開催!
ここでハクリ達の運命を分ける『種族競技会』のルールを説明しよう。
本大会は急な決定な為にそれぞれのクラスで1回ずつしか試合を行わない。
ハクリ達のクラスであるαクラスは先週戦った竜人族しかいないクラスであるDクラスとしか試合をしないというわけだ。この一試合でハクリ達の運命を決めるというのだからそんな軽いもので良いのかと思われるが、ハクリの考えではこの作戦はDクラスにしか通用しないものとなっている。
話を戻そう。次は『種族競技会』の項目である、『サバゲーみたいな陣取り合戦』のルールを説明しよう。
制限時間は1時間。出撃メンバー人数はハクリ率いるミュードクラスの人数に合わせた8人となっている。各チームは何処にあるか不明である相手陣地の旗を奪還、破壊すれば勝利となる。耐衝撃魔法を使っているので、相手チーム、自分チームへの攻撃は可能となっている。ただし精神的な攻撃は不許可。
ステージは妖精族の森を使った森林ステージとなる。
ちなみに不正行為や危険行為は、森の妖精が厳重かつ慎重に、見つからないように見張っているのだとか……。
「それでは各チームは配置について下さい。準備が整い次第合図となる通信を本部に送って下さい」
「……いよいよ始まるのね…」
どこか不安気なユリがぼそっと呟いた。
「ユリは不安症だなー。大丈夫だって。僕達には作戦があるんだしさー」
ユリとは逆に余裕に満ち溢れたミルは、欠伸をしながらそう言う。
「まぁ私はこれから黒歴史を作りに行くからね…憂鬱で死にそうよ……今から恥ずかしさで死にに行くけど」
「あ、あはは…………頑張って…」
ミルの苦笑がユリにはきついものだった。何より自分がこれから受ける苦痛よりはましなものである。
『選手の皆さんは早く配置に付いてください。カウントダウン始めます……10―』
「よぉし……ひと暴れするぞー」
「うぅ……これつけるのやだなー」
ミルが戦いに備えて構えるように立つのに比べ、ユリは制服のポケットからハクリに貰ったものを取り出す。これがないと始まらないとか訳の分からないことを言っていた。
何の為に着けるかは分からないが、ユリはしぶしぶそれを着けた。
「3……2……1……始めて下さい」
そのアナウンスと同時にユリとミルは森林の中を一直線に駆けていった。
「敵影確認されず…安全だよ」
「よし……行くぞ」
「何もそこまでしなくて良いだろ。所詮欠陥クラスなんだしさ。現に俺達は先週完膚なきまでにひねり潰したじゃないか」
3人1組で森林の中を行動する竜人族の生徒達。1人余裕満々の男子生徒にくらべ、他の2人は警戒に警戒を重ねていた。
「何言ってんだよ。もしかしたらってのがあるだろう。ここは慎重に偵察して情報を多く掴んで拠点に戻るんだよ」
「そうだよ。先週は私達が勝ったけど、もしかしたらってのがあるかもしれないじゃない」
真面目な男女の言い分に、余裕な生徒は罵るように鼻で笑った。
「ふん。そんな事起こるわけないだろ…なんつったって欠陥クラス―」
「私達が何?」
「「「っ!?」」」
後方から聞き知らぬ声が聞こえ、目を見開いて振り返る3人。振り返ると、そこには妖精族の少女が立っていた。
「……あれは…」
「エリエよね……うん」
「……いや何か違う気が…」
まず3人が気になったのは妖精族の少女がどうやって後方に回り込んだか……ではない。
「ふふっ。聞こえるわ…聞こえるわよ……あなた達の恐怖の声が…口に出さなくても心を見透かせる私の目にはお見通し……」
黒い衣装に身を包んだ妖精族の少女は意味の分からないことを口にする。どんな反応をしたらいいのか分からず、ただその眼帯に指ぬきグローブを着けたユリを見つめていた。
