If~もしもの話~ある神様の物語
「認識…我が主と断定します」
「起動修正開始…起床まで、あと5秒」
薄暗く、肌寒いその場所で、いくつもの声の主がそう告げる。馬鹿みたいに広いこの部屋で、この光景を見るのはいつぶりか……。どのくらいの年月を眠って過ごしたことか、それすらも思い出せない。
「…カグツチ」
「はい。お呼びでしょうか」
名前を呼んだことで姿を現したのは、真紅の瞳に黒い長髪の少女だ。礼を尽くすように頭を下げ、感情のこもっていない目でこちらを見つめる。
「僕は…どのくらい眠ってたんだ?」
「はい。口頭で告げた時間をお伝えしますと、156年6ヵ月15日、21時間15分32秒でごさいます」
「そうか…少し寝すぎたかもな…あの子は?計画は順調に進んでいる?」
問いかけたと同時に、カグツチは手上に鮮明な映像を出す。その内容は、これからの計画に必要不可欠な人物達の行動が記録されていた。
「……ふむ。やっぱり寝過ぎたな。例のアレは送ったかい?」
「はい。手はず通りに…」
「ふぅ…さて、僕が眠っている間、この世界はどこまで発展したのかな…いや、むしろ人間的には退化してるのかもね……ふふ」
不敵な笑みをこぼし、小さな窓から外の世界を眺める。空高くに位置するこの研究所で、ただ一言、こう呟いた。
「もし、僕がこの世界の神だったのならば、君はどうするのかな…ハクリ君」
「ad‐147523…捉えました。下の世界ではルリと名乗っております。マスター…どうしますか?」




