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If.七種目の召喚者(イレギュラー)  作者: 石原レノ
今からが振り出し
48/313

イタチ

眩い光がはれ、目が開く。何も無い殺風景な白い部屋。ただ広いだけのその部屋で、ハクリはウェイリィと対面していた。

表情を表さない、ただ殺気だけをこちらに向けている目は、こちらを威嚇するものだろうか、ハクリは怯える心を隠すのに精一杯である。そんなハクリでも、聞きたいことは山ほどあった。

「……何で俺にこんなことをするんだ?」

「あなたが私の…人類の敵だからです」

冗談を言っているようには思えない。彼女の眼差しがそう証明しているようだったからだ。

「敵って…どんな判断で俺が敵になるんだ―」

「口を慎みなさい。あなたはこれから召される身。何も抵抗しなければ痛みは与えません」

「人の話聞くって習わなかったのか…」

手のひらをハクリに差し向け、魔法の詠唱を始める。魔法すら扱えないハクリには、ただ出方を見て判断することしか出来ないこの状況下で、一体何パーセントの生きる道が残されているだろうか。そんなハクリに慈悲をかけることもなく、未だウェイリィは敵視するような言葉を浴びせてくる。

「…残念です。あなたが対全種族反対主義(アンドロイド)でなければ、私はあなたと優雅な時を過ごせたというのに…本当に残念です」

「だから人の話を聞けってのに…俺は対全種族反対主義(アンドロイド)じゃ―」

第十九光系魔法(ライトレイン)

必死に訴えかける言葉も、今のウェイリィには虫の戯言と同等なのだろう。問答無用と言わんばかりに魔法を放つ。

天に向けられた手のひらの魔法陣から無数に飛び出す光の刃達。標的のハクリへと、なんの躊躇もなく襲いかかる。

「くそっ…こんな形で使うなんて…」

内ポケットから1枚の札を取り出すハクリ。それを自分の頭上にかざし、声を上げる。

「守れっ!」

光の刃がハクリに触れようとする一瞬。突如現れた透明な防壁により、光の刃達は弾き飛ばされ、消滅する。それを見たウェイリィは訝しめにハクリを睨みつけた。

「それは…学園支給品ですか」

「いざって時にヤヨイ先生がくれたんだよ。【今は】魔法が使えないからな」

「まだそんな誤魔化しが通じるとお思いですか…いい加減本気で来てください」

怒りの感情を込めた目で睨みつけられるハクリだが、何とか平常を保ち、演じる。強がらなければ、この窮地を脱する事は出来ない。

「だから俺は正真正銘ただの間人族(ニュートル)だってさっきから言っているだろう!何でそんなに信じてくれないんだよ!」

ハクリの言葉など耳に入れる様子もなく、次の魔法詠唱を始めるウェイリィに、舌打ちをする。

「命あるものを無に帰し、生命無きものを地の獄へと葬り去る我が魔の力よ」

「ッ!?」

謎の言葉を述べるウェイリィを見て、ハクリは自身の耳を疑った。今ウェイリィが行っているのは、上級魔法の中でも危険な殺人魔法(キルマジック)の一種だ。その名の通り対象の命を刈り取る為に作られた魔法で、発動のための詠唱に時間がかかるものの、当たれば即死は免れない。

「な、なんで…その魔法はこの学園のやつは使えないはずじゃ…」

あまりに危険な魔法のため、軍に属するものにしかその魔法は教えられないと、国で決まっている。もちろん学園で教えること、使うことは禁止されており、それに反すれば退学は軽いと、ヤヨイに耳が痛くなる程言い聞かされたのをよく覚えている。

「少しコネがありまして…そこで習いました。なに、私の立場上、護身用に覚えただけです」

そして、今この場面で、目の前にいる少女が事もあろうか自身に向けてその殺人魔法(キルマジック)を使おうとしている。一旦始めた詠唱は、使用者の意識を逸らすか、殺す他止める方法はない。今のハクリにするべき判断は当然一つだった。

「くそっ。これは不可抗力だからなっ!撃てっ!」

すぐさま内ポケットから取り出した札、今度は攻撃専用の呪文が組み込まれている。当てた対象に痺れるくらいの電撃を与える魔法だ。

ハクリの放った電撃は、真っ直ぐウェイリィの元へと駆け抜けていく。だが、当たらなかった。

「…遅い」

ウェイリィは片手で形成された魔法陣で魔法の詠唱を行っている。普通の人間なら、殺人魔法(キルマジック)の単数詠唱だけで脳内容量はMAXに至り、同時に魔法を詠唱する事は不可能である……が、ウェイリィは違った。