「時は来た…破壊の衝動に駆られ、この地に召喚されし召喚者達によって私の封印は解かれた。我が依り代に宿りし我は汝らの絶対的破壊を求めこの地を歩む……」
「「「…………」」」
思いも寄らない出来事に3人ともどう対応すればいいのか分からなかった。ただ共通して思っていたことと言えば、その行動言動そのものが 【痛い】ものだということ。
「歌え、踊れ、争うがいい!我が鎮魂曲の奏でる安息の元で!」
その言葉とともにユリは右目につけた眼帯を引っ張る形でちぎりとる。そして紅く染まった真紅の瞳を晒すと同時に、手にした眼帯を初級魔法で生成された火で燃やし、空へと投げ放つ。
警戒したように戦闘態勢をとる3人の竜人族。ユリはその光景を見てニヤァっと口を緩ませた。
「はぁ…お疲れ様ユリ」
「なに!?」
またしても後方から声が聞こえ、警戒度最大の3人は再度後ろを振り返る。
「……やってやったわよ。もう恥じらいなんてクソくらえだわ…」
ユリの絶望を込めた一言にミルは苦笑して返し、深く息を吐いた。
「さ、始めよっか。僕が相手するよ」
「寝言は寝て言うものよ…あなただけで私達の相手が務まるとでも?」
「へへっ。欠陥クラスがしゃしゃるんじゃねぇぞ。俺だけで十分だ」
そう言いながら出てきたのは先程かは余裕な竜人族の生徒。未だニヤニヤと余裕の表情を浮かべる。
「手加減はしねえからな。俺達に喧嘩を売ったことを後悔させてやる」
向き合った2人は勇ましい翼を広げ、戦闘態勢に移る。
「…………良いの?」
「俺は知らん…あいつは勝手だからな、やらせておけばいい……俺達が負けることは―」
言葉の途中で真面目な男子生徒は言葉を飲んだ。少し目を離し、目線を戻した先に見えた光景に絶句したのだ。
「あら、やりすぎちゃったかな?」
「うぅ…て、てめぇ何しやがった……」
ミルの足元で倒れ伏す余裕な男子生徒、その光景を見たユリ以外の人間が皆その光景に驚愕していた。
目を龍のようにギラギラさせ、勇ましい翼を伸ばし、殺気に似たような空気を醸し出すミルは不敵な笑みのまま残った2人に視線を向けた。
「う、嘘だろ…欠陥クラスにこんな奴がいるなんて…模擬戦の時はこんな事は―」
「に、逃げましょう…やられるわ!」
そう言いながら帰還式魔法陣を展開する男子生徒。ミルはその瞬間を逃さなかった。
「逃がさないよ。僕の目が届くうちはどこにもね…」
「がっ!」
「ひっ!」
二人の間に割り込み、男子生徒を蹴り飛ばしたミル。女子生徒は恐怖のあまり尻餅をついて後ずさりを始めた。
既に異性を2人戦闘不能にしたミルは留まることを知らない。後ずさりをする生徒に歩み寄った。
「や、やめて……」
「ふふっ。さっきまで僕達を馬鹿にしてたじゃないか…来なよ。僕は逃げないからさ…」
そう言いながら手を振りあげるミル。女子生徒は顔を真っ青にして口を大きく開けた……瞬間―
「止めなさいミル。もういいでしょ。十分よ」
ユリはミルの腕を掴む。ユリの声掛けによりミルの龍のような目はいつもの目に戻った。振り上げた手を戻し、深呼吸をするミル。
「……ごめんごめん。ちょっと本気になっちゃった」
笑いながらそう言うミルを見て、ユリは呆れたように息を吐いた。
「…この子どうする?」
ユリが指摘したのはミルの足元で気絶している女子生徒だった。あまりの恐怖に意識を失ったようだ。
「……良いでしょ。ハクリ君が言ってたのは時間稼ぎか殲滅でしょ?なら僕達は十分目的を果たしたし、このまま放置してても問題ないと思うよ」
「そうね。なら私達は次行きましょ」
そう言いながらまた奥の方へと進むユリ。ミルは「うん!」と元気に返事をした後、ユリの後を付いて行った。
慣れない戦闘描写……段々と成長していくつもりです……




