臨終の
「……」
「……」
「…………」
「……」
沈黙の時間が両者の言葉を遮る。話さなくても分かる…この人は強いと……
「貴様らの企てもここで終いだ。私の笛の音色に魅了され、貴様は何が起きたか分からずに負ける…そう宣言しよう」
和風チックな戦闘服に身を包んだ男が、弓を引くユアに向けてそう言い放つ。ユアは退けを取らずに戦う意志を見せつけていた。
「私達はもう負けない!あなた達には大人しくこの作戦から引いてもらう!」
「…それが貴様の答えなら、私はその意志に敬意を払い、手を抜かない事を約束しよう」
手に持った笛を口元に寄せる男、何を仕掛けてくるか分からないその仕草に、ユアは一層警戒を強めた。
「我が名は牛若丸…。前命での無念…イランに貰い受けたこの命…今度は自分の赴くままに生きる。その壁となる存在は排除する!」
甲高い音色が鳴り響く。旋律が刻まれ、ユアは迷わず弓を放った。
「第一矢!」
ユアのは放った矢は正確に牛若丸へと向かっていく。そして、寸分違わずその足へとーー
「……??」
ユアの表情が曇る。あまりの一瞬の出来事に、自分の目を疑った。確かに自分は対象に向けて矢を放った。そして、その矢は正確に急所を外し、命中するところだった。しかし、ユアの放った矢はどうした事か牛若丸の体をすり抜けて行ったのだ。
「嘘……なんで」
そう言ったところでぐらっと視界が歪む。気がつくと、自分の周りの景色が歪な形に歪んでいる……。まともに立っていられないユアは、思わずその場に手をついてしまった。
「なに……これ」
「我が技術。幻惑笛。貴様は私の術中にある。先ほど打った矢も、私が見せた幻覚に過ぎない」
「幻…覚…私は……」
「そのまま無限の闇に沈むがいい……。貴様は永遠に眠るのだ」
頭に流れ込む笛の旋律と、目の前に広がる屈折した世界……ユアの意識がある遠のいていく……自分が自分じゃなくなる気がする……世界が遠のいていく……
「こんな…ところ…で」
ユアの脳裏に今までの記憶が浮かぶ。
これが走馬灯なのだと悟った時、ふと…ほんの一瞬だけ……ある人物の顔が浮かぶ。
「これは……」
いつも優しくしてくれる……ちょっと抜けたところはあるけれど、そこがまた印象的な…私のーー
「隊…長」
「……立ち上がるか」
弱々しい足どりで、ユアが地面を踏み込む。荒い息遣い、フラフラする体を何とか起こし、瞳に決死を刻みつける。
「まだ追われない…隊長の……私の……皆のために…………っ!」
手に持った矢を自らの足に差し込む。激痛を代償に、自分を取り巻く幻覚の数々を取り除いた。
「驚いた…私の術の前にここまで抵抗する者がいるとは」
「私とあなたとじゃ背負っているものの重さが違う…私は負けるわけにはいかないの……だからーー」
足の矢を抜き取り、そのまま弓を引く。牛若丸の技術も、激痛が走る今だけは意味をなさない。しかし、牛若丸は距離を開けるなどする訳でもなく、ユアをじっと見つめ、未だ笛を奏で続けている。
「臨終は私の意思…私の意思は殺さない…第二矢……臨終の慈悲……」
「ほう…技術を調整させたのか……」
ユアの指から、矢先に血のついた矢が放たれた。




