種族競技会その1
「シノアさんに貰ったこの薬を飲むタイミングはどうしますか?マスター」
目的地へと向かう最中、ルリがハクリに問いかける。シノアには事前に『透明になれる薬』を貰っていた。それは今から実行する作戦には必要不可欠なものであり、これがないとこの勝負には確実に負けてしまう。
相変わらず毒々しい色をしている液体を眺めながら、ハクリは前例の記憶を呼び覚ます。発効までの時間は短縮されたらしいが、味はどうにもならないらしい。
「……まぁその時になったら自然に飲むだろ…うん」
「めっちゃテキトウじゃないですか…」
呆れ口調のルリの言葉を聞いて、ハクリは苦笑した。正直言うと何も考えていない訳では無い。しっかりと練りに練ったこの作戦は、正直頭が悪い事で有名な竜人族にしか通用しないだろう。そのための今である。
「テキトウじゃないぞ。俺は考えに考えているからな…その時が来たら言うさ……つまり『適当』だ!」
どこか自信を帯びたハクリの言葉を聞いて、ルリは安心したように微笑んだ。
「マスターのそういう所私は好きですよ」
いつものハクリなら戸惑っていた所であるが、免疫がついたのか挙動不審になることも無く
「あぁ…ありがとよ!」
ニカッと笑いながら先へ進んだ。
「はぁ…まだ出てくるとはね……正直僕に喧嘩売るのは頭が悪い人達だけだよ」
「くそ…欠陥クラスにこんな奴がいるなんて聞いてねぇぞ……一週間前はいなかったはずだ……」
道先で出くわした見張り役の生徒をなぎ倒し、見下ろすミルはピクリと眉を動かした。
瞳は本物の龍のように鋭く、相手を威圧する。
「嫌いなんだよねぇその言い方。僕達のクラスは『ミュードクラス』っていう名前なのに…何で君達は僕達をそんなに汚すわけ?」
「お、お前達が俺達より劣っているからだ…欠陥品に欠陥と言って何が悪い………っ!」
男子生徒が皮肉を漏らす中、ミルの一撃が、背後の樹木を叩き割る。頬にかすり傷を付けた男子生徒は、口を開いたままガタガタと恐怖を表していた。
「……これ以上僕をイラつかせないでくれ…次こんな事があれば君の命の保証はないからね……」
「ミルー!見つけたわよ!敵の陣地!」
背後の茂みから出てきたユリの声を聞いて、研ぎ澄まされた牙と爪を元の姿へと戻す。目を閉じ、心を落ち着かせる……。
「……やったねユリ。あとは待つだけだ」
振り向きざまに笑いかけたミルはいつものミルだった。
「そこの人なんか言ってた?」
そう言いながら、先程までミルと話していたであろう男子生徒を指さすユリ。指先にはガタガタと震えている生徒が1人。
「あぁ彼か…うん。何も言わなかったよ」
ミルの応えに、ユリは「そっか」とどこか安心した様だった。
「……でもこのままだといつ攻撃されてもおかしくないし……縛っておこっか?」
「え……縛るって…ちょ、痛い!」
ミルの提案に疑問を持った男子生徒だが、聞き返そうとしたところで早速、そこら辺にあった木のツタでぐるぐる巻きにされた。
「……よし、これでオッケー」
「ミルってそういう所容赦しないよね…」
「これでも随分手加減してるんだけどなー」
しっかりと縛り付けた生徒を樹木に吊るし、ミルとユリは固まってしゃがみこむ。
「……えーっとこれからの作戦は…」
そう呟きながら支給された魔道具から魔法陣を形成するユリ。展開されたメモと地図を指さしながら、次の行動を確かめる。
「ありゃ…次はリリィちゃんの出番だね。大丈夫かなぁ」
「まぁリリィなら大丈夫でしょ。あの子やる時はやる子だもん」
「なんだかユリ、お母さんみたいだね…」
ミルの何気ない一言は、ユリを苦笑させた。
「…さて、頼むわよ……リリィ」
 




