生み出す者
まだニノが歩みを覚えた頃…ニノは幸せな家庭に恵まれていた。いわゆる貴族というやつで、それはそれは繁栄していたようだ。
しかし、それはニノが2歳になった頃、唐突に崩壊する。
突如現れた自然災害と称される魔獣の群れの進行により、ニノの住む街は殆どが跡形もなく砕け散った。後にニノが知った真実は、とある人間による魔術交渉の失敗だった。この真実を機に、ニノは人間社会に不満を募らせる事になる。
家も身寄りもないニノは、毎日の寝床と食べ物を気にする生活を仕方なく送っていた。
ある日、ニノがいつものように店のものを万引きし、捕まってしまうという事件が起きた。この時捕まったニノは国籍がなく、大人達の暴力の対象となってしまう。再びニノの不満感が大幅に募っていく…それと同時に意識が無くなっていく……その時だった。何かを思い出したように、ニノは俺の名を呼んだのだ。
「へへっこいつ腹パン一発で意識飛ばそうとしてるぜ」
「気付けにもう1発入れてやれよ」
「……シ…ルフ」
昔から何もかも嫌いだ。幸せそうなやつも俺の周りを歩くやつも俺を罵るやつも…誰一人俺の気持ちを分かるやつなんてーー
「……」
ニノは気が付かなかっただろうが、俺は確かにニノの側でニノを見ていたのだ。幼い頃はよく一緒に遊び、親に話しても存在を信じてもらえなかった……。しかし、ニノの心情が不安定になった時、俺はニノに見られなくなった。
ー今必要なのはお前じゃないー
遠回しにニノがそう言っているような気がした……
「ニノ…お前は俺を覚えているか?」
「……シルフ…俺は……」
「口調も男っぽくなっちまって…小さい頃はあんなに可愛いお嬢様だったのにな」
「シルフ…俺には……お前がーー」
「あぁ……分かってる。俺はお前が生み出した神の獣だ…お前に初めて会った時から…俺はお前のものだ」
多分この言葉はニノには届いていないだろう…そして、自分の力には到底気が付かないのだろう……
「お前の力は暴走させない。俺みたいな神の獣は……俺だけで十分なんだ」




