死
「…死んだか」
「……」
瞳を閉じ、身動きひとつ取らなくなったハクリを見下し、クロノはそんな事を呟く。所詮は新設の情報班…。古くから組織の柱になる特攻班には適わなかった……。
クロノに幻滅という感情が芽生えたーー
「……」
自分の足元に横たわる幻滅の対象に目を下す。長い間、戦闘で自分に触れる者などいなかった。しかしこの男は…易々と自分に触れたのだ……期待しないわけがない。
「…貴様の力はもっと見定めるべきだった。今更ながら惜しいと後悔をーー」
言葉の途中でクロノが口を止めた。自分の視界に入る敵の死体を、今見ているはずなのだ。
先程から動きを止め、今度こそ死んだと確信していた。しかし、今こうして動き出しているのは、自分が幻覚でも見ているのだろうか?
自分の目を疑う事はおかしい事ではない。しかし、今自分が見ている光景はおかしい事なのだ……
「…まさか」
左目の刻印がこれまで以上に赤く光を放っていた。その光の元となる粒子は、地面から出てきている…。クロノの脳裏に1つの過程が浮かび上がる。
「魔力を吸い上げるのか…その呪術は…」
ハクリがゆっくりと体を起こす。クロノはそれを邪魔する訳でもなく、その後継を間近で眺めている。その表情には微かに笑みが見え、身震いさえしていた。
「…面白い」
「面白いかどうかは知らねぇけどよ、やっぱり俺はこんな所で負けられねぇんだわ…これは俺だけの問題じゃないからな!」
手上に魔法陣を展開するハクリ。その魔力量は吸収した事により、莫大なものになっていた。
「いいぞ!俺は貴様のような好敵手を待っていたのだ!」
死から一転…ハクリの覚醒の刻は少しずつ近づいていく…それを目の当たりにするのはクロノである事を、両者ともにまだ知らない…




