個人練習!
「私達はグランドルのクラスであるDクラスと試合を行います。グランドルはミルさんの種族で、力強いんですよね…」
「問題はそこなんだよねー。ハクリはそこまで頭に入ってんのかしら……」
周りがぞろぞろと練習場所を探しに行く中、シノアとユリはそんなことを話していた。ハクリとルリは知らないだろう竜人族はパワーだけならどの種族よりもトップクラスである。しかし知能は下回っていて、そこを加えると善し悪しは五分五分である。
「…ルリさんはどう思っているのでしょうか……ハクリ君の作戦に意義があるわけでは無いのですがルリさんの事も関わっているのですし……」
「そうよね…あの決め方は即興かつハクリの独断で決めたっぽい所もあるし―」
「私がどうかしました?」
「っ!?ルリ!?いつからそこに!?」
「私は最初からいましたよ?」
ニコッと笑いながらそういうルリだが、2人は全く気配を感じなかった。驚きのあまり呼吸を乱していたシノアは深呼吸をすると、先程の疑問を直接ルリに聞くことにした。
「ルリさんはハクリ君の作戦に意義は無いのですか?」
「はい。ありますよ」
明るく笑いながらそうぶっちゃけるルリを見て、ユリとシノアは驚きを隠せなかった。何よりルリはユリ達が知る限りはハクリとずっと行動を共にしており、それなりに信用もしているはずだ。そのルリがシノアの質問にはっきりとYESと答えた。
「……ルリが考える意義って何?」
ユリの率直な質問にルリは人差し指を立てて述べた。
「マスターの事ですから多分考えがあるのでしょうけど、私からするともうちょっと真面目にした方が良いように思うんですよね。ユリさんはお気の毒だとつくづく思います」
ルリの意見に二人は「おぉ…」と言葉を飲んでしまう。いつもハクリの行動には大体従うルリがここまでハクリに対して意見を述べるのはユリ達には初めての光景だったからだ。
「……てか、ルリにまで反論されるハクリもハクリよね……」
「そう…ですね。あはは……」
「マスターもマスターで全力なんですよ。そこは見逃してやって下さい……」
お互いが苦笑しながら言葉を交わす。この現況はハクリが作り出したわけなのだが…もちろん本人はそんなことを知る由はない。
種族競技会まで約3週間。時間は十分すぎるかと思えたが、そう簡単にはいかなかった。
「違う!もっと右手をこうだ!」
「こ、こう……?」
「そしてそこで手のひらに炎を出して!」
ユリの練習はハクリの指導のおかげで順調だった。普通の妖精族と違って、ユリは各魔法の消極的なものを手のひらに出すことしか出来ない。
例として火属性なら炎を、雷属性なら静電気を起こすくらいである。しかしまぁこれのおかげでハクリの理想にはかなり近づいていた。
「違う!もっと不敵な笑みで言うんだよ!」
「あーもうっ!分かんないわよ!」
ハクリの熱血特訓はまだまだ続く。
「実演室が借りられて良かったね。僕達のクラスはいつも後回しだから早めに予約しとかなきゃいけないからね」
「では早速始めましょうか……」
「準備万端いつでも来いです!」
「僕もおっけー。いつでも的を出していいよ」
軽く準備運動をするミル。シノアとリリィは両手に液体の入った瓶を、そしてその瓶を体中にストックしていた。
「それじゃあ……始めです!」
シノアの号令と共に大量の瓶が四方八方に投げ飛ばされた。
「おりゃりゃりゃりゃー!」
「さ、さすがリリィさん……腕力はミルさんと張るだけありますね…」
「……そろそろかな」
瓶が地面に着きそうになった時、ミルは目視できないほどので飛び回った。
「んールリいないなぁ…飽きちゃうなー」
「…………いた。南西49度…」
「ありゃ……見つかっちゃいましたか……」
学園内の茂みでかくれんぼをしているミャン、ヒノン、ルリの3人。辺りは薄暗くなっているというのにヒノンは的確な位置を探し当てる。
「……さすが獣人族の耳と鼻ですね……これじゃ私見つかりっぱなしですよ」
「……そんな事…ない。私は落ちこぼれ…だから、そんなに耳も鼻も…普通の人よりは…弱い……から」
そう言いつつも照れるように顔を赤く染めるヒノン。
「私だって頑張ってるもん。夜は私の独擅場だもーん。早く次やろうよ!次!」
吸血鬼の本能か、夜になると一段とテンションが上がるミャン。ルリはため息を零しながらも次の隠れ場所へと駆けてゆく。
「いーち、にーい、さーん、しーい、ごーお―」
「……ミャンさん……それ……いらないと思う」
「えーそっかなぁ?だってかくれんぼって言ったらこれじゃない?」
「探し始めるのは……ルリさんから合図が出た時……だし」
ミャンは「んー」と顎に指を当てる。
「……それもそうだね!大人しく待ってよー!」
「おー」っとミャンは空に向かって拳を上げる。ヒノンは戸惑いながらも恐る恐る拳を上げた。