ハクリの放った電撃は、片手で殺人魔法(キルマジック)を詠唱しているウェイリィの、もう片方の手で形成された防御魔法(シールドマジック)によって消滅する。

……つまり、片手で殺人魔法(キルマジック)を詠唱しながら、もう片方の手で防御魔法(シールドマジック)を出したのである。

「な…ッ。だ、二重詠唱(ダブルスペル)だとっ!?」

二重詠唱(ダブルスペル)。これもハクリが授業でヤヨイに習った言葉である。普通、魔法を出すためには、使用者の声帯と内在する魔力、何も記されていない魔法陣を使う。

何も記されていない魔法陣に、声帯で用途にあった呪文を唱え記し、魔力を使って発動する。

これがウェイリィが今行っている二重詠唱(ダブルスペル)となると話が違うのだ。

人は複数の言葉を同時に述べることは出来ない。しかし、あらかじめ魔法陣に記し、それを維持すれば魔法は二つ同時に発動出来る。

維持するためには脳内容量を使い、発動するための予約を入れておく必要があり、二重詠唱(ダブルスペル)ともなれば、もう一つの魔法を詠唱するためにさらに脳内容量を使うことになる。

難しい話になったが、簡潔に述べると、

1,魔法の詠唱には脳内容量を使う

2,脳内容量には個人差があり、容量を超えた魔法を使おうとすれば失敗する

3,二重詠唱(ダブルスペル)を使うためには、あらかじめ予約を入れる形で脳内容量を使って魔法陣を維持するため必要がある

……という事だ。

そして今この時、ハクリの算段は打ち消され、殺人魔法(キルマジック)が放たれようとしている。

「…何故そこまでして自身の存在を隠す為だけに本力を出さないのかは分かりませんが…私には関係の無いことです…大人しく朽ちてください」

「……嘘…だろ。二重詠唱(ダブルスペル)が出来るやつなんて…勝てるわけ…」

目の前で繰り広げられる現実に、ハクリは心底ショックを受けた。ただでさえ歯が立たない相手に、本気で殺されそうになり、足掻きに足掻いても結果は変わらなかった。

説得という行動が彼女に効かない事も、どこかで気がついていたはずなのに、自分の無力さに心底絶望した。その場で怖気付いたように膝をつき、項垂れるハクリを見て、呆れたような目をするウェイリィ。

「……反抗することさえも拒みましたか…呆れたものです……第二対人滅魔法(オーバートール)

大きく広げられた手から放たれた図太い光の一閃。絶望に落ちきったハクリは、避けることもままならない足取りで、その場に項垂れているままだ

―終わった……

そう思いながら、自分の頭部目掛けて飛んでくる閃光に目を向けた…その時だった―

「そうは…させない」

突如現れた人影に、鋭い閃光が真っ二つに切り裂かれ、二方向に別れる。自分の顔の左右をそれぞれ走っていった閃光は、部屋の壁に(いびつ)な穴を開け、消滅。

突如両者の目の前に現れた謎の人物を見て、ウェイリィ以上にハクリは驚きの声を上げる。

「ッ!?君は…!」

ハクリが驚きの言葉を上げたにも関わらず、その【少女】はこちらに向き直ることもなく、じっとウェイリィを無表情な顔で見つめている。

2度目の出会い。その少女は決して初めて見た顔ではなかった。前日、留年報告を受けるかもと落ち込んでいた時に現れた謎の少女。紫がかった黒を基調とした髪が特徴的なその人物…イタチは、未だウェイリィを見つめたまま、口を開こうとはしない。

「愚問かと思いますがお聞きします。あなたは誰ですか?そのお方の味方ですか?」

自身の魔法がいとも容易く防がれた事が気に食わないのか、その殺気と冷徹さを一層増した声質で語りかけるウェイリィ。それに動じず、ただハクリを守るように佇むイタチ。

「私はハクリの味方。ハクリを守るためにいる…」

無表情で感情の込められていない言葉は、どこか人形のようで、眠そうな目を見ていると彼女にやる気があるのかさえ疑わせる。

イタチの言葉に、ウェイリィは小さくため息をつく。

「…はぁ。あまり私にこういう事をさせないでください。『人形』とはいえ、殺すのには変わりないんですから…」

「殺す?何を言ってるの?」

イタチが問い直したのは、決した自分がいる人形と言われたからではない。自分に対しての【殺す】という言葉が、イタチにとってはおかしかったのだ。

「私はあなたに殺されるわけないし、私はハクリを守る。あなたは私とハクリを殺せない」

堂々と放った言葉には、どこか自信というものを感じさせた。

「随分な自信家の方だと受け取ります…なら私も容赦はしません…御二方もろとも殺して差し上げましょう…」

ウェイリィの言葉を最後に、イタチは凄い速度で接近する。ハクリに代わって小さな少女が、戦闘の幕を開いた。

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