打ち上げっていいですよね。何かも忘れてさ
「それじゃあ私達ミュードクラスの勝利と、ハクリ君の種族名獲得を祝して!」
「かんぱーい!」
カツンと、互いのグラスを当て合う音が【ハクリの寮部屋】で鳴り響く。前にあんな件があり、ヤヨイ先生に検討した結果ハクリの部屋でならやっていいという事になった。当然の如く変な事をすれば消し炭になるらしい。
「はぁ。一時はどうなるかと思ったわよ。まさかシノアの薬が効かないなんてね」
グラスのジュースを一気に飲み干し、感想を述べる妖精族の少女、ユリ・クライヤ。思い出す試合終盤。俺とルリはシノアの創り出した薬を飲み、透明になった状態で旗を壊しに向かう予定だったが、何故か薬が効果を発揮せず敵のリーダーに姿を晒したまま出くわしたのだ。そのお陰で死にそうになった。
「本当に申し訳ありません。私も今回の件をより詳しく調べて、何故薬の効果が出なかったのか今一度研究し直してまいりますので…」
「いいさ。結果的には試合にも勝ったんだし、シノアの薬は周りの皆を十分助けてくれたさ。シノアなくしてこの試合は勝てなかったよ」
ハクリのフォローに、シノアは笑みを浮かべながら「ありがとうございます」と応えた。
「まぁまぁそんな事気にしないでさ、飲もう食べよう!」
「がってんでぃ!私も食べまくりますよ!」
そう言いながら並べられたこの世界ならではの料理にがっつくミルとリリィ。ハクリも負けじと料理に食らいついた。
「そういえばルリちゃんとヤヨイちゃんが居ないよね?何か用事?」
そう問いかけたのは吸血族のミャン・リヴァン。少食なのかあまり箸が進んでいないようだった。
「……それなら少し寄る所があるって…言ってたよ」
それに答えたのは獣人族である、ヒノン・ミルモント。大人しめな性格故に声もどこか小さめだ。
「寄る所ねぇ。ハクリ何か聞いてないの?」
「フォークを向けるな。俺は何も聞いてないぞ?多分俺が進行所に呼ばれている時だったんだろうな」
ハクリがそう言うと、ユリは「そう…」と手にしていたグラスの飲み物を一気に飲み干した。
「はぁ…あいつ一体何やらかしたんだか―」
「まぁぁすたぁあ!みなさぁぁん!お待たせしました!」
ドアが壊れるんじゃないかと言わんばかりの勢いで扉が開かれる。姿を見せたのはルリとヤヨイだった。
「すまないな。少々長引いてしまった」
「本当ですよ!皆2人が居ないからってしんみりしちゃってたんだよ!」
「ミルだってそうでしょ!」
「ふふっ。それでは皆さん楽しみましょう!ヤヨイ先生も!」
それからはそれぞれ楽しいひと時を過ごした。皆で楽しく話し、ゲーム等をたのしんだ。
「…………」
ふとハクリの意識は、グラスを持ちながらぼーっとするヤヨイの方へと移る。悩み事でもあるかのように無意識に見えたため、声をかけるハクリ。
「ヤヨイ先生」
ハクリの呼びかけに我を取り戻したのか、焦ったようにハクリの方を向くヤヨイ。
「どうかしたんですか?」
ハクリの問いかけにヤヨイは頭を横に振った。
「まぁ教師も教師なりの悩みがあるんだよ…恋愛とかね……」
「あ、その、すいません…デリカシーに欠けました」
申し訳なさそうに対応するハクリに、ヤヨイは声に出して笑った。
「ふふっ。冗談だよ…ハクリ君」
優しい笑みを零したまま、真面目な感情を込めて呼ばれた名前。疑問を生じた顔でハクリは耳を傾ける。
「後で私に付き合うように…デートをしよう」
「……冗談ですよね?」
そう問いかけるも、内心半信半疑のハクリ。ヤヨイは未だ笑みを浮かべたままで、真面目なのかすら分からない。
「私は自分の為に嘘はつかないと決めているんだ」




