ちょっと思い出して
「ユリさん達大丈夫でしょうか……」
陣地内にいるシノアがふとそんな事を言う。周りにはヒノン、ハクリ、ルリ、リリィが待機している。不安気に言葉を零すシノアに、ハクリは気楽に返した。
「大丈夫だって。ミャンを偵察に行かせてるし、ミルもミルでやばいくらい強いんだろ?」
遡ること1、2週間前。
「今日は君達に彼女達の事について話そうと思ってな。そのためにここに呼んだ」
ヤヨイが言う彼女達というのは、ハクリのクラスメイトであるユリ達の事である。そしてハクリがいるのは、ヤヨイと2人で話す時のいつもの1室。
喉を鳴らし、緊張気味のハクリは表情を固くしていた。
「……これはあくまで彼女達がそうして欲しいと言ったからやっている事だ。部外者にばらす事のないように」
そう言いながらハクリに渡してきた資料に目を通す。ハクリが前に受けた検査の時と全く同じ表記だった。
「ユリ・クライヤ。妖精族の16歳で、魔力豊富な普通の者とは違い、更には魔法も初級魔法しか駆使出来ないという理由から私のクラスに入った…」
どう対応すればいいのか良いのか分からないハクリ。ヤヨイは続けて説明をする。
「ヒノン・ミルモント。獣人族の16歳でこれまた聴覚嗅覚を使った魔法駆使が出来ず、身体能力も劣っているという理由で私のクラスに入った」
ヒノンの資料に目を通すと、確かに身体能力も値で平均を下回っていた。聴覚嗅覚に至っては大きく下回っている。
「シノア・イーリア。天人族の17歳で、生まれた時から片翼を失っている為に種族特有の高い魔力が半分になっているため私のクラスに入った……」
シノアの話をしている時、ヤヨイは悔しい感情を噛み殺した。ここで発散させても意味がない。そう思ったからだ。
「ミル・メルトロール。竜人族の16歳でパワーだけならどの同種よりも上であるが、そのパワーを駆使出来ず、知能も周りより低いために私のクラスに入った」
「お、おぉ……」
流石のハクリもこれには驚いた。ミルの資料に目を通すと、力の所がはち切れんばかりに伸びていた。その代わりと言ってはなんだが、知能があまり宜しくない数値になっている。
「…ミャン・リヴァン。吸血族の15歳で本当ならしなければならない種族ならではの儀式を彼女は興味が無いとやらで行っておらず、そのために吸血族としての真の力を発揮できないでいるために私のクラスに入った」
「え?15歳?その儀式ってのは一体どういう―」
「この学園には学年というものはあっても同じクラスでも多少の年齢差はあるんだ。儀式の事についてはノーコメントだ」
思わず口を開いたハクリだったが、ヤヨイは速攻で回答をする。これ以上の詮索はしない方が良さそうだ……。
「……リリィ・ノーべリア。小人族の14歳で―」
「ちょっと待った!それは流石に離れすぎ―」
「本来種族特有の手先の良さが、彼女には備わっておらず、何をやっても失敗続き。これらの理由により私のクラスに入った」
ハクリの言葉を気にすることなく、ヤヨイは話を続ける。あくまでハクリの質問は後回しらしい。
すべての説明が終わり、ハクリはジトーっとした目でヤヨイを見つめる。
「……すまないな。質問を許そう。私が答えられる範囲なら答えようじゃないか」
「……なら―」
一通り目を通した資料に目を通しながら、ハクリは気になった事を質問してみた。
「一つ目に、クラス分けの方法。二つ目に級分けされた魔法について。最後に俺達のいるクラスが周りにどう思われているのかを教えてください」
ハクリが質問を述べ終えると、ヤヨイは「ほう…」と言って回答を述べる。
「我が校のクラス分けは第六種が定めた方法により、筆記試験、魔法技術試験、種族別試験の三つに分かれている。はじめの2つは皆共通の内容だが、最後の種族別試験だけは各種族特有の試験を受けてもらう。その結果によって欠陥クラスか通常クラスかを分けるんだ。AからFまでの6クラスまでが各種族のクラスとされ、君たちのいるクラスだけが種族分けされずに集められる……これでいいかな?」
ヤヨイの説明にハクリは「はい」と静かに頷いた。ヤヨイはハクリの質問に答える為、再度口を開く。
「二つ目の質問だが、魔法…についてだったね。授業でもやっただろうが、魔法には階級が振られている。誰でも扱える初級魔法。少し練習すれば大概は扱えるようになれる中級魔法。本当に極めたものしか扱えない上級魔法の3つ……。妖精族と天人族は生まれながらにして中級魔法を扱えるようだね…」
今のヤヨイからの回答に、ハクリは沈黙で返す。
「最後の君達の周りからの評価だが……。私の口からは言えない……で構わないか?」
「十分です。ありがとうございました」
ハクリがそう言うと、ヤヨイは何やら不思議そうな顔をしていた。
「……君は彼女達自身の事が気にならないのかい?何故あんなにも周りより劣っているのか…その理由が知りたいとは思わないのかい?」
ハクリにでも分かる。今のヤヨイの言葉は意思に背いて放たれた言葉だと。彼女自身この現状を受け入れるだけで、随分と厳しい事なのだ。矛先をどこにも向けられず、歯がゆい気持ちでいっぱいなのだと、ハクリはそう思った。
「それはヤヨイ先生から聞くことではないと俺は思うんです。自分が聞かれて嫌な事を、自分の知らない所で知られるのって嫌だと思うんですよ…俺は自分から俺に伝えてくるまで待ってるつもりです」
真剣かつ真面目な表情で語られた言葉は、ヤヨイの事を安心させたようだ。薄く笑みを浮かべながら、資料を片手に部屋を出ようとする。
「……君になら任せても大丈夫そうだ……あとは任せたよ。彼女達を君が導くんだ」
「……俺にそんな大役が務まるかは分かりませんが、力の限りを尽くします」
ハクリがそう返すと、ヤヨイは部屋を後にした。
「………………」
1人部屋に残り、頭を働かせるハクリ。
「……よし」
対等に助け、助け合う関係になろう。
希望論に聞こえるかもしれない言葉を、ハクリは心中に釘づけた。
「私は行くですよ…さっさと準備しやがれです」
遠くを見ながらぼーっとしていたハクリを刺激するように、リリィが声をかける。
「おう。そろそろこっちも動くか」
ルリに無言で合図をし、目的地へと駆け出すハクリとルリ。シノアは2人を目だけで追うと、正面を向き直した。
「リリィさん、準備は大丈夫ですか?」
「……でえじょうぶですよ…多分」
自身なさげなリリィの言葉に、シノアは苦笑した。
「大丈夫ですよ。恥ずかしいのはこれっきりですからね!」




