責任と義務…重い!重いよっ!
「はぁー!長かったなぁ…ね!ヤヨイ!」
「ええいくっつくな!仕方ないだろう。彼にとっては初めてのことだからな…」
あの後実に数時間の説明をぶっ通しで受けたハクリ。今もツキカゲに対して質問を行っている。
「ヤヨイも大変だよねぇ。どんな力を持ったか分からない子を2人も教えてさ」
「これも職業の一環だ。何も苦に思っちゃいないさ」
手に持ったコップに視線を落とし、記憶を巡らせる。思い出したのは、種族競技会の最後の出来事だった。
「あの話はほかの代表に話したのか?」
ヤヨイの問いかけにミナヅキは首を横に降った。
「いや、言ってないよ。言う気なんてないし」
ミナヅキの回答にヤヨイは「そうか」と安堵の息を漏らす。ヤヨイのあの話というのはルリの事である。
「検査の結果ルリ君には上級魔法を出す程の魔力など存在していない事が分かった。本人に問うても『分からない』『気づいたら出ていた』」の2点張りだ」
「他の教え子達は何か言ってないの?」
「あの時はルリ君以外皆戦闘または捜索を行っていたようだ。妖精の森の木は高いから、見えなかったんじゃないかな…」
何か詰まることがあるかのように顎に指を当てるミナヅキ。
「学園の人達は何か言ってないの?」
「全員その事については何も言っていなかった…間近で見たであろう生徒もだ…」
ルリの放った魔法は緑系魔法の中でも上級の魔法。それもあれだけの範囲に放った魔法を見た人が全くいないというだけでかなり不審なものである。
「……知っているのはヤヨイだけって事か…」
「あぁ、おかしいだろ?あの試合を見ていたのは私だけじゃない。不快な話、馬鹿にするために見ていた奴も多くいるんだ。それなのにルリ君の魔法を見たのは私しかいない…」
「誰か第三者がその子の存在を隠そうとしている……とか?」
「それなら私にだけ認知させる理由が分からんな…」
ヤヨイの言葉を最後に、二人の間に起きた沈黙。謎に謎が重なり、処理が追いつかないでいた。
「はぁー終わった。これだけ分かってりゃ大丈夫かな…あ、ヤヨイせ…ヤヨイさん。ミナヅキさん」
「おっ新種族君おつかれー!ツキカゲの話は理解出来た?」
内ポケットに入れてあったメモを取り出し、ギッシリと書き詰められたページを流し見するハクリ。
苦笑しながらメモを眺めるハクリを見て、ヤヨイとミナヅキはある程度理解したようだ。
「君には迷惑掛けてばかりですまないな。今回の事も…」
「大丈夫ですよ。それにこれは俺の為でもあるんですから」
「……それにしても新種族君が来てから新鮮な事ばかりだよねー。今回きってだよね。他種族混合のチームなんてさ」
「えー!じゃあ私達ハクリと同じチームに入るの!?」
「それって世界初なんじゃないのかな?僕の知ってる限り…」
「……そうですね。今までそんな事を聞いたことがありませんから…」
重苦しい空気だった協議会を出て、ハクリは早速クラスメイトを集めて報告をしていた。
ハクリが積極的にツキカゲに聞いていた事は、こういう事だ。
「まず、俺達はこのメンバーで市民の依頼を受け、様々なクエストに向かうチームを結成する事になった。この前の1件から、『種族混合チーム』として結成するから、後々移属する事も可能なんだと…」
ハクリ達の運命を分けた種族競技会。その時に用いられたチーム結成の方法は、自らの種族を一時的に捨てる事が必要だった。
しかし、今回の条件は『各チームの長から申し出があれば、移属してもいい』という事らしい。
「なるほど。つまり僕達の頑張り次第でこの先が決まるって事だね…」
「まだ終わってねぇって事ですか」
「そういう事だ。あと…これなんだが…この今年卒業した後ってここに書いてあるんだよな。これって―」
まじまじとメモを見ながら言うハクリ。ツキカゲに聞いている時は忙しすぎて、そこまで頭が回らなかったのだが、改めて見直してみると突っかかる点があった。
「はい。私達はあと半年で卒業しますよ?」
「……は!?」
「だって私達卒業過程全部終えたし、逆に卒業しないといけないのよ。あんたは知らないだろうけど…」
ユリを含めるクラスメイト達が可哀想な目でハクリを見つめる。
「いやまて!それならルリだってそうだろ!俺と一緒に来たじゃないか!」
「あ、私はマスターが居ない時にヤヨイ先生から一緒に卒業と聞いてますから」
「なっ……」
思いもよらぬ展開に、ハクリは言葉を失った。そんなハクリを見ながら、ぼそっとヒノンが一言。
「一人……だね」
「いやだぁぁ!俺は認めないからな!」




