予告と失望
「遅い!」
「っ!」
ハクリの予想は大まかに外れた。
前回の戦いでの経験を活かし、今度は最初からクロノとの距離を開けずに戦おうと試みた。しかし、クロノはそんなハクリの思考を暗示していたかのように、対策をとってきたのだ。
我ながら迂闊だったと痛感する。
「何度やっても同じ事だ。貴様が俺に近づくようなら、遠慮なくこの反射魔法の餌食になるだけだからな!」
反射魔法とは、文字通り相手の攻撃を弾き返す魔法である。物理的なものから何でも、種類は豊富だが、使用できる者は限られている。前回使っていなかった事から、対策用にと仲間の誰かがクロノにかけたのだろう。
「反射魔法なんて卑怯な真似しやがって!そこまでして俺に勝ちたいかよ!」
「当たり前だ。俺は腐っても組織の特攻班…負けなど許されるわけがないのだ!」
クロノが自らハクリとの距離を詰める。咄嗟に反応したハクリは、捌きの構えをとった。
「あまい!防御に回っている暇があるなら隙でも突いてみろ!」
攻撃をしている間は自身の技術が使えないクロノも、反射魔法というものを身につければ、最早防御ばかりに回る必要はなくなる。ハクリの様々な攻撃を避けるほどの俊敏さと瞬発性を兼ね備えたクロノの攻撃は相当なものだった。
スピード任せの攻撃は、ハクリの腕の隙間をくぐり抜け、直接体に当てられる。あまりの速さに、ハクリは捌ききれずにいた。
「っ…捌きが……当たんねぇ」
クロノの何回目になるか…その攻撃は止まることを知らない。特攻班としての意地とも言えるその執念は、クロノの積極性と大胆さを一気に引き出させていた。
「まだだ…俺が貴様から受けた屈辱はまだ晴らされんぞ!立て!まだ終わりではなかろう?」
「……当たり前だ。まだ終わらねぇよ…」
よろよろと立ち上がるハクリに、クロノは容赦なく次の攻撃を加える。今のハクリに、クロノの攻撃を避け切る能力はない…。それは明白だった。
「そんなものか!」
「っは!」
クロノの蹴りが横腹に喰らわせられる。ダメージが重なり、動きも段々鈍くなってきた…。体は吹っ飛び、地に叩きつけられる。
「貴様の力はこんなものか!俺が覚えた怒りは、こんな貧弱な貴様に向けられたものなのか!」
クロノが苛立ちを隠すことなく露わにする。明らかな実力の差。なんの対策もしてこなかった自分の無関心さ…全てが今回の敗北に繋がった。
「…俺は……負けたのか」
意識が遠のいていく。クロノの怒声も次第に遠のいていき……
「…………」
その意識は閉ざされようとしていた。




