ウェイリィの疑い
ハクリが連れてこられた所は、よくある体育館の裏……ではなく、とある空き教室だった。一体どんな仕打ちを受けるものかと内心怯えたものだが、今行われていることはそんな野蛮な事ではなかった。
「2人とも、席を外してください…」
「しかしお嬢…」
「…口をわきまえろヒュウマ。お嬢の言葉は絶対だ」
ウェイリィの命令で、ヒュウマと呼ばれた男は不服そうにしながらも、空き教室から出ていった。こちらを安心させるためか否かは定かではないが、とりあえずボコボコにされる可能性が低くなったハクリ側としては安堵の息を漏らせる。
「えっと…わざわざ二人になってまで俺に話す内容って…そこまで重要なことなのか?」
「えぇ…あなただけでなく、この国全体に関わる事です」
他人事ではない事は、初めてウェイリィの顔を見た時なんとなく予想できた。今まで何度か見てきた人物達の真剣で真面目な表情を幾度となく目にしてきたからだ。ウェイリィの表情もそれに近い気がした。
「あなたは新種族、もとい間人族としてこの学園にいる…間違いないですね?」
「あぁ…間違いない」
「そうですか……」
未だ真剣な表情は緩められることを知らないようだ。ハクリに対する意味不明な質問に疑問を浮かべながらも、ハクリはただ真実を述べる。
「あなたの種族の特徴を、まだ予測でしか知らないのですが、魔力と力量には個人差がある…そうですね?」
「あぁ…」
まるで自分の事を隅々まで調べるような質問を繰り返すウェイリィ。
『種族の特徴』『容姿』この類の質問を時間をかけて行うウェイリィに、少々苛立ちを覚え始めた頃だった。
「では、最後に、あなた達はどこで生まれ、育ちましたか?」
「それは学園や種族協議会に報告した通りだ。未だ発見されていない大陸。俺とルリはそこで生まれ、育った」
この回答におかしな所があったのか、ウェイリィは納得のいかない顔をする。実際ハクリは別の世界から来たわけで、嘘はほとんどついていないが、誤魔化しているところがないと言われれば片耳痛い。
「…分かりました」
全ての質問が終わり、ハクリ自身が安心したようにため息をこぼす中、ウェイリィは疑いの目でハクリを見つめる。
思わずウェイリィに問いかける。
「なぁ、これは何なんだ?何で今更俺にこんな質問をする?」
そう問いかけると、何を思ったのか席を立ち始めたウェイリィ。警戒しながら目線を逸らさず、じっとウェイリィを見つめ返す。
そんなウェイリィの口から放たれた言葉は―
「…あなたに答える義理はありません。何せあなたはこれから―」
そう言い放つと同時に、ハクリのすぐ側まで歩み寄るウェイリィ。その瞳はどこか無に近く、見ているこちらは自然と寒気がした。
…逃げなければ。
そう思い、行動に移そうとするものの―
「う、動かない!?」
「第三十三聖系魔法。場所を移動する故にあなたには動いてもらいたくはありません。安心して下さい。すぐに終わります。あなたの運命も」
ゾッとするほど凍てつく程の瞳と声帯からくる威圧感。気がつけばウェイリィとハクリを囲むように、魔法陣が形成されていることに気がつく。気がつくのが遅かったのか、既に起動を始めたようだ。
何もかも理解できないまま、視界は光に飲まれていく。
 




