種族協議会
ここが会場ですか…」
「詳しくは族論会という場所だ。ここで様々な決め事を話し合うんだよ」
ヤヨイに連れられ、ハクリは学園から遠く離れたとある大きな建物へと来ていた。
第一印象はとにかくでかい。
「さぁ、入りたまえ」
ヤヨイドデカイ扉に手をかざすと、白い魔法陣が形成され、扉が開く。少々戸惑いながらも、ハクリは先を行くヤヨイの後について行った。
「……でかいですね」
「敷地面積は学園の2倍あるからな。その分ここで働く人も多いよ」
数々の魔法を駆使した移動方法を行い、やっとの事で目的の部屋へと訪れた。
「ここに来るまでにどれだけの魔道具使うんですか…」
方を揺らしながら呼吸を整えるハクリに対し、ヤヨイは余裕そうだった。
ワープは勿論のこと、隠し扉、部屋だと思った場所が丸々エレベーターなんて事もあった。
「これから入る部屋はこの世界の最重要区域となる。これくらいの警備だけでも手薄いくらいだと私は思うがな…」
そして再び扉に手をかざすヤヨイ。先ほどと同じ過程で開かれた扉の向こうには、あたかも会議室を連想させるような1室。凹状に並べられた長机に、六つの椅子が置かれており、既に4人の人物が席についていた。
「遅かったな…ヤヨイ」
「開始時間五分前とは、お前も偉くなったものだな…」
「すまない。彼を連れてくると同時に道案内を兼ねてきた」
偉そうなおっさん2人に険しい視線を向けられ、少々引け気味になりながらも、ハクリは睨みつけ返してやった。
「……ほう、そやつが新種族の少年か…もう1人の女はどうした」
「今回連れてきたのは彼だけだ。部外者は関係させない…それがここのやり方だろう」
返す言葉はないと言わんばかりの沈黙。ヤヨイは無言のまま自分の席と思われる場所についた。
「アマタハクリ。君の席はまだない。そこで待機していたまえ」
ヤヨイに続き空いている席に移動しようとしたところ、いきなりの『お前の席ねーから』宣言。ハクリは思わず口を開いてしまう。
「でもヤヨイ先生―」
「ここではヤヨイさんだ…ここは学園ではない」
いつものヤヨイとは違う冷たい目でハクリを見つめるヤヨイ。ハクリには返す言葉もなかった。
「さて、とっくに開始しなければいけない時間なのだが、獣人族の主が来ておらんな…一体何を―」
「ごめーん!待たせちゃったかな?」
吸血族の主が文句気味に愚痴を漏らしている最中に勢いよく扉が開かれる。
同時に飛び出してきたのは、元気ありあまる姿で飛び入りして来た犬っ娘。
「チーム内で喧嘩起きちゃってさー、私も混ざってきたんだーって、君誰?」
呆気に取られていたハクリに気兼ねなく問いかけてきた犬っ娘。ハクリは情報処理が追いつかず、戸惑ってしまう。
「え、あ、俺は…その……」
「彼が新しい種族の主。名をハクリと言う」
「へー!君が噂の新種族君かぁ!私ミナヅキって言うんだ!よろしくね!」
「は、はい。よろしくお願いします」
「……話は済んだか?ミナヅキ」
「うん!待たせちゃってごめんね!」
ミナヅキが席についたことを確認し、咳払いをする吸血族の主。
「それでは早速、君の種族名を教えてもらおうか…」
その言葉と同時に向けられた険しい数々の視線。ハクリは引き気味になりながらもポケットに入れてあった小さなメモ紙を取り出す。
「俺の…俺達の種族名は……」
あのあと散々悩んだ。どんな名前にすればいいのか分からず、投げやりになりそうにもなった。でもめげなかった。
そんな苦労の末に決めた…
「間人族。俺達は間人族です」
「間人族…」
ハクリの世界では中立、何にも偏らないという意味を持つ単語、ニュートラルという単語を少しいじった。
「…なにか意義がある者はいるか」
取締役を担っている吸血族の主がそう言ったのを最後に、ハクリの種族名に関する討議は終了となった。
「次にチームの事だが…ヤヨイ。説明はしてあるのか?」
「チームの存在は告げてあるが、詳しくは話していない。必要がなかったからな」
ヤヨイの回答に取締役の男は「そうか…」と呟いた。
「ねぇねぇ!私は終わったけど、皆は新種族君に自己紹介したのかな?」
真剣な空気をぶち壊すように大声でそう言ったミナヅキ。隣の席に座っているヤヨイがため息をこぼす。
「これからの会議に参加する身だ。名前くらいは教えておくのも良いんじゃないのか?」
呆れ顔でそう言ったヤヨイ。取締役の男は最初に口を開いた。
「吸血族の主、ツキカゲだ。本日の会議を取り締まっている」
「俺は妖精族のクライブだ…」
つづいて二人の自己紹介が終わり、ハクリはいちいち頭を下げていた。
「次はお前の番だぞ…起きろ」
クライブに起こされた最初からうつ伏せのままの男は眠そうな目を擦りながら頭をあげた。
「ん〜?なんすか急に…せっかく気持ちよく寝てたのに…」
「新人に自己紹介をしろ…全く、これだから竜人族は……」
「全くだ…」
クライブとツキカゲの言葉にピクリと反応しながらも、眠そうな男は口を開いた。
「竜人族代表のサカキっす。よろしくっす〜」
「よろしくお願いします」
ハクリの顔を確認したかと思えば、またうつ伏せになるサカキ。残るは小人族の代表のみだ。
「小人族代表のヒエイだ。よろしく頼むよ若いの」
最後は小さいおっさんの自己紹介で閉められた。1通り自己紹介が終わり、話題はいよいよ本番に入る。
「本題に入るが、君に一つ聞きたいことがある…」
「……はい。何でしょうか」
「君は……人を守る覚悟が出来ているのか?」
ツキカゲの質問にハクリは真面目な顔で目線をしたに下ろした。今まで経験した事が内容な大役、種族を仕切る主になるという大仕事。代表という言葉がどれだけ重く、重要なのかを、ハクリはまだ半分も理解していなかった。
「……分かりません……でも―」
中途半端な事は出来ない。この世界で生きていくと言うことは……そういう事なのだから。
「種族の主として…最大の責任と義務は誰よりも抱えるつもりです……」
ハクリの堂々とした回答に、ツキカゲは「ほう」と言葉を漏らした。
「種族の代表が受け持つ仕事を、これから説明する」




