死霊術
「シルフ……お前今なんて」
「あいつらのことを信じよう。ニノ」
「あいつらを殺した奴らの仲間を信じろって言うのか!?」
「俺が思うにあいつらは本当に関わっていないように思える。あくまで俺の推測だがな」
「……」
唐突なシルフの提案に、ニノは頭を抱えずにはいられなかった。先程誰かに会った時に洗脳でもされたのかと思考を巡らせてみるが、シルフの真っ直ぐな瞳を見た限りその可能性は皆無だと気付かされる。
「何か弱みでも掴まれたのか?」
「違う。これは俺の本心であり、願いだ」
「……少し考えさせろ」
真っ向から否定しなかったニノに、シルフは安堵の息を漏らす。どこか俯き気味のニノは、場所を移動しようと提案した。特に断る理由もないので、シルフはあとに続く。
「俺はどうしたらいいんだ。仲間を失って…信じかけていたやつをまた疑って…そしてまた信じろって言うのか……」
「お前の好きにすればいいさ。俺はお前について行くからよ」
「…そうか」
「迷ってるんなら頼れよ」
「俺が頼っていないように見えるか?」
「俺じゃなくてだな……」
「…………」
しばし沈黙が訪れる。何やらニノは顔を染めているご様子……なんとなく何を考えているのか察しが付いてしまい、思わずにやついてしまった。
「…………」
しかし、その笑みは一瞬にして警戒の表情へと変わる。
「……ニノ。隠れてろ」
「……分かった」
シルフが促すと、ニノは近くの物陰に見を潜める。それを確認したシルフが振り返ると…
「みーっつけた」
「なんだお前。さっきのヤツらとは違うんだな」
「先程は僕の部下が醜態を晒してしまって済まなかったね。これも隊長である僕の不手際が起こした事だ。何か希望があれば聞くよ?」
「そうか。ならここで死ぬかさっさと帰ってくれ」
「うーん…それはごめん。僕にも僕の立場ってのがあるからさ。だから代わりに君を楽に殺してあげるってのでどうかな?」
「それは俺が無理だ」
「そう…なら僕は僕でやらせてもらうよ。ちなみに僕はシュベン。仲間は遠くにいるから安心してね」
恐ろしく不気味な笑みを浮かべたシュベンの足元に、紫色の魔法陣が形成される。
「…魔力が感じられない。擬似魔方陣か?」
「さっすが神獣シルフェスト!獣とはいえ神だから知ってる事は知ってるんだね」
「いちいち癇に障るやつだな。そんな事は良いからさっさと仕掛けてこいよ」
「威勢がいいのは認めるけどさ、僕の技術を侮らない方がいいかもよ?」
「どんなに強力な攻撃も、当たらなきゃ意味ねぇだろ」
「そうかい……なら、お言葉に甘えて」
不敵な笑みと共に完成された武装技術が発動される。
「武装技術発動。名称、死霊術」
「死霊術……?」
「ねぇ、この辺って廃墟なんだよね?」
突然シュベンが変な事を問いてくる。
「…それがなんだ」
「……なら、死体の一つや二つ、この辺に転がっててもおかしくはないよね?」
口角をギリギリまで上げ気持ちの悪い笑みを浮かべる。そしてその刹那、シュベンとシルフの周りの地面が不気味に蠢き始めた。
「…そういうことか」
「名前の通りだから面白みがないよね?大丈夫。これからもっと楽しい事になるから!」
死霊術…動物の死体などに擬似的な魂を与え、自分の操り人形と化させる魔術の類だ。
なぜ魔力が感じられないのに発動できたかは気になるが、今はそれを気にする暇はない。
地面から再び姿を現した腐敗した屍たち。数は十数体……皆腐敗臭がすごく、思わず鼻を手で抑えてしまう。
「クソ気持ち悪い魔法を使うんだな。今どき死霊術なんて、嫌われる対象真っ只中じゃねぇか」
「僕の死霊術はそんじゃそこらの魔法とは違うさ。まぁそれも、これから分かる……」
「へっ…さっきから言ってるだろ?言葉はいいからさっさとこい」
「あぁ分かってるとも…でも、君の後悔は与えないよ?」




