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If.七種目の召喚者(イレギュラー)  作者: 石原レノ
始まりNew World
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種族競技会その2~リリィの仕事中~

「あーもうっ!何で私がこんな事しなくちゃあいけねぇんですか!」

自分の陣地をシノアに任せ、ハクリに言われた通りの行動をするべく準備をするリリィは、1人森林の中でそんな事を言っていた。ぶつくさと文句を言いながら渡された衣装に着替える。

「大体こんな事が上手くいくわけねぇんですよ。そもそもあの男は何を考えているのか……んぅ…」

あの男という呼び方はあまり好きではない。

内心そう思いながらも、何故か彼の前に立つと皮肉った言葉を言ってしまう。周りは名前で呼んでいるのに、自分だけ呼び方が違うと、なぜか仲間はずれな気がしてならなかった。

「あの男…ハク…リ……ハクリ」

人の名前を呼ぶという事は、毎回ながら恥ずかしい。慣れてしまえば良いのだが、今まで異性と関係した事がないリリィにとっては困難な状況だった。

「うぅ…あんにゃろぉ後で覚えてろよです」

頭を横に振り、無駄な邪念を追い払うリリィ。着替えが終わったところで自分の姿は見えず、似合っているのかさえ不明である。

ちなみに、リリィが着ている衣装というものは、ハクリの世界でいうゴスロリの衣装である。

黒を基調としたドレスに身を包んだリリィは、幼い体でありながら相当の可憐さを放っていた。カチューシャ的なものをつければ、あたかもどこかの貴族である。

「周りの風景と全く合ってねぇですよ……ったく、これだと簡単に的に気づかれて―」

「おい、そこにいるのは誰だ…」

「ひゃっ!」

文句を言っているリリィのすぐ側から1人。今作二度目となる登場、ユリとミルにボコボコにされた男子生徒が茂みから姿を現した。

「くそっ!こんな所にも敵……が…」

リリィを見つけた所で男子生徒の言葉は詰まり、目を見開かせた。

当然である。彼の目の前の光景には、幼いお嬢様が森に入り込んでいるようにしか見えないのだから。

「な、何でこんな幼い子がこんな森にいるんだ…」

「お、幼い……うぅ、ここは我慢…我慢……」

『幼い』という言葉が気に入らないのか、リリィは一瞬眉をぴくりと動かした。

湧き出る感情を抑え、ハクリに言われたとおりのことを実行する。

「あ、あの……」

「っ…はい。何でしょうか?」

リリィがいつもの口調とは異なる、お嬢様みたいに声をかけると、強ばった表情で男子生徒は応えた。

どうやらリリィが本物のお嬢様と思っているらしい。

「えっと…私、迷っちゃったみたいで…その……出口を教えてもらえませんか?」

ハクリに伝えられた作戦は三種類。


1、出口を聞いて案内させる。道中の会話で敵の作戦を模索する。

2、もし無理だった場合その場で足首を抑え、痛いふりをする。

3、これも無理だった場合、投げ飛ばす。


3は最終手段として伝えられたものということで、内容は最低極まりないものとなっている。

つまりリリィは相手の作戦を聞き出すという任務が任されたのだ。ハクリ曰く別にそこまで重要ではないが、聞き出せれば勝率は100%らしい。

「えーっと…俺これから相手の陣地を探さなきゃなんないんだよね…だから―」

「うぅ…さっき捻った足首が痛いです…歩けません…」

チラッと自分を見下ろしている男子生徒の顔を見ると、困り果てた顔をしていた。内心で迷っているようだった。それを確認したリリィはさらに攻めてみることにした。

「このままこの森の中で野垂れ死ぬんでしょうか…お父様、お母様…」

「あーもう分かった分かったよ!連れていけば良いんだろ!」

ニヤリと不敵な笑みを浮かべるリリィに背を向ける男子生徒。どうやらおぶってくれるらしい。

「はぁ……なんで俺がこんな事…何でここに居るの?」

「ええっと…遊びに出ていたらいつの間にか…」

もちろん嘘である。

「今ここは俺達のクラスと欠陥クラスが試合してるから、ここ出たら早く帰るんだぞ…」

だるそうな口調でそう言ってくる男子生徒。リリィは大人しめに「はい」と応えた。

ここからが本仕事である。

「その、あなたのクラスがしている試合とはどういうものですか?」

「んー。まぁ戦力勝負みたいなもんだよ。この森全域を使った陣取りゲームかな」

いつもの様子からして全く考えきれない程の演技力を誇るリリィ。すっかり相手の方もリリィがどこかのお嬢様だと信じ込んでいる様子だった。

そう思ったリリィは少し冒険してみる事に…。

「あの…私がこんな事聞くのはおかしいかもなんですけど…あなたのチームは強いのですか?」

「少なくとも欠陥クラスよりはな…しかしあの同種の女の子にはおどろいた…あいつはうちの主力にも劣らない力を持っているのに、どうしてあんなクラスなんかに…」

ギュッとリリィの腕に力が入る。締め付けないよう心を落ち着かせ、話を続けた。

「そんなに自信があるのならさぞかし作戦が万全何でしょうね…」

「あ?作戦?そんな物ねぇよ?」

「………………はい?」

予想外の回答を平然と答えた男子生徒に、リリィは思わず驚いてしまう。

「いや、作戦も何も欠陥クラスだぜ?俺達は作戦なんて立てないし、ただ竜人として力でねじ伏せる…そういう事だ」

「欠陥クラスには力押しで十分……って事ですか…」

リリィの問いかけに男子生徒は「そうだ」と自信満々に応えた。リリィは手を耳に当て、魔法陣を展開する。

「皆聞こえてやがりますか?相手は作戦なんて立ててねぇそうです。私達が欠陥クラスだから、竜人らしく力でねじ伏せるとかくせぇ事言ってるですよ…」

すぐ側で自チームの作戦を誰かに伝える仕草をとるリリィの行動に、男子生徒は困惑した。

「お、おい!誰に喋ってやがるってちょ、痛い!痛いって!締め付けられる!」

緩めていた力を入れて、一気に締め付けるリリィ。男子生徒はもがきはするものの抜け出せない。

「私達は劣ってなどいません…その言葉、撤回させてもらいますよ」

おんぶされている体制から一気に決めたバックドロップ!これは痛い!

男子生徒は泡を吹いて気絶してしまったようだ。

「ふぅ……」

よれた衣装をきちんと直し、陣地に向かって歩き出すリリィ。頭の中はモヤモヤしていて、どうも気に入らなかった。

「今度言いやがったら承知しねぇですよ」

そう言い残し、早足で駆けていった。

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