の『ミュードクラス』に入学してもらう」
こう言われたのはものの数十分後の事だった。