種族競技会その3~ミルの本職~
「よし。リリィ良くやった。後はフィナーレのメインディッシュを待つだけだ」
「どっちですかマスター…終わるのかメインなのかどっちかにしてください」
物陰に隠れながら移動するハクリとルリ。リリィの言っている事が真実なら、ハクリのする事は一つである。
「皆聞こえるな。これから作戦を実行する。確認のために1人1人俺から指示を出す」
丁寧に分かりやすく説明するハクリ。さっきも言った通り、これからがメインであり、フィナーレなのだ。慎重に動かなければ、失敗したら即敗北確定である。
「って事で以上だ。誰か意見がある人はいるか?」
「ハクリ、ちょっといいかしら。私とミルが出るタイミングをもう1回教えて欲しいの」
……………………数分後
「よし、作戦開始だ。移動が必要な人は迅速に頼む」
「「「「「了解」」」」」
「移動するぞルリ」
「はい!マスター!」
こうして、ハクリ達のクラス『ミュードクラス』による作戦が決行された。
「よし。作戦開始だ!ミル、ユリ、ミャン頼んだ」
ハクリからの通信を魔法陣を通して耳に入れ、ミルはニヤリと表情を緩める。
「よぉし。じゃあ皆、行こうか!」
「確認されている敵影は5人。私とミャンで左右1人ずつを相手してるから、ミルは真ん中の3人をお願い」
「おっけー。じゃあ僕から行くよ…」
そう言葉を残し、潜んでいた茂みから一気に走り抜けるミル。当然敵もその姿に気づき、各自戦闘態勢と言えるような容姿に変わった。
ある者は角を発光させ、ある者は翼を翻す。
「敵襲だ!各自戦闘に入れ!」
リーダー格のような男子生徒がそう告げると、周りの生徒達は目線を一気にミルへと移す。ミルはそんなことを気にする仕草も見せず、ただ任された3人だけを狙った。
「欠陥クラスがたった1人で我らに挑みに来るとはなぁ!」
「油断しないで!そいつが私達を攻撃した張本人よ!」
「こいつが……ふん。我が相手だ…」
そう言って見るの前に立ち塞がるのは周りの竜人とは段違いの闘気を放っている男子生徒。青と赤のオッドアイが印象的な男子生徒は、翼を広げ、全力で来る体制である。
「我の名はルチヤ・リスベル。誇り高き血統を継ぎし我の力……思い知るがいい。周りの者は手出しするでないぞ!」
振り上げた手を振りかざすルチヤ。それと同時に、凄まじい風の斬撃がミルに襲いかかる。ミルはその斬撃を紙一重でかわし、空中に飛躍する。
「中級魔法…。竜人で使う人は初めて見たよ。さぞかし良い血統の後継者なんだろうね」
「ふん。我には無意味な事だ…血統などなくても、我がこの程度の力を有する事は必然だったのだ」
手上に魔法陣を形成し、それをミルに向けるルチヤ。
「第二炎系魔法」
ルチヤの手中から出てきた八つのツタ状の炎は、それぞれ拡散したと思われたが、ミルの周りを球状に囲むように集合し、1点に集まる。周りを火の柱に覆われ、逃げ道がないミルは辺りを見回すが、見げ道は完全に塞がれている。
「炎の檻の中で無様に朽ちるがいい…同種よ」
「同種…か。君は僕を同種と呼んでくれるんだね…」
ルチヤに反論するようにそう言ったミルに、ルチヤは無言のまま見つめているままだった。手を徐々に握っていくと同時に小さくなっていく炎の檻は、次第にミルの元へと襲いかかろうとしていた……その時。
「な、何だ貴様らは…お、おぉおおおおお!」
ルチヤの左後方から仲間の叫び声が聞こえたと思い、振り返るルチヤ。見ると、妖精族の少女が謎の液体を無理やり飲ませている光景が目に映った。
「あ、バレちゃった…まぁいっか…ミャンー!そっちはー?」
「でーきたよー!私はユリちゃんより戦闘向きだもーん!」
「な、何をしている!我の同士に何をした!」
力を失ったようにその場に倒れ伏すクラスメイトを見て、ルチヤがそう問うと、ユリは謎の液体が入っていた瓶を見せつけた。
「あんたの仲間だかなんだか知らないけど、無力になってもらっただけよ」
「はいはーい!私もやったんだよー!」
「ルチヤ!この2人は私達が何とかするから、あそこのあいつ……を…」
徐々に気力をなくしていくように、声が途切れていく女子生徒の言葉を聞いて先程ミルがいた場所を見ると、ルチヤは目を見開いた。
「ふぅ。ご馳走様。流石にこの炎は熱いね。僕の手が火傷しそうだったよ」
手中の炎を握りつぶし、不敵な笑みでそう言うミル。
「貴様、我の炎をその手で粉砕したというのか!?」
「こんなの僕なら容易いことさ…それより、良いのかな?このままだと負けちゃうよ? 【僕に】」
ミルの挑発するような言葉は、戦闘に長けた竜人の血を滾らせた。ルチヤは二色の目を研ぎ澄まし、闘気を風力へと実体化させた。
「お前達はその2人の相手をしていろ…汝、名前を聞こう同種よ!」
本気になったルチヤを目の前にしてミルも竜人としての翼、牙、爪、目を研ぎ澄ます。
「僕はミル・メルトロール。ミュードクラスの…特攻隊長だよ!」




